第3話 カンテラの森
遂に丘陵地帯を抜けた僕は、〈カンテラの森〉を歩いていた。
小鳥の
草葉の揺れる音。
歩く度に鳴る落ち葉の絨毯。
一度立ち止まって深く息を吸い込む。天日干しした布団の様などこか安心する土の匂いと、削り出したばかりのヒノキのような匂い。そして、ほんの少しだけそこにミントのようなすーっとする香りが混じっている。
息を吸いながら、そんな心地良い香りを楽しんで、少し溜めてからゆっくり吐き出す。
吸って、吐いて。
吸って、吐いて。
存分に森の香りを楽しんだ僕は、ゆっくりと目を開ける。そして、最初に目に留まった木の幹を追って頭上を見上げる。
森の木々は日本の原生林の杉のように高く、その高さは屋久島や白神山地を思わせる。
だが、屋久島などの原生林と違い、この森は草原にいるかのように明るい。何故かって?
それは、ここの木々は拡散レンズの様に光を透過し拡散する性質を持つようで、高い木々が空から太陽の暖かな光を集めて、それを自分より低い若草たちに分けてあげているのだ。
だから、木々の幹はまるでガス燈のように、ぼんやりと明るくて、深い森にもかかわらず苔むした土の上に、秋口の今は白や黄色、橙色などの暖色系の花々が元気よく咲いている。
それに木々の葉は、緑を差したガラス細工のように半透明で、特に葉先になるにつれて透明度が増すような綺麗な葉をしていた。
足元に視線を戻してよく見ると、木々の根元には真っ白のキノコが生えている。これも木々と同様に光を溜める性質があるようで、キノコ自体も発光しているうえ、風で胞子が舞う度に線香花火の火花みたいにチカチカと胞子が幻想的に発光した。
綺麗で、光に満ちた森だ。僕は目でも存分にこの森を楽しむ。
ふと目端を何かが通り過ぎる。
その方向を見ると、野うさぎのような小動物の後ろ姿が見えた。草むらに隠れたようだけど、どうも僕を見ているようだった。
僕は優しく微笑み、話しかけた。
「やぁ、こんにちは。怖がらなくて良いよ。僕はこの森に星屑を探しにきただけだから」
すると、うさぎのような長い耳が草むらからぴょこんと飛び出して、草むらから僕に尋ねてきた。
「違っていたらごめんだけど……もしかして、星屑の賢者かい?」
僕は笑顔でコクリと頷いた。
「わぁ!君が星屑の賢者なんだね!一度会ってみたかったんだ!」
と言って、草むらからうさぎのように長い耳をした毛むくじゃらの雪だるまみたいな生き物が飛び出してきた。毛で隠れて顔が見えづらいけれど、どうやら喜んでくれているようだ。
その雪だるまみたいな動物は続ける。
「星屑の賢者さん!星屑はあっちにあるよ。オイラが案内してあげるよ」
「ありがとう。じゃあ、お願いするよ」
「オイラはシロ。よろしくね、星屑の賢者さん」
「あぁ、よろしく、シロ」
こうして僕は、耳の生えた雪だるまのようなシロに連れられて、星屑を目指して森を歩いた。
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