第4話 パーカー娘と拗らせ野郎

 これは以前に俺が覚えた疑問の一つ。

 イジメられていたから外見にコンプレックスがあるのか…というもの。

 果たしてそれはどっちが先だっただろうか。


「イジメられたからコンプレックスになった」のか、それとも「コンプレックスだったからイジメられた」のだろうか。


 中学から隠してるが、高校に行っても隠し通すつもりだったから、もうそんなのは気にしてなかった。


 でも、俺は彼女と出会った。


 きっと俺と同じくらい、もしくはそれ以上に言われる事が多かっただろう彼女に。


 俺は自分の外見にとやかく言われるのが嫌だったから隠していた。

 彼女を見た時、外見については何も言わない様に気を付けた。


 ある程度目立たない様にはしていたが、俺に見せた時にはそれを気にした様子すら無かった。

 どんな理由があったらそれを気にせずに、人前に立ってられるんだろう。


(…半月もしたら一人暮らしになってるけど、その時までに考えるか、それとも、彼女に相談するべきか…)


 と、そこまで考えて首を振った。


 多少境遇なり、似てる部分はあるかも知れない。ても俺と彼女ではわけが違うだろう話した所で俺の悩みが解決するわけではない。


「…いや、寧ろ悩むきっかけになってるのか…。あの公園寄らなきゃ良かったかもな…」


 そうすればこうしてシャンプーを目前にブツブツと独り言を並べ立てる様な事にはならなかったのだから。


(……しばらく染めるのは止めとくか。高校行くときに隠したいと思ったらそうしよう。それまで余計に白くなって無けりゃ良いけど…)


 自分の中で完結させておきたい悩みだから、わざわざ外に出す必要は無いと判断して風呂場を出た。


 もしこのまま髪の色に手を加えなかったら高校に通う頃には、小学生の頃と同じ様な髪になっているだろう。


 唯一欠点があるとすれば、その姿に嫌悪感を抱く可能性がある人が家族内に居ることだが。

 それは俺が家を出るまで我慢してもらうか、なるべく見ないようにしてもらう他にない。


 風呂上がりに温かい牛乳に青汁とはちみつを混ぜて部屋に持っていく。


 部屋に戻る途中、琴葉とすれ違った。

 俺を視界に入れるのも嫌なのか、近付くなり顔を反らされる。


 今に始まった事じゃないから気にはならないし、今更それを直して欲しいと懇願する気も無い。


 彼女が俺を嫌うのは、俺がイジメられていた頃に彼女がその二次被害を被っていたからだ。


 それに気付いてなお解決できなかった自分を責めるつもりは無いし、それによって俺を嫌っている彼女を責めようとも思わない。

 頭が良い訳でも運動が得意な訳でもない、他人に相談する度胸もない俺には解決能力は無かったから。


 もっと言うなら、俺は自分をイジメていた奴らを恨む気だってないさ。


 なぜなら、自分が逆の立場だったらイジメはしないまでも、イジメていた誰かを止めることだってしないだろうから。

 それを止める度胸なんて無いし、他人に言ったら自分に標的が向くかも知れないと思って行動に移さない。


 俺だってそうだと思う、だから「仕方なかった」という便利な一言で自分の気持ちを全て片付けるし、それができるメンタルで良かったと思う。


 自分にとって都合の良い解釈ができるほどポジティブではないが、嫌なことに対して割り切って考えられる自分の事は嫌いじゃない。


 部屋に戻って、こたつにマグカップを置いて座椅子に腰を下ろす。


「…ん?」


 スマホを覗くと、最上から画像が送られてきている事に気付いた。


 一体何の画像かと思ったら、フードに猫耳がついたパーカーを着た最上の自撮りだった。

 いわゆる地雷系に近いやつだろう、もしかしたら彼女は単純にパーカーが好きだから着てるだけなのかも知れない。


(…こいつ、この格好で外に出る勇気あるのかな)


 寝間着っぽい格好に感じたが、そう言えば彼女は今母親の実家に居るとか何とか。

 多分自分が美少女だという自覚は有るんだろう、と感じた。


 とりあえず『これ待ち受けにしてい良い?』と返すと、二つ返事で了承してもらえたので間違いないと思う。

『天霧の写真も欲しい』

『自撮り下手だから、今度撮って良いよ』

『分かった、覚えてたら撮る』


(初めてするやり取りが、お互いの写真の話か…)


 それにしても何で突然自撮りなんて送ってきたんだろう、シンプルに服の感想が聞きたかったのか、お近づきの印にという事なのか。


 どちらにせよ宣言通り待ち受けにさせてもらう。


「……こう見ると最上ってマジで美少女だな」


 よく考えなくても疑問である。なんでこんな人と近付くことが出来たんだろうか。

 そもそも昨日のあのタイミングで、何故あの公園に居たのか。

 その公園で突然話しかけて来た俺と、偶然にも意気投合した。


 人生、人との巡り合いというのは本当に分からない物だ。


(そのせいにして、無駄に頭悩ませる事になってる俺は中々に拗らせ野郎だな本当)


 枕の上に頭を投げ出して、部屋の照明を消してから目をつむる。


「…早めるか……。一人暮らしに慣れるためとでも言えば良いだろ」


 アパートの部屋はもう空いてる筈だから、いつでも入れるだろう。

 ずっとこの家に居ても、俺は悩んでばかりな気がする。

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