第014話


「暁斗先輩はよく映画も動画も見るじゃないですか。ジャンルだってシリアス物とか恋愛物とか幅広いですよね? でも大悟先輩はアクションとかスポーツばっかりで……あんまり話が合わないんですよ」


 思わぬ菜々世からの大悟へのクレームに、俺はちょっとたじろぐ。


 確かに俺は映画は好きだし、動画はアゾマンプライムだけだが有料動画も見る。


 カバーしているジャンルも広いという自負はある。


 一方で菜々世の言う通り、大悟は小難しい映画は好きじゃない。


 こればっかりは好みだから仕方がないのだが……。


「だから映画の好みの合う先輩と一緒に、映画に行きたいってだけなんですよ。特にそんな変な意味じゃなくって」


 なるほど、確かに菜々世の言ってることは間違っちゃいない。


 ただ……俺はあえて突っ込んで聞いてみる。


「菜々世の中では……大悟はナシってことなのか?」


 ちょっとダイレクトだったか?


「ナシ寄りのナシですね。今のところは」


 回答はもっとダイレクトだった……大悟、撃沈。


 なるほどなぁ……でももしそうであれば、確かにそんな感じで大悟に縛られてたら、そりゃあ菜々世だって窮屈かもしれないな。


 週末は俺も予定はないし……


「よし、わかった。菜々世、映画でも行くか?」


「え? マジですか?」


「ああ。そのかわり大悟には内緒にしといた方がいいぞ」


「そうですよね。わかりました」


「それと……これはデートじゃないからな。先輩が後輩と映画を一緒に見に行くだけだ」


「暁斗先輩、一般的に世間ではそれをデートって呼ぶんですよっ」


 ニコニコ顔で菜々世はそう返してきた。


「だからちげーわ」


 こいつ……やっぱり行くとか言わなきゃよかったか?


 でも後悔先に立たずだ。


 まあ昼間に映画を見て、軽く食事でもして帰るだけだしな。


 俺はそう思い直すことにした。


 菜々世は早速、スマホで週末上映予定の映画を調べている。


 俺たちはもうしばらく、二人で見たい映画を話し合うことになりそうだった。



 ◆◆◆



 そして週末の日曜日。


 俺は菜々世と映画館の入口で待ち合わせをした。


 結局二人が選んだ映画はアメリカ映画で、20代の社会人男女5人グループの仕事と恋の物語っぽい映画だった。


「すいません、先輩。お待たせしちゃって」


 少し遅れてやってきた菜々世は、いつも会社で見ている菜々世とはかなり違う雰囲気だった。


 デニムのミニスカートの下から伸びる、スラッとした綺麗な足が眩しい。


 タイト目のニットは体の凹凸がはっきりと分かって、菜々世の動きに合わせておヘソがチラチラと見え隠れする。


 なんというか……かなり気合が入っている感じがした。


 俺たちはブースでチケットを購入して、ドリンクを手にしながら館内へ入っていく。 



「先輩、最近映画を見たのっていつですか?」


 俺たちが席に座って予告編が始まるのを待っていると、菜々世が訊いてきた。


「……2ヶ月ぐらい前だったかな? あの有名なファンタジーアクションのやつ」


「ああ、あのニューヨークのビルの上でバトルシーンがあるヤツですね」


「そうそう。あれ、面白かったぞ」


「アタシは見てないですけど……それ、一人で見に行ったんですか?」


「ああ。俺は大体どこへ行くにも一人だぞ」


「えーそうなんですか? 寂しいじゃないですか。たまにはアタシでも誘ってくださいよ」


「ああ。気が向いたらな」


「それ、ぜったい気が向かないヤツですよね?」


「そんなことねーわ」


 案外面倒くさいな、こいつ。


 できたら大悟と行ってくれれば一番丸く収まるんだが……なかなか世の中うまくいかないな。


 菜々世とそんなことを話していると、ブザーが鳴って館内が暗くなった。


 予告編が始まる。


 俺たちは映画に集中することにした。



 ◆◆◆



「案外……つまらなかったですね」


「そうだな。いまいちだったかも」


 映画を見終わった俺と菜々世は、イタリアンファミレスのサンゼリアに来ていた。


 俺が昼飯をどうするか菜々世に聞くと、「サンゼでも行きます?」と返ってきた。


 こういうお財布に優しいところだと俺も助かる。


「あんなストーリー、実際には起こらないじゃないですか? 友達の元カレと、あんな簡単に寝ますかね?」 


「だな。俺もその辺りから没入感がなくなったわ」


「ですよね……でも男の人の場合、そういうことあるんじゃないですか? 友達の元カノとワンナイトとか」


「そうなのか? 少なくとも俺はないぞ」


 っていうか、こっちは素人童貞だからな。舐めんなよ。ってなことは言えなかったが。


「そうなんですか? 私の元彼がそうでしたよ。共通の友達の元カノと浮気して……結局しばらく二股状態でした。まあ後からわかったんですけどね」


「そうなんだな。実は菜々世、意外とそっちの方も経験豊富なんだな」


 俺の発言が、ちょっと下世話になった。


「どうなんですかね……試してみますか? 暁斗先輩」


「はぁ?」


「冗談ですよ」


 菜々世はちょっと上目遣いに俺を見上げて、妖しく笑った。


 いや、これは危ないやつだ。


 大悟のこともあるし……俺の体内警報機がアラーム音を上げていた。


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