第4話 イストレラの泉

 シロと森をしばらく歩くと、開けた場所に出た。



 そこは四方を山に囲われた、半径数十キロメートルに及ぶであろう広い平原になっていた。


 僕は顔をゆっくりと旋回させて、目の前の景色に感嘆した。



「なんて綺麗だろう……」




 そのパノラマはノルウェーのフィヨルドを彷彿とさせた。四方を標高の高い岩山に囲まれ、フィヨルドの水が抜けて露出した湖底に背丈の低い草が生えたようだ。


 その草原には、紫や白の米粒大の小さな花がまばらに咲いていて、彩りを豊かにしている。


 遠くには真っさらな雲がゆっくりと風に流されてゆく。山から降りてくる風が少しひんやりとしていて、歩いて火照った身体には心地良い。僕は手を開いて、思いっきり息を吸い込む。サウナの後の外気浴みたいな心地がした。



 それから僕は景色に見惚れながら一歩踏み出した。



 チャポン。



 靴が入水する音がした。景色に気を取られていたが、下を見ると草の隙間に薄く透明な水が張っているのがみえた。水嵩は靴底くらいしか無いが、僕の靴を避ける様に小魚が泳いで行く。平原だと思ったけれど、どうやら湿原のようだ。



「さぁ、みんな気を付けて。僕に踏まれないようにね」



 笑顔で魚達に呼びかけてから、ピチャパチャと湿原を歩み出すと、シロが森の中から話しかけてきた。



「じゃあ、オイラはここでお別れだ。泳げないし、今日はみんなと演奏の練習があるんだ。またね、星屑の賢者さん。星屑はこの先の〈イストレラの泉〉にいるみたいだよ」


 僕も振り返り、笑顔でシロに手を振った。


「ありがとう。じゃあ、また」



 シロは満面の笑みで頷き、お尻をプリプリ振りながらウサギの様に去っていった。


 やがて遠くから鳥の唄やポコポコと何かを叩く様な音が聞こえてきた。動物たちが演奏の準備を始めたみたいだ。シロはなんの楽器を担当しているのかな。



 



 僕はしばらく森のオーケストラに耳を澄ませて、それから星屑を目指して歩み出した。


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