第3話 コンプレックス、個性とは言えず
朝ご飯を食べ終わった後に最上と連絡先を交換して、その後は何をしようか悩んだ結果。特別な事は何もせずにただ公園で駄弁って過ごした。
午後からは最上の方にも用事があるそうなので、一足先に彼女は帰った。
会話自体、多かったわけでは無いが、お昼時までは自然とどちらも公園から足を外に出すことは無かった。
冷静に考えたら別におかしなことでもない。
なにせ、今日が知り合って二日目だ。
そんな急に女子と仲良くなれたら、俺は中学校でボッチなんてやってない。
人とのコミュニケーションが苦手なわけでは無いけど、クラスメイトとはグループワーク程度にしか接してなかったし部活のサッカーも部活強制だから入っただけで真面目に取り組んでいたかと聞かれると、自信を持って「はい」とは言えない。
結局、俺には友達と呼べる様な間柄の人は居ないし、恋人になりそうな女の子も居なかった。
もしかしたら、知り合いやクラスメイト、同級生以上に発展しないのはこういう何気ない時間に会話できないからなのかも知れない。
(…あれ?全く知らない女の子には自分から話しかけられるのに、ちょっと知り合った途端に話しかけらんなくなるこの現象って、これもまさかコミュ症なのかな…?)
同じ例が中学校でもあった様な気がする。
それだけじゃない、なんなら現在進行系で義妹の琴葉に対してだって同じ事なんじゃないだろうか。
なんとなく自分の性格の真理に気付いた様な気がした。
(でも…仕方ないよ、小学校で学んだ事なんてイジメられると辛いって知った…くらいなんだから)
仕方なく一度中学校に寄った。
理由は昨夜に先生から「教室に体育用のシューズ忘れただろ」と連絡されたからだ。
家に帰ると自転車がなかったので、俺の心の中で度々話題になっている琴葉はどうやら外出中の様子。
今週は夜勤の母だが、帰って来てる様なので、邪魔にならないよう俺は部屋に籠もっておく事に決めた。「ただいま」と誰にも聞こえない様な小声で呟き、自分の部屋に直行する。
ラフな格好に着替え直し、眼鏡とカラーコンタクトを外した。
俺は常日頃から右手にだけブラウンのカラーコンタクトをつけて生活している。
ついでに言うと週に二回くらい、ダークブラウンのカラーシャンプーも常用している。一応、自分で色を落としやすい物を使っている。
理由は単純で、
一週間放置しよう物なら前髪の七割に白メッシュが浮かんでくるし、カラコン無しだと左は普通にブラウンなのに右目は翡翠色。
それが原因で小学校では通称「パンダ」として六年間イジメと付き合う事になったし、中学校では校長先生に頭を下げてまでカラーシャンプーとカラーコンタクトの使用許可を得た。
高校だって、受験前に色々な学校に話を聞いた上で志葉高校に決めたくらいだ。
「……あー…母さんご飯食べたのかな」
食べてないなら昼飯2人分作らないと行けないなと思い直して、一階に戻ってリビングを通った時、初めてソファに転がっている母の姿に気付いた。
(…びっくりしたぁ。なんで部屋で寝ないかな…しかも着替えてないし)
「…母さん、起きて。ご飯食べたの?」
「……うぅ頭痛い。…あ、柊?ごめんごめん、寝ちゃってた?ご飯……食べたっけ…」
「もうお昼、シャワー浴びてから着換えなよ。俺はご飯用意するから」
「あぁ、うん…。ありがと」
「いいから、ほら」
血縁という話で言うと…俺と兄貴は小さい頃に母を亡くして父さんに男手一つで育てられた。
琴葉は再婚の際に、母が連れていた子だ。
兄貴は琴葉と仲が良いから、俺は琴葉の事は特に気にして来なかった。
だが眼の前に居るこの人はどうも、自分の身体のことを考えないフシが有る。
それは多分、シングルマザーとして琴葉を支えようとしていた事から来てるんだろう。
正直、一企業の代表をやっている父とそれを継ぐ予定の兄貴が居るから収入という一点だけで言うならこの人は夜勤で体を酷使してまで仕事に励む必要は無い。
でも、本人にとってはきっと大事な事なのだろうと思う。
その気持ちが分かる程、俺は大人じゃないけれど。
眠そうにフラフラと部屋に戻る母の後ろ姿を見送ってからキッチンに入った。
冷蔵庫をあさったり炊飯器の中を確認して、とりあえず卵を取り出した。
「…炒飯でいいかな」
俺と違って偏差値の高い高校、なんなら家から近くの高校に通う事になっている琴葉だが、お世辞にも家事ができるとは言えない。
日勤と夜勤を週で繰り返す形態で働いている母は、見てるだけで体を壊しそうだし、父が帰って来るのは週に二、三回程度。
兄貴はそもそも家事をする気がないので、正直俺が一人暮らしの為に家を出ても大丈夫なのかと疑問になるくらいだ。
そんな少し不安になる家族だが、何だかんだ俺以外は皆頭が良い。
そもそも俺は志葉高校に受かった事すらびっくりしてるくらいだったから。
中学で友達居なかったから覚えの悪い勉強だけは真面目にやってたのが幸いした。
それでも、琴葉と同じ所に行けるほどでは無いのが自分の頭の悪さを思い知らされるところ。
手先は器用な方だが、活かす機会は基本的に家でしかない。
丁度良いタイミングでお風呂場から出てきた母が席についたのを見て、サラダと炒飯をテーブルに置いた。
でも母が見ていたのは、炒飯ではなく俺の顔だった。
「なに?」
「…いえ…。琴葉は出かけてるの?」
「うん、何処行ったのかは知らない」
いつもなら家の中でも眼鏡はしているが、それがないのが気になったのかも知れない。
因みに視力が悪いのは翡翠色の右目だけ、だから眼鏡もオーダーメイドで金が結構かかっている。
中学校に入る前はつけてなかったから慣れてるし、それが無くても生活はできるが、眼鏡無しだと視界はほぼ半分と言っていい。
それでも家族の誰よりも一人暮らしに適正はあるだろうから、人って分からない物だと思う
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