二丁目の青い鳥
梅春
第1話
2050年、日本は日本人の国ではなくなった。
ここ三十年の間に何度かのハイパーインフレを起こした日本からは貧しい者は退出し、その代わりに多くの移民が流入した。
結果、国内の日本人の割合は三割まで落ち込んだ。日本はもう日本人の国ではなくなったのだ。
それでも変わらない特性を持つ町もある。
新宿二丁目だ。
日本で有数のLGBTの聖地だった小さな町は、日本に移民が増えたことで、世界的な知名度をさらに高めた。
そんな町の片隅で俺は育った。
ゲイの父親ふたりに育てられて。
「ケン、聞いてるの?」
「え、あ、うん」
目の前のミチコは今日も不機嫌だ。バイト明けで寝落ちしそうになっていた俺が悪いのはわかっているが、こっちも疲れているのだ。
二丁目の明け方のファミレスは家を持たない疲れた労働者と徹夜明けの酒臭いゲイたちで埋め尽くされていた。
「店子のバイト、いつまで続けんの?」
夜の街での人間観察は、役者にも活かせるからと思って始めたバイトだった。今は怠惰な街の雰囲気にすっかり飲み込まれている。
「え? う~ん、あとちょっと」
「酒弱いんだから、早くほかのバイト探しなよ」
「そうなんだけど」
25歳、大学を卒業してまともな就職をせず夢を追いかけ、大したスキルのない者に、まともなバイトは降ってこない。日本はそういう国だ。同じ年ならわかってくれよと見上げると、いつもの強い視線で弾き返される。
同じ小劇団で脚本を手掛けるミチコは、コールセンターで働きながら、寝る間も惜しんで物語を紡ぎ続けている。
「みんなやる気ないんだから」
「仕方ないよ。生活してくのだけで大変なんだから」
「そうだけど」
言いながら全く納得してないことがよくわかる。大学の仲間で立ち上げた劇団は学生時代には骨太の劇団として話題になったこともあったが、今ではすっかり客を呼べなくなっている。ミチコのように本気で情熱を注ぎ続けている劇団員はわずか数人だ。
「夢を追うのって金かかるよな」
「そうだね」
「金持ちだったら一生夢みてられんのにな」
「そんな人、どんだけいるっていうのよ」
「そうだけどよ」
二丁目の片隅で育った俺と、地方の貧困街で育ったミチコ。なぜか勉強のできた俺たちは奨学金を得て大学に入り、同じ夢を追いかけた。
しかし、大学を卒業して三年、そんな夢のような日々にも出口が見えてきたように思う。
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