第39話「心の中で」
ゲート長マサコは混乱している。
目の前に居るヤウーシュの正体が掴めない。
そして目的が分からなければ、事態を収拾させる事も出来ない。
青目を連れた謎の敵。
見た目は小物、任務は大物。
その名はシフード戦士のサトゥー。
(上等だわ……!
わたくしにも意地がありましてよ!?
スターゲイト019を預かる身として……引く訳にはいかない!!)
もはや是非も無し。
出るか。ゲート長マサコが最終奥義。
(
マサコ・シンキン……ラウゥゥーーーン!! テェェーーボォォォーーー!!)
説明しよう、マサコ・シンキング『
マサコの脳内、記憶の図書館に住まう司書“チビマサコ”達を招集し、用意した脳内会議場『円卓』にて議論を尽くすセルフ・ディベートの事である。
この最終奥義で解決しなかった問題はあんまり無い。
招集された“チビマサコ”達は、議題について多角的な推論を開始する。
まずこのヤウーシュ『サトゥー』とは誰なのか?
集まった情報は何れも矛盾している。
体格が全てであるヤウーシュ社会において、小柄であるが故に地位は低く、氏族の信頼を得ていない筈の個体。
しかしその一方で氏族長から直接指名され、重要な任務(?)を携えて聖地へ向かうのだと言う。
その矛盾を説明する“答え”。
動員した知識と経験の中から、『円卓』が導き出すひとつの可能性。
(ズバリ……血縁による優遇ね!?)
たとえ身長、能力、地位が足りていない戦士だとしても。
権力者の“身内”だから重要な仕事が割り振られた、そう考えれば説明が付く。
(そして今回、氏族長から指名を受けているという事は……!
この『サトゥー』という個体はズバリ……氏族長の『隠し子』と見た!!)
――ちょ、ちょっと待って!?――
その時、『円卓』に待ったが掛かる。
ディベートに参加している司書、“チビマサコ”のひとりからだった。
異なる何人もの『自分』同士が、別々の意見を戦わせる事で中庸な結論を導き出す。
それこそが“マサコ・シンキング『
待ったをかけた“チビマサコ”が疑問を呈する。
――どうしてイキナリ『隠し子』になるの!? 普通に氏族長の嫡男という線はないの!?――
氏族長との血縁関係だと言うのなら、息子でも良いのでは?
『円卓』で持ち上がった疑問に対し、マサコは自分を納得させるように考える。
(いいえ、その線はない!
何故なら……嫡男の派遣にしては規模が小さ過ぎる!
もし嫡男の派遣だとすれば、もっと大規模なチームで、跡取りが誰であるかを周囲へ喧伝するかの様に大々的に行う筈!
でも実際は当事者が一人と、何故かシャルカーズの二人だけ! まるで周囲から隠すかの様に!
それは実際に隠しているから……! 大っぴらに出来ない、つまり隠し子を可愛がりたい氏族長による独善的派遣……!!)
――そ、それこそおかしいわ!――
『円卓』で尚も待ったが掛かる。
――隠すくらいなら最初から“聖地”にしなければいい!
目立たない別の場所に派遣すれば済む話でしょう!?――
(いいえ……逆。
隠してでも、“聖地”に派遣する理由があったと考えるべき……!
つまりシフード氏族長には、派遣を強行するだけの“目的”があった……!
その目的とは――)
マサコは精神を統一し、『円卓』へと集中する。
今マサコの記憶は、多数の“チビマサコ”達は、この『円卓』へと集まってきている。
集結している無数の記憶の中からマサコは……シフード氏族長の『目的』と足り得るものを選び出した。
(……『銀河同盟懇親会』!!)
銀河同盟で近く、『銀河同盟懇親会』が開催される事をマサコは記憶していた。
(この銀河同盟懇親会に、シフード氏族長が隠し子を『連れて行きたがっている』としたら……!?
でもそこに障害があったとしたら……!?)
