第23話「真顔で回答」
シャルカーズの仲介で、ヤウーシュの下に新たな宇宙人が来訪する。
歩く脳みそめいた種族、アルタコだった。
アルタコは提唱した。
『現在、銀河を渡り歩いている5つの種族同士で、平和の為の枠組みを作らないか』と。
ヤウーシュとしては正直どちらでも良かったが、『シャルカーズは参加する』事を聞き『じゃあウチも』と軽いノリで参加が決定された。
そして参画した種族に対し、発案者であるアルタコから『批准すべき条約』が幾つか提示される。
基本的には『戦争の放棄』や『貿易についての取り決め』等、”これから仲良くやろうね”宣言にも等しいものであり、問題はない筈だった。
だがひとつだけ、ヤウーシュとしては承服出来ない条約が含まれていた。
それが『途上惑星保護条約』だった。
文明が興っているものの、独力での『星系脱出』に至っていない惑星は、これを『途上惑星』と認定。
そして途上惑星に対して、銀河同盟からの接触はこれを固く禁じ、惑星独自の文化・技術の発展を尊重し、また保護する。
――事を旨とする為の条約だった。
ヤウーシュは本来、この条約で保護される側だったが、『今さら宇宙船を没収して母星に閉じ込める訳にはいかない』との判断で適用外。
そして言うまでもなくアルカルⅢ、バリバリ抵触。
つまり銀河同盟に参加した場合、ヤウーシュは途上惑星保護条約に従ってアルカルⅢから完全撤退する必要があった。
ヤウーシュは言いました。
『ヤダーーーーーーー!!!』
七転八倒しながら言いました。
『ヤダヤダヤダヤダ、ヤダーーーー!!』
アルタコは困ってしまいました。
『ぎ、銀河同盟は途上惑星の発展を尊重する意思が必要です……。
それにはヤウーシュの撤退が欠かせません……ヤウーシュの納得を私たちは喜びます……』
『ヤーーーダーーーー!! ヤダヤダヤダーーーーー!!』
伝承によると。
五大種族が集まった銀河同盟(仮)懇親会の場で、当時のヤウーシュ種族長が。
駄々をこねまくって、床の上でヘッドスピンまで炸裂させたと伝わっている。
最終的にヤウーシュ、『なら銀河同盟参加しないもん!』とまで宣言。
ついにアルタコ側が妥協し、『ヤウーシュ種族の伝統行事への配慮』として『アルカルⅢへの降下は継続して良い』と特例扱いとなった。
ただし『アルカル文明の保護』の為に、『異能闘争体との決闘は回数、及び頻度を大幅に制限する』事。
また『アルカル文明に変革を与える大々的な接触はこれを控える』旨が明文化され、順守する事がヤウーシュ族に義務として課される事となった。
ヤウーシュ側も『それなら……まぁ……』と納得。
こうして『アルタコ』を盟主とした、『ガショメズ』『ローディエル』『シャルカーズ』『ヤウーシュ』の五大種族による平和の為の枠組み『銀河同盟』が発足した。
アルカルⅢに関しては、ヤウーシュとアルタコによる共同管理体制が敷かれ、その発展を見守る事となる。
一方で『神』に去られてしまったアルカル星人は。
環境の変化により、巨大神殿を築いた極点大陸が氷に覆われてしまった為、惑星各地へとバラバラに散っていく事となった。
そしてアルタコの思惑通り、世界各地の大河沿いに文明を興すと、独自に発展する道を歩み始める。
その成長を見守りながら、ヤウーシュは『進入許可証』を持った戦士だけがアルカルⅢへ降下。
アルカル文明に発見されないように”配慮”しつつ、異能闘争体を見つけると決闘を挑み、狩ったり、狩られたりする。
それが現在まで続く、ヤウーシュとアルカル星人――地球人との関係だった。
◇
(まぁ……俺は”人狩り”なんてしないけど……)
シャーコの執務室を辞して。
本拠地最上階から階段を降りながら、サトゥーは思案する。
アルカルⅢを訪れるヤウーシュはその殆どが『異能闘争体』目当てだったが、サトゥーには別の目的があった。
わざわざチケットを手に入れてまで、したかった事。
それは――
(俺は……地球をこの目で見たい)
――自分の前世、地球での記憶。
極東の祖国、令和のニッポン。
(地球に行って……確かめたい)
果たして日本人、『佐藤ユウタ』は死んだのか?
死んだのなら、墓はあるのか? 田舎の両親はどうしているのか?
