第2話

「二丁目の青い鳥」


 ミチコが目の前の大きな窓ガラスから明けていく町の空を見上げてつぶやいた。


「は?」


 ミチコが苦笑いして続ける。


「知らない? 変な噂があんのよ、職場で聞いたんだけど」

「なにそれ?」


「二丁目で鷲みたいな大きな真っ青で、嘴と爪が金色の鳥が飛んでるんだって」

「はあ? そんなの聞いたことねえぞ」


「そうなの? 話題になってるのかと思った」

「いや、知らねえ。で、なんなんだ、それ。都市伝説か」


「都市伝説か。まあ、そうなんだろうねえ」

「鳥も人間も交配が進んでるから、おかしな奴が出てきてもおかしくないだろうよ」


 空では鳩模様のカラスが何匹も連なって飛んでいたり、鷹ほどに巨大化した燕が低空飛行で目の前を横切ることもある。


「そうね。この小さな町に流れこんでくる人もますます増えてるしね」


 LGBTと呼ばれる人たちの裾野はますますひろがるばかりである。

 温暖化や環境破壊のせいとも言われているが、ミチコに言わせればその原因は「みんな正直になっただけよ」だった。


「で、その鳥、捕まえた奴がいるのか?」

「ううん。都市伝説だもの」


「そっか」

「興味あるの?」


「別に」

「なんでも願いをかなえてくれるんだって」


「え?」

「その鳥を見ながら願えば、どんな願いでもかなえてくれるそうよ」


「どんな願いも? なんだ、それ」


 思わず笑ってしまう。目の前のミチコも緩く笑っている。


 悪気はないと知っているが、どこか人をバカにしたような笑いだった。ミチコは美しさには恵まれていたが、そこに温かさは持ち合わせていなかった。


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