第5話

「合格おめでとー!」


 ペットボトルをコンッと軽くぶつけて讃えあう。

 アイスティーのほんのりした苦味が、今の私にはちょうどいい。だって、油断するとニヤケがとまらない。

 受験が終わってホッとしたから?

 それとも、この二人きりのシチュエーションだから?


「どうした? ぼぉっとして」

「っううん! なんでもない!」


 机一個分の距離って、こんなに近かったっけ?

 如月の顔が近いっ。

 火照りそうな顔を冷ますために、グラウンドに目をやる。気づけば持久走は終わったみたいで、先程の賑やかさが幻のように今は静けさに包まれている。


「もう……卒業なんだね」


 さっきも感じた寂しさ。今まで当たり前にあった生活が、春からはもうやってこない。新たな生活に対する期待もあるけれど、この光景が見られないというのは、やはり寂しく感じる。

 卒業しても繋がる縁もあるけれど、これっきりの人もいるんだ。


 如月とは……。


『なあ、知ってる? 梅見月うめみづきって如月なんだよ』

 文化祭実行委員で一緒になった時、如月が教えてくれた。如月も梅見月も陰暦二月の別名だって。


『俺ら、同じなんだな』


 照れ臭そうにはにかみながら笑った如月の顔、今でも忘れられない。

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