(まぁ……自分の墓を眺めて、どうするんだって話だけど)
そして仮に
(いきなり化け物が現れて『俺だよ俺! ユウタだよ!』って言ったって、宇宙スケールのオレオレ詐欺かよ……)
信じてもらえる訳がない。
たとえ幼少期の記憶を話して信用してもらったとしても――
(アルカル文明への積極的接触……『途上惑星保護条約』違反だ。
チケットの期限が切れたら退去しなくちゃいけないから、残る事も出来ない。
まぁ残ったって、地球上じゃあ生活出来ないだろうし……たぶん
そして地球に関しては、大前提からして疑念があった。
(そもそも地球は今、西暦何年なんだ?
っていうか西暦か? 紀元前とかじゃねーだろな。下手するとサイバーパンク化した超未来とか……。
嫌だぞ俺は! サイバーニンジャがバイオ寿司を食ってアイエーー! してる”ジャパン自治区”なんかに帰りたくないからな!!?)
残念ながら超
サトゥーは事前に調べた事もあったが、年代を特定するだけの成果を得られなかった。
(時間は重力の影響を受けるから、銀河規模で見ると時の流れは場所によってバラバラ……地球は一体今、どうなっちゃってんのかな……ん?)
オフィスに戻って来たサトゥー。
ふと自分のデスクの方を見れば、そこには複数のヤウーシュ女性。
「「「……!」」」
そしてサトゥーの事に気が付くと、女性陣が一斉に会話を切り上げて離れていく。
その光景に――
(ひそひそ話……クラスメイトの視線……う、頭が!?)
――掘り起こされる前世の記憶。
あまり充実していたとは言えない、学校生活のあれこれ
(落ち着け! 今の俺はモテモテ……今の俺はモテモテ……嬉しくないけど。ヨシ!)
かぶりをふって”遠い記憶”を振り払うと、サトゥーは自分のデスクへと戻った。
着席。
チラリと隣を見れば、アシューの口からはグ ㇷ゚ジヮの下半身が力なく垂れ下がっていた。
(死んだか……グプジワ)
「もがもが……よぉ、戻ったか」
「あぁ……何の話してたんだ?」
サトゥー、さり気なく質問。
「何って、お前の話だよ。彼女は居るのかとか、めっちゃ聞かれたぞ」
「あぁ……なるほど」
サトゥーの脳裏にトラウマを浄化する福音のラッパが鳴り響き、”あまり面白くはない記憶”に羽が生えると天へと召されていく。
しかし代わりに降臨するのは天使の羽を生やしたカニ江なので、やはり面白くない。
再度かぶりを振って妄想を追い出した。
ニヤけながらアシューが続ける。
「だから俺がしっかり答えといてやったからな。”彼女募集中”だって!!」
「お前を……コロス!!」
「何でだよ!!? 清廉潔白もいい加減にしろ!! あ、お前さてはやっぱりカニィーエちゃんと!!?」
「違う!! 絶対違う!!」
「って、そうだ。あの子たちから聞いたぞお前! カニィーエちゃんと婚闘して勝っちまったんだって!?」
腕組をしながら、しみじみとアシューが言った。
「お前は凄い奴だとは思っていたが……まさかカニィーエちゃんより強かったとは。親友として誇らしいぜ!!」
「へへ、よせやいっ」
「だから今度、カラーテを教えてくれ。
サトゥー、真顔で回答。
「ダメです」
「ケチ! いいじゃねーか! 減るもんでも無いし!」
「減るんだよ!! 俺の寿命が!!」
カラーテが世に出回れば出回る程、対策が進んでサトゥーの優位性が消えていく。
その果てにあるのは……『死』。
「よし分かった。俺も”とっておき”を出そうじゃないか。『ギョカイン娘の熱情・私の鱗をお前の鮮血で――」
「だから要らねぇ!!」
「ケチーー!! ケチケチケチケチ!!」
「うるさいうるさいうるさい!」
「ケチケチケ……ん、何だ、それ?」
そこで漸く、アシューがサトゥーの手にあるチケットに気が付いた。
「……『アルカル星系進入許可証』」
「え!? そんなものお前どこで!?」
「氏族長に貰った」
「……くれ!!」
サトゥー、真顔で回答。
「ダメです」
「くっ……よし、よく分かった。俺もこれ以上は出せない。『シフードの未亡人は夜も厚い! 剛腕の締め付けでイケ――」
「要らねぇぇーー!!」
「ケチーーーーーーーーーー!!」
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