第8話

 そんなの言われなくてもわかるわよっ。

 でも、だからって「じゃあ」って取り出せるほど、私は素直じゃないの。

 あぁ、もう! 如月のバカバカバカッ。


 真っ赤な頬を隠すように両手で顔を隠す私を見て、如月がフッと小さく笑った声が聞こえた。


「しょうがねぇな。まぁバレンタインは過ぎてるし。だったらこっちからでも問題ないだろ?」

「え……?」


 言うなり如月は制服のネクタイをスルッと外した。


「梅見、受け取って」


 ネクタイを異性に渡すというのは、うちの学校では意味がある。

 それは卒業式の恒例儀式。

 昔は学ランで第二ボタンだったらしいけど、ブレザーの我が校ではネクタイがかわりを果たすんだ。

 その意味を持つらしいネクタイを、如月は私の方へと差し出してきた。


「……待って。思考が追いつかない」


 確かに私は今日、用意してきた。

 受験までは考えられなかったけど、お互い違う進路を選んだ。

 如月はきっと友達にしか思ってない。

 友達なら卒業後も会える可能性はある。でも今までみたいには会えない。このままモヤモヤするくらいなら当たって砕けろ! な気持ちでもいたんだけど。


「は? 素直に受け取れよ」

「なんでそんな自信満々なのよ!」


「うーん……カンと願望」

「なによ、それ」

「いいじゃん。で、受け取ってくれねえの?」


 如月がネクタイを私の目の前にぶら下げる。

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