第039話
「怪しいです。あの子、絶対先輩のこと狙ってましたよ」
「そんなわけないだろ?」
「そんなわけあります。あの子、男を落とそうとするメスの表情をしてました。アタシにはわかります」
なんだよそれ……ある意味菜々世と同類なのかもしれんが。
「本当になにもないって。あの子は……一緒に映画を見に行ったときに会った子の友達なんだって話したろ?」
「ええ、そう言ってましたけど……」
「はい、俺の話はここまで。それより菜々世、あの時大悟と二人だったんだな」
俺は話を強引にぶった切って、話題転換を図る。
今度は俺のターンだ。
「そうなんです。ずっとなんとかお誘いをかわしてたんですけどね……でも最近、大悟先輩に仕事を手伝ってもらってるじゃないですか。それであんまり断るのも悪いかなって思って」
「そんなことだろうとは思ったけどな」
因みに大悟は営業部に移動してから、連日残業が続いている。
今日もまだ会社にいるはずだ。
「でも……いかに大悟先輩が仕事ができた人なのかって、思い知らされました」
「ああ。あいつ仕事早いだろ?」
「そうなんです。会議の資料とかアタシも一部作るんですけど、大悟先輩は表計算ソフトに自分でマクロ組んで……アタシが30分かかる資料を1分で作ったりとか」
「ああ、まーな。でもマクロぐらいだったら、俺も作ってやってるけどな」
「マジですか?」
「ていうか表計算マクロぐらいだったら、普通にできるだろ? 別にプログラミングの知識とかいらねーし。俺は大学の時にレポートの資料作りとかにも使ってたぞ」
「……先輩方、凄いんですね。アタシも勉強しないと」
まあ大悟はそれ以外でもいろいろと優秀だ。
これで菜々世もちょっとは大悟のことを見直すかもしれないな。
そんな話をしながら、俺たちは約束通り30分でプロンテを出た。
◆◆◆
「文化祭、いよいよ今週の日曜日ですよ。楽しみです」
俺の隣で楽しそうに声を上げる海奏ちゃんは、今日も華恋で可愛い。
時刻は夜の10時過ぎ。
俺たちはスーパーナツダイからの帰り道だ。
「準備の方は進んでるの? 大変じゃない?」
「うちのクラスは展示物だけですからね。そんなに大変じゃないです。模擬店とか出すクラスは大変なんでしょうけど」
「俺は女子校の文化祭なんか行ったことないからさ。ちょっと緊張してるよ」
「大丈夫ですよ。私と一緒に回ってくださいね」
そのスーパー美少女と一緒に回るっていうイベントも、緊張の一部に含まれてるんだけどな。
ちなみに……この間知奈美ちゃんとカラオケ屋に行ったことは、一応海奏ちゃんには内緒にしてある。
「うーん、別にウチは言ってもいいんですけど……面白そうだから、とりあえず内緒ってことにしておきませんか?」
責任感のない提案だったが、とりあえず俺もその知奈美ちゃんの案に乗っかることにした。
それにしても……なぜ知奈美ちゃんは、俺の会社を知ってたんだろうか。
それが未だに謎のままだ。
「私、最近皆に言われるんですよ。明るくなったねって」
海奏ちゃんの声に、俺の意識が戻される。
「そうなの?」
「はい。暁斗さんのお陰です」
「そんなことないんじゃない?」
「いいえ、そうなんです。夜もこうして送ってもらってますし、それに朝だって……何の不安もなく電車に乗れてます」
「まあそれが普通なんだけどね」
「それが今までできなかったんですよ。だから最近、私も楽しくて」
海奏ちゃんの声が弾む。
「でも暁斗さんに、何もお返しができてないですよね。なんだかすいません」
「いいって。だから言ってるよね? こういう推し活が、俺の楽しみだって」
「もう……ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えますね」
「そうそう。それでいいんだって」
そういう俺だって、もちろん毎日楽しいっていうのは本音だ。
こんなに可愛い女子高生と一緒にいられるんだからな。
◆◆◆
そして週末の日曜日。
俺は陸と待ち合わせをして、聖レオナ女学院を目指す。
聖レオナ女学院は学校自体は比較的こじんまりとしていたが、さすがに学園祭ということで大勢の人たちで賑わっていた。
「おー、女子高生だらけじゃないか。眼福眼福」
「なあ陸、やっぱ俺たち浮いてねーか?」
「気にするなよ、暁斗。そんなことより……3年A組ってどこだ?」
俺と陸は校舎の中に入ったのだが、俺はその大勢の女子高生に圧倒されてしまっていた。
確かに高校生以外の人たちも大勢いるが、その殆どが保護者らしき人たちだ。
俺たちのような中途半端な二十代半ばの男性は、ほとんど見受けられない。
俺たちは海奏ちゃんと知奈美ちゃんのクラス、3年A組を目指す。
どうやら校舎の2階のようだった。
「おっ、あった。ここだぞ」
陸が立ち止まったそこには、「3年A組」の標示板と「世界の教会」と書かれているポスターが貼られていた。
中に入ると世界中の教会のポスター大の写真があちこちに飾られていた。
紺色の聖レオナの制服を着た生徒が10人ぐらいいるだろうか。
「あー、暁斗さんに陸さん! 来てくれたんですね!」
俺たちを見つけて大きな声で近寄ってきた、元気印のツインテール女子。
知奈美ちゃんだ。
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