第040話

「やあ知奈美ちゃん、久しぶり。今日は楽しみにして来たよ」


「いらっしゃい、陸さん。まあウチのクラスの展示物はこんな感じで地味なんですけど、他のクラスは模擬店とかありますからね」


 陸が知奈美ちゃんとそんな話をしていると……


「あ、暁斗さん。待ってたんですよ。それと陸さんも」


 海奏ちゃんが教室の入口から入ってきた。


「海奏ちゃん。こんにちは」


「こんにちは。すぐにわかりましたか?」


「クラスはちょっと探すのに戸惑ったよ。それより……やっぱり俺たち、浮いてるよね?」


「大丈夫です。気にしすぎですよ」


「そうですよ。それに暁斗さんはもう有名人ですから。みんなー! ちょっとちょっと」


 知奈美ちゃんが後ろを振り返ると、大きな声で周りの女子生徒に呼びかけた。


「ほらみんな! この人! この人が例の!」


 知奈美ちゃんがそう言ったとたん、周りにいた10人以上の女子生徒が俺たちのところへわらわらと集まってきた。



「えーやっぱり? そうなんじゃないかなって思ったんだ」


「例の素人なんとかの人だよね?」


「思ってたより背が高いよ」


「顔は……あーでも、優しそう」


「お金持ってるかな?」


「どういう風俗に行くんだろ」


「隣の人はイケメン? あーでもちょっと背が低いか」


「パンの耳とか食べるかな?」


「でも海奏の彼氏じゃないんだよね? え、推し活? うわ、キモっ」



 なんだこれ? 


 完全に動物園の珍獣扱いだった。


 あと俺は池のコイとかじゃねーぞ。


「ちょっと皆落ち着いて! 見世物じゃないんだから」


「見世物にしたのは、お前だろ!?」


「まあまあ。とりあえずここを出ましょうよ。4人で回りませんか?」


「うん、是非。暁斗もそれでいいよね? 知奈美ちゃんは大丈夫なの?」


「はい。この時間は自由に動けるので。だからお二人を待ってたんですよ」


 結局俺たち4人は、そのまま3年A組を後にした。


 後ろではまだ女子生徒がキャイキャイと騒いでいる声が聞こえる。



「あ、暁斗さん……なんだかすいません」


「海奏ちゃんは悪くないでしょ。悪いのはアイツだよ」


 俺はあごで知奈美ちゃんを指した。


「まあまあ、暁斗さん。気にしちゃだめですよ。有名税ですから。有名税」


「クッソー、マジで腹立つわ」


「でも海奏のお相手だったから、これだけ皆の話題になったんですよ。それに……暁斗さんは海奏を救ったヒーローなんですから」


「はぁ? なにがヒーローだよ」


 俺は歩きながら、文句が止まらない。


「でも……それは本当なんですよ」


「……海奏ちゃん?」


「暁斗さんは、電車の中で私を助けてくれたヒーローなんです。だから皆、暁斗さんを見てみたいって」


「つまりそれだけ痴漢被害にあっている子が多いってことなんですよ。ウチも含めてですけどね。でも普通まわりの人は、なんにもしてくれない。だから『その素人童貞の人、凄い! 海奏が羨ましい』ってなるわけです」


「なるほどねー。やっぱり知奈美ちゃんも、痴漢にあうんだ?」


 陸が話を拾う。


「もうしょっちゅうですよ。でもウチはすぐに大声を上げますけどね。でも多分なんですけど……聖レオナの制服ってだけで、変なスイッチが入っちゃう痴漢とかもいるんじゃないですかね」


 なるほど……まあ知奈美ちゃんだってこれだけの美少女だし、たしかに聖レオナのブレザー制服って可愛いもんな。


 あ、俺ってヤバいヤツ?




 俺と陸は海奏ちゃんと知奈美ちゃんに連れられて、校内のいろんな所へ案内してもらった。


 演劇部の寸劇を見たり、吹奏楽部のミニコンサートを聞いたりした。


 なんだか俺も少し高校時代にタイムスリップした感覚に陥った。


 俺の学校は共学だったので少しイメージは違っていたが。


 俺を笑顔で案内してくれる海奏ちゃんは、今日も清楚で眩しかった。


 俺が高校の時にこんな彼女がいたらなぁ……そんな考えても仕方ないことを妄想していた。



 しばらく歩いていた俺たちは、小腹が空いてきた。


 代表して陸が焼きそばを買いに行ってくれている。


 海奏ちゃんはトイレに行ってしまった。


 階段横の踊り場に、俺と知奈美ちゃんだけが残された。


「暁斗さん、どうですか? 聖レオナの女子高生がたくさんいて、欲情しましたか?」


「しねーよ。俺はいつも海奏ちゃんを見てるから、免疫ができてる」


「そーなんですか? つまんないなぁ」


 なにがつまんないか知らんけど。


「それより知奈美ちゃん。今日……可愛いぞ」


「はぁ!? な、なに言ってるんですか! ウチはいつでも可愛いですけど」


 こいつ……正面から褒めてやると、急に焦るんだよな。


 ちょっと可愛いじゃねーか。


「今日、カラコンもマニキュアもしてないだろ? そっちの方がよっぽど知奈美ちゃんらしくて、いいって言ってんだよ」


「も、もう……素人童貞がうるさい! ばーか!」


 うわ、顔が真っ赤になった。


 やべー、本当に可愛い……


「あ、そうだ。ウチ今日の下着、淡いピンクの上下ですよ」


「訊いてねーし」


「もー見たいくせに。いいですよ、ちょっとだけなら。人気のないところへ行きましょうか?」


「せんせーー! ここに痴女がいまーす!」


「ちょ、ちょっと!……マジで大きい声出さないで下さいよ!」


「お待たせしました。知奈美、どうしたの? 暁斗さんも」


「おかえり、海奏ちゃん。なんでもないよ」


「う、うん……あ、ウチもトイレ行ってくる」


「?」


 絶妙なタイミングで戻ってきた海奏ちゃんだったが……俺も知奈美ちゃんも、マジで焦った。聞かれてないよな?


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