第34話「仕事だっけ」
≪この度は誠に……あの、もう、本当に申し訳ございません……≫
高級そうな調度品が並んでいる応接間。
『スターゲイト019』においても最も格式高い空間で、サトゥーとサメちゃんは”最高責任者”から謝罪を受けていた。
ソファーに着席している2人の前に居るのは、翻訳によれば『ゲート長』と訳された肩書の人物と、警備責任者などが数名。
何れも『サメめいた尻尾を自分の右肩に乗せ、それを左手で抑える』格好をしていた。
サトゥーの前世で言う土下座に近い、シャルカーズ式で最大級の謝罪ポーズだった。
その様子を眺めながらサトゥーが口を開く。
「……大体事情は分かりました。
つまり話をまとめると、『ヤウーシュとシャルカーズの二人旅』という組み合わせが物凄く珍しかったので、警備部が『同胞の誘拐と連れ回し』だと誤解。
同胞を救出すべく、警備部が”誘拐犯”の制圧に乗り出した……という事ですね?」
≪はい……全くもってその通りでございますぅ……≫(ぺちぺち)
右肩に乗せた尾びれを左手で叩きながら答えるのはゲート長。
駅でいう駅長の様な、『スターゲイト019』のトップ。
ちなみに左手で尾びれを叩くのは、日本人でいう頭をペコペコ下げる行為に相当した。ぺちぺち。
「加えて翻訳機能の不調で意思疎通に齟齬が生じたのも大きかった、と。
いやーそれにしても、シャルカーズ語の『方言』のせいだったなんて思わなかったな~」
≪日頃私の使ってる周波数が、他種族で言う『標準語』にあたる75メガHzなんです。
でも彼女たちの出身である『北洋』だと、90メガHz辺りを使ってるんですよね……≫
サトゥーの発言に、横に座っていたサメちゃんが素早く説明を付け加える。
≪そのせいで翻訳に支障を来していたんだと思います……今は大丈夫でしょうか?≫
「うん、サメちゃんに調整手伝ってもらったから今はバッチリ。お陰でやっと会話出来るよ~」
≪それは良かったです!≫
ニコニコ側のサメちゃん。
その様子を見ていたゲート長もニコニコ顔になると言った。
≪いや~お二方、本当に仲がよろしかったのですね~!
多種族共生を掲げている銀河同盟、その精神の神髄を見た思いです~おほほほ!≫
とか何とか、調子良い事を言っているゲート長。
その姿を見たサトゥーの感想は――
(本物のロリババア……)
――酷く失礼な事だった。
シャルカーズの成人女性の例に漏れず、ゲート長の身長は130cmちょっとしかない。
しかしその風貌は60歳代女性のそれだった。
骨格がロリータなのに、体表だけババア。
(あかん……このロリババア見てると脳がバグりそう。
ん? いや待てよ……ロリババアの身長は小学生並みだけど、”ロリータ・コンプレックス”って中学生対象だっけ?
小学生が対象だと何だっけ……”アリス・コンプレックス”? となると”アリババア”か? 40人の盗賊が中国で配送事業を――)
そんなとりとめの無い事を考えていた時、静かな応接間に『パーン!』という乾いた音が響き渡った。
≪≪≪ッ!≫≫≫
(うおっ!?)
スターゲイト陣営がビクっと驚き、ついでに音源が真横だったのでサトゥーまでビックリ。
音を出したのはサメちゃんで、尾びれでソファーの背もたれを叩いた音だった。
≪同盟の精神とかどうでもいいので――≫
等間隔で背もたれを叩きながら、サメちゃんが話始める。
シャルカーズが怒っている時にやるスタンピングだった。
≪――無事にお話出来るようになったし、お聞きしますね。
一番最初……事務所をお尋ねした時、私は警備部の皆さんに聞かれ、説明をした筈なんですが。
誘拐でもないし。連れ回しでもないって……説明しましたよね、私≫
静かな応接間の中にパーン、パーンとスタンピング音だけが響き続ける。
サメちゃんの醸し出す緊張した空気感に当てられ、何故かサトゥーまで背筋を伸ばして緊張していた。
(サ、サメちゃんが物凄く怒ってる……!!)
≪それで……?
何でサトゥーさんに危害を加える事態に発展しちゃったんですかね? 説明してもらっていいですか……?≫
誘拐犯のレッテルを貼られ、確かにサトゥーは怒った。
が、それ以上にサメちゃんがブチ切れており、お陰でサトゥーは一周回って逆に冷静になってしまっている。
サメちゃんの顔に、サトゥーへ向けられていた笑顔は既にない。
代わりに
まるで嵐の前の静けさだった。
ゲート長が冷や汗をかきながら応じる。
≪お怒りは
今回の不始末、全てわたくし共の不手際が原因でございましてぇ……! 警備部長!? 一体どういう事なの!?≫
≪ひゃ、ひゃい~~!!≫
(めっちゃ泣いてる……)
ゲート長が、横に立っている『警備部長』へと水を向ける。
『警備部長』の少女は、既にボロ泣き状態だった。
≪だ、だってぇぇぇ!!
