第6話 地味で狙いやすい14歳
自分の時は一人だったが、最上が来る日に駅前まで来て欲しいとのお願いがあったので、待ち合わせ場所に時間数分前に到着した。
そうは言っても、駅前とアパートとでは徒歩で十分かからない好立地だから遅れることはまず無い。
俺はキャップに眼鏡(いつも通り)とマスク、それに肌寒かったのでコートを羽織り、ボトムスはデニムジーンズという一切目立たない服装。
(服装知ってるし最上もすぐ見つけられるだろ……とか思ってたのに)
「ねえ、オニーさん。暇ならお茶しない?」
「イケメンすぎて声かけちゃった、近くのスタバ行こうよ」
マスクで少し眼鏡が曇っていたので、マスクと眼鏡を外して眼鏡のレンズを拭いていたら二人組の女性に話しかけられた。
まさかこんな都会に来て逆ナンされるとは思ってなかった。
そして世間一般的に見ると自分がイケメンな部類なのだと初めて認識した。
イジメられていた期間が長かったし、中学ではボッチを貫いていたから初めて言われた。
一応、兄貴がかなりモテる事は知っていたが、兄弟でも周囲からの扱いが全く違うから気にもした事が無かった。
前髪は真っ白なのでキャップの中に隠していたからイケメンという認識をされたのだろうか。
そう考えるとこのスタイルは割と良いのかも知れない。
(……って、そんな訳が無いか…マジでイケメンならイジメられないのが世の中だし。相当暇なんだな)
嫌な気分ではないが、今回は先客が居る。
眼鏡をかけ直してから笑顔で対応する事にした。
「嬉しいお誘いですけど、今日は待ち合わせあるんで…」
と言っている途中で、女性達の後ろにスーツケースを引いたパーカー娘を見つけた。
フードを被ってる事に加えて、待ち合わせ前に聞いた特徴と同じ服装なので間違いないだろう。
「すみません、もう行きますね」
「…えっ、あっ…はい!」
「邪魔してごめんね!」
最後の方はずっと顔見られてただけな気がするが、それは置いておき。
俺は辺りをキョロキョロと見回すパーカー娘の後ろ姿に声をかけた。
「最上、こっち」
「あ、天ぎ……り……?」
問題なく最上だったが、彼女は俺のことを見るなり少し声色を変えた。
「…そうだけど。さっきこっち見てたよね、気付かなかった?」
ベンチの横に立っていた俺を一瞬見たはず。
「…女の人に絡まれてたから、似た服装の別人かと…」
「あぁ、まあ…うん。俺も初めての体験だったけど」
「初めて…?」
「最上、それ持つよ」
「あ、ありがと…」
彼女が引いていたスーツケースを手渡して貰う。
それはそうとまるで経験値が有りそうみたいな反応をしているが、そんな訳が無いだろう。
「少し前まで中学生なんだから当たり前でしょ…」
「高校入学前に体験する事でもない気がするけど…。今の天霧を見ると納得。格好いいと思う」
「…そう」
適当なお世辞を受け流すと、歩き出そうとした足を止めて、もう一度俺の顔を見上げてきた。
「……天霧ってそんな…」
「そんな……なに?」
「…ごめん。別に、なんでもない」
絶対に何かあるけど、言おうとしたことが上手く言葉にならない時があるのは何となく分かる。
「そっか、じゃあもう行こう」
「…うん」
アパートに着くまで俺達の間に会話は無かったが、歩いている間にほんの少しだけ最上の独り言が聞こえて来た。
具体的に何を言っていたのかまでは分からなかったが、「眼の色…」という部分は少しだけ聞き取れた。
正直それに関しては最上とあんまり変わらないと思う。
それはそうと、アパートでは偶然か必然か、空いていた隣の部屋に彼女が入るらしい。
俺が端っこの部屋なので、隣人は彼女一人という事になる。
何処の部屋も静か過ぎて人が居ないんじゃ無いかと思うくらいなこのアパートだが、これでほんの少しだけ賑やかになるだろうか。
(……いや、ならないな)
一人部屋で大声を出して歌ってたりしない限りは、賑やかさは無いだろうし、最上はそこまで良識のない人間でもないだろう。
「…は、入らないの?」
「あ、入るよ。お邪魔します」
「お邪魔じゃなくて、お手伝いだけど」
チラッとスマホの画面を覗くと、時刻は午前9時31分と表示されていた。
中は俺が来たばかりの時と同じ、これといった特徴の無い新しい部屋。
大家さんの掃除が行き届いてる事だけはよく分かる。
「よし、じゃあ…最上は先に寝室作ったら良いと思う。俺は取り敢えず大きめの家具かな。置く場所決めてるか?」
「あっ、決めてある。えっと……間取りは知ってるか。テーブルがこっちで…」
最上からの指示を受けながら部屋の中に荷物を整理していった。
到着が9時半頃、そして今ある荷解きを全て終わらせたのが13時になる寸前だった。
おおよそで4時間以上の作業を終えると、最上は「…終わった…時間かかった」とソファに転がる。
その姿を見て、俺は玄関に置いてあったコートを羽織り直した。
「最上、コンビニで昼飯買ってくるけど…何が良いとかあるか?」
「あ、なら私も…」
「休んでなよ、疲れたろ」
「…カップ麺。キツネうどん、あとお茶。お金は後で渡す」
「分かった」
外に出ると、予想通り少し肌寒さを感じた。
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