昇降口と校舎裏での出来事

帰り道でのことだった。

玄関に、麻衣によく似た少女が居た。


ぱっつん前髪に茶髪のショート。

カバンに付けている兎のキーホルダー。

そして手には手鏡を持っていた。

いつも持ってた薄いピンク色の手鏡で、私も貸してもらったことがある。

いじめによって髪の毛もぐちゃぐちゃになり傷も多くなることが多かった麻衣。

だからこそ、手鏡が手放せなかったのかもしれない。

ただし、その鏡はまるで高層階から落とされたかのように割れていて、

何故かびしょびしょに濡れていた。


よく見れば、少女は髪もぼろぼろだし、制服は不自然なほどに土で汚れて砂利がついてる。肌も擦り傷だらけだった。


我慢できず、私は目の前の少女に話しかけた。


「麻衣、麻衣なの?」と。


目の前の少女はふっとこちらを向いて、無言で微笑んだ。


「麻衣…私、ずっと側で見てたのに…何もできなくて、ごめん…」


目の前の、麻衣なのか分からない少女に泣きながらすがりつく。


「本当はね、助けたかった。いじめられるのが嫌で、怖くて…許してなんかくれないよね…それでも良いの。私は、麻衣のために動きたい…」


その瞬間、体が温かくなった。


「お願いね。私、結梨ちゃんのこと信じてるから!」

そう言われた気がした。


気がつけばもう目の前に少女の姿は無く、私は1人でその場に座り込んでいた。

ああ。きっと麻衣は私にメッセージをくれたんだと感じる。

勿論身勝手な私の妄想だけど、私は腐りきったこの学級を変えようと強く思った。


靴を履き替えて、玄関を出る。家への帰り道は校舎をぐるっと歩かなくてはいけなくて、少し面倒だった。


帰り道を歩いていると、校舎の裏から清華の声がした。


「え〜、センパイ、困りますよぉ」


「でも、清華ちゃんは真面目だし優しいし頭いいじゃん?だから付き合ってよ」


清華は先輩に告白されていた。

表向き、学級外には真面目に振る舞っているのが彼女の厄介なところだ。

今すぐ大声で叫びたかった。

それは違います!って。


バレないように通り過ぎて、家に帰る。

私は部屋に入って、計画を立てた。念入りに、注意深く。


そこで思いついたのは「学級魔女裁判」だった。

昔、お母さんが言ってた。

いじめをする人はいじめられる覚悟がある人。

人を殺した人は人に殺される覚悟がある人。

だから結梨は絶対に人が嫌がることをしてはいけない、と。


つまり、

学級魔女裁判にかける人は学級魔女裁判で裁かれる覚悟がある人だけ、

ということだ。


娯楽で片付けられた命。

玩具としてもてあそばれた命。


なら、自分が弄ばれても、片付けられてもなにも文句は言えないはずだ。


私はメモ帳に計画を書く。


学級魔女裁判の開廷の音が聞こえてきた気がした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る