第2話

駅の住宅情報掲示板には、所狭しと物件情報が貼り出されている。


先述の通り、昨日までは家具付きの社宅に住んでいた。

つまり、空のアパートを契約すれば、家具を買い揃えなければ生活できないわけで、そんな蓄えを持ち合わせてはいない私は、家具付き物件が無いかと、隅々まで隈なくチェックしていた。


(安くて、家具付きで駅近…なんて無いかなぁ…)


掲示板をしらみ潰しに探していたその時、背中に違和感を感じて振り向くと


べしょっ!


「あ!すみません!」


通行人の少年が持っていたアイスクリームが、私のカーディガンにべったりと着いた。


「うわぁ。ごめんなさい!クリーニング代払うよ。」


「いえ…お金は…」


「あ?そう?悪いね。」


軽い…軽すぎやしないか?

お金はいらないとは言った。(言ってない?)だからってそのまま立ち去るなんて!


真っ白なカーディガンについたチョコレートのアイスクリームは、拭き取ってもしっかりと染みを残した。


「はぁ。」


ため息をついて駅のトイレに向かおうとした瞬間、閉めていたはずのリュックが開いていることに気がついた。


「え!?うそ!と…泥棒!!!」






「それでは、犯人が捕まりましたらご連絡させていただきますね。」

「よろしくお願いします!」


最寄りの交番に届出を済ませてガラス戸を開けると、空から降るぼたん雪がゆっくりと地面を濡らしていた。


最悪。


お金もスマホもクレカも…そして、今夜寝泊まりする所さえない。


「私が何をしたっていうの!?」


幼い頃に父が亡くなり…母が再婚した義父は短気で子ども嫌いだった。毎日機嫌を損ねないように、顔色を伺う子ども時代を過ごし、大学卒業してようやく家を出た。

これからは自由な生活ができるんだと、希望に満ちた気持ちで新社会人となった私に待ち受けていたのは、御前様が当たり前の毎日。

休日出勤、サービス残業が連日続いても上司に褒められることも感謝されることもない。

それでも無遅刻無欠勤で、人に後ろ指を刺されるような事をしたことも無い。


神様。私がいったい何をしたというのでしょう?!


あぁ…そうじゃない。神なんて、居ないのか。


寒さを凌ぐ為に駅中デパートのフードコートで無料のお茶を神カップに注ぎ、呆然としていると、いよいよ閉店のアナウンスが流れた。


「まさか、27歳でホームレスになるなんて…どこでもいいから、こんな私を受け入れてくれる所が…あ…ある。あそこだ。」


文房具屋の電信柱に貼られてあった「異世界移住者募集中。」の張り紙を思い出すと、藁にもすがる思いで、文具店に向かった。







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異世界移住者募集中!?文具店で引いたガチャで今日から魔道士になります。 金木犀と柚子 @applechocochoco

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