でっぎり、おどざれでで……うぞをづがざれでるっておぼっだんでずぅぅぅぅ!≫
駐機場でサトゥーと別れたサメちゃんは、整備の手続きの為に格納庫の事務所を訪れた。
そこでスターゲイト側の警備部に『誘拐された同胞』だと勘違いされ、安全な場所へと”隔離”されてしまう。
勿論サメちゃんはそれが誤解であると説明を繰り返したが、警備部は『誘拐犯に脅され、嘘の証言をしている』と判断。
対誘拐犯用に使用された妨害電波でサトゥーと連絡を取る事も出来ず、サメちゃんは最終的に
無理やり脱出すると騒ぎの起きている方向へと向かい、サトゥーと合流したのだった。
警備側の判断を聞いたサメちゃん、溜め息をひとつ。
そうしてから続けた。
≪……分かりました。そこは良いです。
ですが誤解自体は、サトゥーさんに聞き取りしてれば防げた筈ですよね。
どうしていきなり電気ショックで制圧するような判断に至ったんですか? こっちはちょっと許せないんですけど≫
そう言って次にサメちゃんが睨んだのは、最初に『サトゥーに電撃』を食らわした『班長』――現場でサトゥーを追い回していた警備班の――だった。
『班長』の少女もまた、既にボロ泣き状態。
サメちゃんの視線に『ひぃぃ!』と怯えつつ、えぐえぐと泣きながら証言する。
≪だっで……!!
何言っでるが……!! わがんながっだんだもん……!!≫
≪あぁ、まだその時は方言のせいで意思疎通出来ていなかったんでしたっけ?
成程……つまりスターゲイト019では、同盟精神の神髄たる他種族共生に共感せず、会話の通じない異種族は積極的に排除しようという――≫
≪ももも勿論そんな事は有ろう筈もございません!!≫(ぺちぺちぺちぺち!!)
慌てて会話に入って来たのはゲート長。
冷や汗をかきながら、右肩に乗せた尾びれでビートを刻んでいる。
≪ととと当然、同盟精神に反する野蛮的行為に及んでしまった事、全てわたくしどもの落ち度でございましてぇ……!(ぺちぺちぺちぺち!!)
警備部長!! 貴女、部下の教育はどうなってるの!?≫
≪わだじわるぐないぃぃぃ!!
『はなぢをぎいでごい』っでいっだだけぇぇぇ!!
ヤウージュを『こうげきじろ』なんでいっでないもぉぉん!! はんじょうががっでにやっだぁぁぁ!!≫
≪わだじのぜいにじないで!!
部長が『どうぜ誘拐犯だがら逆らうなら痛めづけろ』って言っがらでずううう!!≫
≪いっでないぃぃぃ!!≫
≪言っだでしょぉぉ!?≫
≪やかましい!!≫
サメちゃんがひと際強く尾をソファーへと叩きつけた。
『パァーン!』と大きいスタンピング音が響き、論争を中断させる。
≪つまり……サトゥーさんがヤウーシュだから誘拐犯に違いないと。そう勝手に決めつけた訳ですよね≫
≪け、決してそのような事は~~~!
いえ、ですが、しかしながらその様に思われてしまっても致し方ない対応をしてしまいました事、真にわたくしどもの落ち度でございましてぇ~!
警備部長!! 貴女、多種族共生を何だと思っているの!!≫
≪ぞんなのじらないぃぃ!!
ふづう”ゆうがい”だっでおぼうでしょぉぉぉ!!
まざかヤウーシュとデードしてた”へんたい”だったなんでわがるがぁぁぁぁ!!≫
≪デデデデ、デート!? ちちちち違いますけど!!? これは仕事で同行してるだけなんですけど!!?≫
急に慌て始めるサメちゃん。
頬を上気させながら、視線を不審者めいて応接間のあちこちに迷走させつつ……ふと気になった。
今の『デート』という単語に対して……サトゥーさんはどう反応したんだろう、と。
チラリと横目でサトゥーの様子を確認しようとして、同時にもうひとつ思い立つ。
あれ、今……ディスられた?
≪――誰が”へんたい”だコラァァァ!!?≫
≪ひぃぃぃ!!≫
そんなサメちゃんの様子を眺めながら、サトゥーは思いました。
(これ仕事だっけ……?)
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