動き出す、裁判所の時計塔

今日も学校の鐘が鳴る。

悪夢が、始まる。


授業などは形にならない。

大体教師の声はかき消される。

今日もまた1人、ターゲットが決まって罵声が浴びせられる。

明日は我が身というのに、いじめられないために他人をいじめる。

それが本心であれ嘘であれ。

誰かの嘘をでっちあげて、清華に告発する。

それをもとにして、学級魔女裁判が開廷する。

負のループが、また歯車を回していた。

そして、清華は仲裁するふりをして反応を楽しむ。


そう言えば余談なのだが、この状況はとある童話に似ている気がするのだ。

そうそう。不思議の国のアリスの「ハートの女王の裁判」に似ている。

法律に違反すれば、女王の気に入らないことがあれば、「首をおはね!」と叫んで

処刑してしまう。なんだかとっても似ている状況だった。

清華が気に入らなければ、ルールに反していれば、「学級魔女裁判」にかけて実質

処刑されてしまうから。

ならば私達はトランプ兵か。


なんて現実逃避をしていたら休み時間になっていた。

目の前で、また学級魔女裁判が始まる。

目の前で、自分の救えない、見るに耐えない景色が広がる。

「助けて」そう叫ぶ生徒を見て、心底気分の悪い笑顔を見せる清華。

自分は裁判にかけられない、辛かった。


いくら計画を立てても、協力者が居なければ全ては成り立たない。

だからいつ計画を実行するかが、大事だ。

私はいつまた裁判にかけられるかは分からない。

ただ、私は再び裁判にかけられても良い。

それで全てが晴れるなら構わない。

全部、全部。


「は〜、楽しかったぁ。瑠衣、結梨、トイレ行こ!」


いつものルーティーンのごとくトイレへ向かう。

その時、私はポケットからメモ帳を落としてしまった。

復讐計画が書いてある面を思いっきりのぞかせて。

幸い、清華は個室に入っていて見ていなかった。

ただ、瑠衣に拾われてしまったのだ。


「田中さん、これ…」

メモ帳を見た瞬間、瑠衣から笑顔が消えた。

そして、瑠衣は私に耳打ちした。


「放課後話そう」と。


ついにバレた。

良いんだ、良いんだ。

私はたとえ魔女裁判にかけられたとしても、

ジャンヌ・ダルクの如く生き残るんだ。

そう決心した放課後、私は瑠衣に会った。

ただそこで瑠衣は、思いもよらぬことを口にした。


「私を仲間に入れてほしい」と言うのだ。


「ど、どういう事?」


「私、ずっとこの学級に違和感を持っていたの。それで、最近の田中さんを見て思ったの。このままじゃ駄目だ、自分を変えなきゃって、今の現状をどうにかしなきゃって…ごめんね、急に…信じれないよね」


その後、瑠衣は私に、ずっと清華側についていた理由を話した。

瑠衣は親が厳しく、幼い頃から他の子どもがしていることをさせてもらえなかった。

そのため清華に、「瑠衣は自由だよ」と言われて、そしていじめられないために加担していた、と。


「私は、許すよ。麻衣は許さないかもだけど。きっとこのクラスの全員、いや、世界中の人がそうだよ。いじめはいけないことって知ってるけど、自分はいじめられたくないから加担して、無視して、傍観してる。でもさ、瑠衣みたいに1人が改心してなにか変えようとすれば何か変わると思うんだよね。…勿論急には許せないけど」


「そう…?」


「うん。帰り道、私と同じだよね?一緒に帰ろ!」


瑠衣は清華に一緒に変える予定をドタキャンされていた。

なんでも、例の先輩とデートに行くとかで。

私と瑠衣は、2人で会議を始めた。


いよいよ、真の魔女が裁判にかけられるときが近づいてきたのだ。

明日、清華を別室に呼び、裁判にかける。

瑠衣はクラスメイトを誘導し、他の生徒も誘導する。

いつも清華といてクラスメイトからの信頼が高い瑠衣がいなければ、この計画は実行できなかった。


さあ、後は裁判の時を待つのみだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る