学級魔女裁判、開廷。
この教室には、妙な文化がある。
いや、最近始まったと言っても過言ではないだろう。
今年の6月にクラスの軒原麻衣が亡くなってから、それらは激しくなった。
その光景は、総じて「学級魔女裁判」と呼ばれた。
まず、学級のリーダーであるグループが一人の生徒を容疑にかける。
そして、罪を被せられた生徒はありもしない罪を自分を守るために自白しなければならない。そして言わなければありとあらゆる暴行を受ける。
罪を自白した者は実質リーダーの奴隷となり、遊び道具となる。
娯楽のように、捨て駒のように、遊ばれる。
学級のトップの御遊びといった所だろう。
何故教師が止めないか。それは教師までもが学級魔女裁判にかけられる可能性があるからだ。だから、学校も黙認していた。
「ねぇねぇ、今日も始まったよ。学級魔女裁判」
「怖いね…私は絶対かけられたくないよ…」
女子生徒たちがヒソヒソと噂をする。
その時。
パリーン!と彼女たちの足元で花瓶が割れた。
後ろには主犯格の笑顔。
そして、わざとらしく、
「あれ〜?花瓶が割れてる!皆集合!」
こうして、学級魔女裁判は始まるのである。
そうして、クラスの全員が集まれば裁判は開廷だ。
裁判長は学級委員長で真面目な皮を被った人物で、名前は黒樺清華。
麻衣を自殺にまで追い込んだ張本人に関わらず、いい人ぶっている。
これが彼女への一般な印象なのだが、この学級でこれを言えば裁判にかけられる。
記録員は古賀瑠衣。スマホ片手にプロパガンダを制作する係。
証拠人はクラスの男子たち。
「はいはい、俺ぇ、田中さんが花瓶を割ったとこ見ました!」
笑いながら証拠人はでっちあげの証拠を言い放つ。
「ふぅん…田中さん、こっち来て?花瓶を割ったのは田中さんだよね?」
遊びとして、玩具として見てる裁判長の目。
クラス中の視線が被告人に集中する。
「わ、私はやってないよ!後ろに清華ちゃんが居て…」
被告人は必死に弁明を始める。
「つまりぃ、田中さんは私がやったって言いたいわけ?」
「い゛っ…あ゛…」
裁判長は、被告人の首を締め始める。
「おい田中ぁ、嘘は良くないぜ?俺見てたしぃ」
「そうだそうだ!委員長もそこまで悪魔じゃねえから今言ったら許してくれるぜ?」
周りの聴衆たちが囃し立てる。
「い゛…や゛っで…な゛…あ゛っ」
バシャン!と被告人の頭に水がかけられる。
「正直に言えば許してあげるのにね?ほぉらぁ、最後のチャンスだよぉ?」
そう言って裁判長は被告人を更に強く締め付ける。
「あ゛…う゛…わ゛…だ、しが…や゛…りまし…た…」
ついに、嘘を自白した被告人は開放された。
「よおし、正直に言えて偉い偉い!許してあげる。ほら。悪いことしたら?」
「ご、めん…なさ…い…」
「聞こえないけど許してあげる。これで!」
そう言って捨て台詞代わりに裁判長はゴミを投げつける。
「トイレ行こ〜!」そう言って裁判長たちが去れば、学級魔女裁判は閉廷する。
こうして晴れて裁判長は黒樺清華に。記録員は古賀瑠衣に。被告人は田中さんに戻った。聴衆もただのクラスメイトに戻った。
これが、学級魔女裁判の実態だった。
自分たちは悪を正しい道へと導いたとして称賛の目を得られる。
だから麻衣を自殺に仕向けた事実も遠ざけて葬り去れる。
その考えが、この歪んだ学級を作り上げていた。
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