第4話

「そろそろ行こっか」

「そうだな」


 オレンジ色の朝日を浴びながら外に出る。


「仕事、嫌だなあ」


 ミチコが足を止めて、伸びをしたとき、伸ばした右腕の先の空にそれが居た。ゆっくりと雄々しく飛んでいた。


「あれ」


 ミチコが俺の指した先を見る。二人の上を旋回しているのは、見たこともない青い翼を広げて舞う鳥だった。

 朝日を浴びた嘴がこれ以上ないほどに輝いている。


「願い事」

「え?」


「念じなさいよっ! 早くっ!」

「あ、ああ」


 いい男、いい男、いい男・・・胸の中で繰り返す。隣のミチコは胸の前で腕を組み、きつく目をつぶっている。

 プロになりたい、脚本家になりたいと念じているのだろう。


 俺も真面目にやらないと。


 ちゃんとした彼氏が欲しい、いい男の彼氏が欲しい、その男とずっと一緒に居たい・・・繰り返しているうちに頭上の鳥は消えていた。


「もう行ったわよ」


 急速に白んでいく空に現れた鳥は、煙のように消えていた。


「何だったんだ、今の」

「さあ。私にもわかんない」


「ちゃんと願ったか?」

「うん。あんたは?」


「おうよ」


 やってやったぜとばかりに腕を掲げると、昨晩から何度目かの苦笑を浮かべてミチコが笑った。

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