己の推論を確かめる必要がある。
マサコは自分の正面に着席しているサトゥーへ声を掛けた。
≪……ちなみにサトゥー様、氏族での階級をお教えいただいても……?≫
「あ、戦士ランクですか? 中級です」
(――やっぱり!!)
得られた回答。
それはマサコの推論の正しさを補強するものだった。
つまり――
(障害……つまり戦士としての階級不足!
銀河同盟懇親会に参加するのは精鋭の戦士だけだから、中級のままでは連れて行けない!
だから短期間で、このヤウーシュに功績を上げさせる必要があった……!)
そこでシフード氏族長の取った対応こそが――
(……“聖地”への派遣!!
だけど大々的に派遣しては氏族内から反感を買う恐れがあり……だからこその少人数!
この説ならばマサコ・スキャンとの結果とも矛盾しない!!)
マサコがマサコ・スキャンを使った際、サトゥーから『氏族にバレる事への恐怖』が感じ取れなかった事も、『秘密裏に派遣された隠し子』だったのであれば説明が付く。
むしろマサコ・スキャンの正確さと、『円卓』の正しさをより証明するものと言えるだろう。
(……同行しているのが『モノリス情報保護士』持ちなのは……まぁ添え物。成果への加点の為。
ツナギを着せて整備士の格好をしているのは……難関資格持ちなのを隠す……為?)
――ちょっと待って……それは流石にこじ付けが過ぎるんじゃ!?――
『円卓』から再度、苦情。
しかしマサコは考察を続ける。
(青目についての考察は……後回しよ!
今は全体像を掴む事こそが肝要!! 樹大枝細!! つまり!
シフード氏族長は隠し子を“聖地”に行かせて!!
その実績で昇格させて!! 銀河同盟懇親会に堂々と連れて行きたかった! そう考えれば辻褄が合う!! 完璧!!)
嗚呼、何という事か。
『円卓』は、マサコは。
遂に真実へと辿り着いたのだ。
秘匿されていた物語が今、暴かれる――
◇
ヤウーシュ屈指の大氏族『シフード』。
その氏族長には、ひとりの愛人が居た。
そしてその愛人との間には、子供がひとり。
その子供の名は『サトゥー』。
出自は周囲に伏せられたまま、普通の子として市井で暮らしている。
しかし体が小さい為に氏族内での地位が低く、軽んじられる毎日を送っていた。
何とかしてあげたいと日々悩んでいた氏族長は、ある日思いつく。
次に開催される『銀河同盟懇親会』に出席させれば良いのだと。
懇親会に出席したという実績は、氏族内での地位向上の一助になる筈だからと。
しかし問題があった。
サトゥーの戦士階級が足りていないのだ。
懇親会までに残された時間は少なく、通常の方法で昇格させるのは困難。
そこで氏族長は“聖地”を選んだ。
種族の要衝へと“出張”させ、その功績で昇格させる為に。
もし昇格への反対意見が出ても、それは“聖地”を軽んじているとして却下すれば良い。
堂々とサトゥーを昇格させ、胸を張って懇親会へと連れて行く。
難関資格を持った青目のシャルカーズを同行させたのは、単独派遣では余りにも格好が付かないので、添え物として――
――あ、あら……?――
その時、マサコの脳内。
『円卓』が“嫌な予感”をキャッチしていた。
――このまま行くと……これって……――
秘匿されていた物語は続く。
氏族長と愛人、そしてその秘密を知っている僅かな供回りにだけ見送られ、サトゥーと青目の二人は“聖地”へ向けて出発する。
しかし不運にも途中で宇宙船がエンジントラブルを起こし、急遽『スターゲイト019』へと立ち寄る事に。
問題はそこで起こった。
スターゲイトの警備部からサトゥーが誘拐犯扱いをされ、何と襲撃まで受けたのだ。
――ちょ、ちょ、ちょっと待って!?――
騒動は一応の解決を見た。
しかし本当の問題はそこからだった。
そこの最高責任者であるゲート長が『氏族に連絡を入れる』と騒ぎ出したのだ。
――あ、待って!? 待って!? 待って!!!――
氏族の反感を買わない様にと、折角あれこれ氏族長が裏から手を回していると言うのに。
ゲート長は大騒ぎをして、それを台無しにするのだと言う。
しかも、揚げ句の果てに。
“騒動を無かった事に”すると、隠ぺい工作まで試みる始末。
――違うの!? ちがっ、そうじゃないの!! いや違くないけど違うの!!――
何と、その上。
渡す慰謝料をケチりにケチって、たったの1000コムにしたいらしい。
後になって、真実を知った氏族長は何と言うだろうか?
