第6話

 二丁目の青い鳥ねえ・・・

 ミチコは短くなったタバコを灰皿にざらりと押し付けて消した。


 二丁目の片隅の吐いて捨てるほど発生する、沸いては消えていく濁った沼に浮かぶ水泡みたいな恋が、「愛」になりえるのか。


 それは疑問だったが、親友の幸せを祈ろうとは思う。


 ミチコは買い替える金がなくてすっかり古くなったノートパソコンを立ち上げる。


 起動に五分もかかるようになっていたので、必要のないデータやアプリはすべて消した。すると二分ほどで起動するようになった。


 取捨選択は大事だ。

 そう思うと、叶わぬ夢にいつまでもしがみついている自分がこの上ないほどに愚かに見えてくる。実際、愚かなのだろうけど。


 学生時代の仲間は皆、身分不相応な夢をあっさりと捨てて自分の道を歩いている。


 どうして自分にはそれができないのだろう。


 ミチコは別に仕事ができないわけでも、著しくコミュニケーション能力に欠けているというわけではない。


 いわゆるいい大学を出ているので、フリーター期間があっても、一般の会社に就職しようと思えばできないわけではない。

 それを取り戻すなら今だと周囲もアドバイスをくれるし、自身もその考えに揺れている。


 揺れてしまう。

 怖い。このまま選び取ることもできず、夢開くこともなく、何もなく枯れていくことが。


 先の後悔を想像して、足がすくむ日々が続いていた。


 ミチコはネットをつないで、あるページを開き、にたりと笑った。


 世界的な動画配信サービス会社が主催しているドラマ脚本のコンテストに応募した作品が三次選考まで進んでいるのだ。


 画面に三次選考通過者のリストが出る。スクロールしていくと、後半にミチコの名前が出てきた。


 これを通過したら、最終選考だ。


 受賞できなくても、そこまで残ればディレクターやプロデューサーから声がかかることもあるらしい。ネットでの噂だが。


 どうしても欲しい。


 ミチコが青い鳥に願ったのは、この賞の受賞だった。


「あいつの夢がかなったら・・・」


 私の夢も叶うかもしれない。ミノルという男が誠実であることを強く願った。

 二丁目の酔客にそんな客はほとんどいない。万に一つの可能性を願っていることはわかる。無理は承知だ。


 でも無理を通さないといけない。自分の夢もまた、万に一つの可能性を突き破った先にあるようなものなのだから。

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