記録員、古賀瑠衣の独白
やっと今回の裁判が終わった。
今日の被告人はちょっと頑固だったな。
まあ、頑固なやつほど裁判は見ごたえのあるものになるから良いんだけども。
私は古賀瑠衣。裁判では嘘の記録を作る係だ。
そもそもこの裁判自体がプロパガンダという感じだろう。
「ちょっと清華ちゃんって怖いよね」と言われれば、
「意外と優しいよ!例えば…」ってフォローする。
裁判にかけられた後の被告人には
「清華ってああ見えて優しいとこあるから。多分今日は本気で怒っちゃっただけだよ」と言っておく。
尻拭いと言われればそうなんだけど。
私は裁判の様子をスマホで撮って、こっそり他のクラスに売る。
そのお金をいじめられないための賄賂として清華に渡す。
これだけでいじめられない生活が手に入れられるのであれば安いものだろう。
最初、私は学級魔女裁判にかけられた1人の被告人だった。
容疑は清華の写真を勝手に盗撮したという容疑。
スマホを見ても居ないのに滅茶苦茶な容疑だったけど、私は自白した。
だって、既にもう同じクラスの軒原麻衣が酷い目にあっているのを見ていたから。
罪を自白させられた私は清華に、先生に言わない代わりにスマホの中身を見せろと言われた。断ってもどうせ奪って見てくるだろう。一生の恥を覚悟して清華にスマホを渡す。
私はクラスの人の悪口を動画投稿サイトにアップしていた。
それを見られたのだ。普通ならばどれだけひどい仕打ちを受けるか。
しかし清華は意外にも私を咎めず、「分かるぅ、コイツうざいよねぇ」と共感した。
今思えば、私のネットでの人気さを狙っての話だったんだろう。
「ねぇ瑠衣、明日のターゲットさぁ、コイツにしない?」
そう言われた私は、単純にいじめられるのが怖くて「うん」と頷いた。
「じゃあさ、動画撮ってて?お願いねぇ。うち、必ず瑠衣の味方するからさ」
と言われ、私は翌日の裁判に加わった。
被告人の容疑は私に盗撮の濡れ衣を着せたというものだった。
私の味方ってそういう事なんだ。
その時私は、清華の思考に引き込まれた気がした。
その日の学級裁判は放課後まで行われて、被告人が意識を失うまで暴行と罵声が浴びせられた。
言われた通り私は動画を撮った。流血した所は流石に怖かったけど、自分があそこに立っているよりは何倍も良い。歪んだ思考が私を包んだ。
「あ〜終わった終わった!一緒にトイレ行こ、瑠衣」
裁判が終わると清華は必ずトイレへグループで向かう。
そして、
「今日の動画、誰かに売ってきてよ。そうしたらもう瑠衣は裁判にはかけないよ」
と言われた。
このいじめが常で、いつ晒し上げられるかが分からない学級で、恒久的に生き残れるとなれば乗らない手はないと思った。
動画なんて売れるのかと思ったが、ネット上で探せばたくさんそういうマニアの人はいるようで、意外と高値で動画が売れた。
「ふ〜ん、良いじゃん。約束通り瑠衣は自由だよ。その代わり裁判の記録係よろしくぅ〜」
動画が高値で売れた事にご満悦な清華は私にそう告げた。
「瑠衣はは自由だよ」
その一言が、私の脳をぐしょぐしょに溶かした。
この学級で生き残れるから。
勿論悪いことという自覚はあった。
でも、やってみれば意外と見ごたえがあって、学校で一緒に過ごす人もできて。
だから私にはメリットが大きかった。癖になった。
いつも私のありもしない噂を流してたアイツが。
ちょっと可愛こぶって嫌いだったアイツが。
泣き顔で許しを乞う姿はあまりにも惨めで、滑稽だった。
「何ぼーっとしてんの?行くよ、瑠衣」
私にとって清華は、悪友であり親友だ。
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