第2話

「三十分の遅刻か。理由を聞かせてもらおうじゃないの? 如月きさらぎ

 まだ息が整わない彼に向かって、ちょっと嫌味っぽく言った。

 別に怒ってるわけじゃない。

 ただ一生懸命走ってきた姿を見て、なんだかくすぐったい気持ちをごまかすように、つい言ってしまったのだ。


「悪かった。梅見うめみ

 はぁーっと大きく深呼吸して、ようやく落ち着いたらしい。

 それでも走ってきた事で頬は赤いし、額には汗が滲んでいる。息苦しいのか、如月はネクタイに手をかけて、スルッと緩めた。


 瞬間。私の胸は急に加速度を上げて鳴り始めた。

 なんだか見てはいけないものを見てしまっているような。恥ずかしさがこみ上げてくる。

 だめだ、これ。顔が赤くなってるのがわかる。


「梅見? 急にそっぽ向いてどうした?」


「……あんたが妙な色気を振りまくからでしょ。バカ!」

「いや、意味わかんねぇよ」


 無邪気に如月が笑う。

 いつもそう。私はこうやって如月に振り回されちゃうんだ。

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