異世界転生させられそうだったので全力で抵抗します。

桜狼 殻

 転生などしない!


『貴方は勇者に選ばれました』



都内2LDKタワマン住み、独身、32歳。

仕事が終わり、リビングで煙草とビールと手製のツマミを堪能していると唐突に降臨してきた女神様が何かをほざいてきた。


山桜桃ゆすら なぎよ。かの世界は窮地に陥っている。そこで類まれなる君の才能を転生して、かの地で振るって欲しいのだ』


「断る」


『……話だけでも聞いてくれると』


「今、全容は聞いた。それ以上の価値はなさそうな話だ。他を当たれ」


『ほら、あれだ!今は転生ブームで大勢の人達が異世界で活躍しています!一攫千金も夢じゃない!』


「金はある」


『むむむむむ…一つ欲しい能力もプレゼントしますよ!』


「……じゃあ神の力を無効化する能力」

【能力自動付与】

クイック対応だった。


『あっ…!……そ、それじゃあ転生させて』

「キャンセル」


………何も起こらなかった

『あ、あの転生』

「キャンセル」


『転生したらイケメン大金持ちスタートですので』

「キ ャ ン セ ル」


床に雪舟の絵が描ける位、泣いて寝てしまったのでソファに移して毛布をかけてやる。



その後ビールとツマミを食べて、シャワーを浴びて寝た。

寒いのでリビングは暖房をかけておいた。





―――翌朝。


何を思ったのか女神が料理をしている。


『あ、お早う御座いますー♡朝ご飯もう直ぐ出来るので座って待っていて下さい!』


「何か盛ってないだろうな?」

途端に止まる動作。


『そそそそそそそんな事あああある訳ないじゃないですか!』

「どもりと包丁捌きをピタリと同調させるな」

出来上がってる味噌汁を飲ませたらトイレへダッシュしたのでやはり盛っていた。

女神でもトイレへ行くのか。




その後会社に出掛け、帰宅すると食事と洗濯と掃除が全て終わっていた。


尚且なおかつ三つ指でお出迎えしてくれるという女神の低姿勢っぷりに一抹の不安を感じ、部屋に上がる前にキャンセルをかけると、部屋全体はおろか女神にもキラキラと反応が出た。

懲りずに食事に毒を持ったのだろうが部屋、洗濯物、女神自信ににも接触毒あたりが付与されていたのだろう。


一睨みしたらそそそとウォークインクローゼットに消えていった。

ハウスかな?


それから同じ様な攻撃に搦手の攻撃も交えて殺しに掛かってきた。

どうあっても俺を異世界の勇者にしたいらしい。


『じゃ、じゃあ部屋の空気密度を上げて自然死を…』


「キャンセル」


『では逆に全人類をエイってやっちゃって地球にたった一人の人類にしちゃえば』


「キャンセル」


『じゃーもう激しく老衰して人生終わっちゃえば』


「キャンセルって言ってるだろ」


こちらも殺られるわけには行かず、それからはこちらもこのキャンセル能力のテストをし始めた。

基本無詠唱でも可能だが、脳内若しくは口頭で文言を付け足せば能力に幅が効く事に気付いた。

範囲は無詠唱可能なのに声が届く範囲まで。

風邪で声が出ない時は詠唱出来ずにピンチだったがやり過ごした。

一番特徴的だったのが、3ヶ月まで無効化を伸ばせる事だった。

その間何をしても神の力が無効化されるので、女神が炬燵でみかんを食べるだけの駄目な存在になった。


で、3ヶ月が終わろうとする時期になるとそわそわと動き出し、突然ご飯を作って油断させようとするからそろそろ時期が来たか、と分かり易い。

(普段は俺が作っている)


で、3ヶ月上書きすると全てを投げ出してウォークインクローゼットに篭もるので質が悪く困り果てているが、女神がちょろすぎるのでどうやってやる気をなくさせてやろうかと今は密かな楽しみにしている。


が、実は異世界して勇者ではなく魔王になる予定だったので、ポンコツモードで必死に転生させない様にさせていたのはアレとの間に生まれた二人目の子が成人した時のカミングアウトという名のオチだった。


まぁ、キャンセルはしなかった。

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異世界転生させられそうだったので全力で抵抗します。 桜狼 殻 @kaku-ookami

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