――それで、スターゲイト019はどんな対応をしたんだい?――
騒動を無かった事にして、たった1000コムぽっちで解決しようとしたゲート長が居たんですよ~!
――なぁ~~にぃ~~!!? やっちまったなァ!!?――
ヤウーシュは黙って?
――報復ッッ!!!――
シフードは黙って?
――戦争ォォォ!!――
結論が出た。
『戦争』である。
◇
(ヤ゛ッ゛ヴ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!゛!゛)
心の中でマサコが絶叫する。
『円卓』が導き出した答え、それは『スターゲイト019とシフード氏族との全面戦争』だった。
『サトゥー』の為にあれこれと手を尽くしている氏族長の対応から察するに、このヤウーシュが大変に可愛がられている事は明白だろう。
そんな“可愛い隠し子”の『将来を改善する』為に計画された大事な旅に、突如として現れた邪魔者。
それがスターゲイト019であり、マサコだった。
そりゃー怒る。
誰だって怒るし、ヤウーシュなら戦争もする。
≪サ、サトゥー様ぁぁぁぁぁぁぁ!!?≫
「ファ!? な、何ですかゲート長?」
突然叫ぶマサコ。
制服の懐に手を入れながら、マサコは続ける。
≪さ、先ほどは渡す端末がまチガッティ!! ま、間違えておりましてぇぇぇぇ!!≫
「えっ」
≪本当はこちら全部ゥ!! お渡しするつもりでしたのォォォォ!!
ですから何卒ォォォォォ!! ご寛恕の程お願いもうしあげますゥゥゥゥゥ⤴うァァァ!!≫
「あ、いや、ですから……」
マサコの懐から追加で出てきた三つの情報記憶端末。
最初からテーブルの上にあったものと合わせ、合計16万1000コム。
マサコは両手を使い、それらをズズーっとサトゥーの方へと押しやった。
≪何卒⤴ォォォォォ何卒⤵ォォォォォ!! ご容赦の程を⤴ォォォォォォ!!!≫
「ゲート長……」
手元に来た四つの端末。
サトゥーは笑顔になると、それらを拾い上げる。
≪サ、サトゥー様……!≫
受け取ってくれた、そう解釈したマサコが笑顔になる。
だが次の瞬間サトゥーは立ち上がると、テーブルを迂回してマサコの横へと移動してきた。
そして膝立ちになり、さらに背を丸め、マサコと視線の高さを合わせながら口を開く。
「お気持ちは大変嬉しいのですが……もはや金額の問題ではないのです!」
(に゛ゃ゛!゛?゛ もう金で解決するつもりは無い……ってコトォ!?)
サトゥーはマサコの手を取ると、手の平を上へと向けさせる。
そしてその上へ4つの端末を乗せて行った。
小学生並みに小さな手の平に全ての端末を乗せてから、遥かに大きなヤウーシュの手で包むようにして握り込ませる。
要は返品。
賠償はキャンセルだ!!
「ゲート長……あなたの誠意は、もう十二分に伝わってきましたから!」
(シフードを舐め腐ってる
「ですから……もう終わりにしましょう!!」
(戦争で
交渉は……決裂だ☆
マサコは心の中で叫びました。
(ダ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!゛!゛)
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