第20話

「助けなきゃ……私がサブを助けなきゃ……」


幼くして両親を失なったその瞳には両親の想い、王国の未来、そしてたった一人の家族を守り抜くという決意が宿っていた。

母トライロールから託された宝石は闇の黒点を濃く彩り、妹サブを狂信的に愛する力に変わった。


「サーブ! お昼の時間よ。今日もまた、サブにお腹いっぱい食べてほしくて料理作ってみたの。一緒に食べましょ」

「サブ―! お風呂一緒に、入ろう?」

「サブ、今日もお疲れ様。今日は他国との会談ですっごく疲れたね。でも、サブのおかげで私も――」

「サブ、サブ。サブー! サブ。サブ」


うるさい…


――私はお姉ちゃんの玩具じゃない! 小さい頃からぬいぐるみのように服を着せられて。

赤ちゃんみたいにご飯を口に運ばれて。唐突に抱きしめられて。

一日一年なんかじゃない。


あの日……お父様、お母様と別れた時からずっと……一日たりとも欠かさず徹底的に守られ、甘やかされ続けた。


始めは嬉しかった。こんなに優しくて頼もしい人が私のお姉ちゃんで本当に良かった。

つまずいたとき、悩んでるとき、泣いてるとき、いつだって近くで寄り添ってくれた。


でも、大きくなって守られてばかりじゃなくて自分の足で進みたいそう思っていた。


けどそう思った時にはもう遅かった。


すでに私たち新王女として国の上に立つ存在になっていた。

私は今まで甘やかされてばかりで王女になった実感が全然なかった。

実際、国民の前に出ることも恥ずかしくて仕方がなかった。

こんな私が国王になっていいのか。たまたま、お母様から生まれただけで、とてもじゃないけど国をまとめる器はない。本当に不安で怖くて仕方がなかった。


でも、隣にいたお姉ちゃんは違った。


「第七代ミネ王国国王メインです。皆さんの心の中にもアクマダリ王国の襲撃が記憶に残っていると思います。前国王、王女…私たちのお父様、お母様は命と引き換えにこの国を守ってくれました。偉大なる前国王の意思を継ぎ、私たちはこの国を…国民を全力で守り抜きます! 同じく王女であり、妹のサブもよろしくお願いします!」


観衆が最高潮の盛り上がりを見せた。その少し後ろでサブは羨望と劣等が入り混じった表情で姉を見つめていた。


二人が国王になってからは国務に追われる日々となり、一緒にいられる時間が少なくなったが僅かな合間を縫って、空いている時間にメインはサブの所へ行っていた。

姉妹として一緒に居れる時間が少なくなった分だけメインの愛情はより深いものへと昇華しており、より一層の寵愛ちょうあいをサブは受け入れる他なかった。


サブ自身も王女となって姉の背中がより大きく見えるようになった頃、一大決心をする。

これまで他国との外交などにはほとんど表に立つことが無かったサブが後を追うようにして一歩を踏み出そうとしていた。


ある夜、今日も慌ただしい一日が終わり、二人用のベッドにメインが入る。

サブは先にベッドに入って寝ていた。


「おやすみサブ……」


いつものように髪を撫で眠りにつこうとしたメインだったが寝ていたはずのサブ目を開けると突然メインの手を握った。


「お姉ちゃん、少し話を聞いて……」


いつもなら二人が寝静まっている時間。サブは大きなベッドの中でこれまで募っていた思いの丈をゆっくりと話し始めた。


「私、今までお姉ちゃんに甘えてしまってたの。でも……王女となったからにはいつまでも子供のままでいられない。あの時のようにいつまた襲撃が来るか分からないし、お姉ちゃんばっかりに負担もかけさせたくない……何よりこれまで沢山お世話してもらった分、今度は私がお姉ちゃんのお姉ちゃんになりたいんだ……ずっと気にしてくれてるのは嬉しいんだけど、もう大丈夫だよ! 私もお姉ちゃんのようにかっこよくて優しい人になりたいの!」


楽しい時も泣いてる時もいつも一番近くにいてくれてたのは姉であるメインだった。

王国が襲撃され、両親と最期まで一緒に同じ時間を過ごしたかったサブをメインはまだ見ぬ大きな世界へ連れ出した。

だから今こうして二人、この国で暮らせている。


あの日からお父さんのように格好よくなりたい。お母さんのように優しくなりたいと常日頃思っていた。


しかし過保護なメインは困難からサブを遠ざけ、苦労を全て一人で背負っていた。本当は辛くてしょうがなかったはずなのに、弱いところを見せないで両親からの願いそのままに役割を全うしていた。

一国の王女として姉妹の姉としてメインの覚悟はあの時から相当なものであった。


長年秘めていた想いをメインに伝えた。眼をつむっているのでメインの表情は見えない。


しかし握った手はサブの決意に応えるようにして時折握る力が強くなったり弱くなったりして、感情の変化が表れていた。


次第に握り合った手の力が互いに弱まると、サブは目を静かに開けた。開けた先には姉の嬉しそうな表情が視界一杯に映った。


「サブ、ごめんね……お姉ちゃん何にも分かってなかったね……サブを大事にし過ぎちゃってた……もう大人だもんね」


サブの決意はメインに届いていたかに思われた――が、メインの首に掛かっているダイアモンドの宝石が妖しく光った。


「その気持ちはすっごく嬉しいよ……けれど今は私もサブも王女になって間もないし、国にとって大変で大切な時なの。勇気を出してくれるのはすっごく嬉しい!けど、それでサブの身に危険が迫ってしまうのが怖いの。だから……今は我慢してくれないかな……辛かったらすぐに言って。私はいつでもサブの傍にいるから」


一度であれば偶然とも思えるが同じようなことがこれまで何度もあった。

死ぬまで世話焼きをされ、姉以外誰かも必要とされない人生を歩むことが嫌でしょうがなかった。


両親と別れの時、サブはこの国を守るという気持ちを忘れたことはない。


メインが主に勤めていた国務も手伝いたいと相談したことは何度もあった。

それなのに、危険な橋を渡らせてはくれなかった。


(私なんかいてもいなくても同じなんだ……国の人、周りの人から必要とされているのはお姉ちゃんだけ……誰からも必要とされていない、居てもいなくても変わらない存在……)


変わりたかった。


変わりたかったのに変われなかった。


変わろうとする度に邪魔が入るから変われなかった。


劣等感が徐々に憎悪ぞうおの感情に代わっていく。

胸にかけているペンダントの宝石が黒く光った。

今までの劣等感、怒り、悲しみ、喜び、サブを構成する数多の感情が宝石に吸い込まれていった。感情を吸い込まれ、肉体から生気が失われる。 

無感情となった心はやがてノイズの無い真っ黒な瞳へと変えた。

感情を奪ったペンダントから瘴気が立ち込めると、みるみるうちに身体を包み込んで影を作った。

影はサブの心を暗澹に染め上げる黒い蜃気楼が舞い踊った。


「なにこれ……すっごく心地良い」


夢見心地の肉体はつま先を立てれば今にも浮き上がりそうだった。

身体の芯から真っ黒な力が脈動する。

自分の身体ではないような生命力を感じた。

溢れかえる負の感情をコントロールし、使役させたサブは圧倒的な力が体内に漲ってきて今までにない高揚感を得た。


「ううっ!!」


突然サブの頭に激痛が走る――間違いない、メインがここに来る。

もう、すぐ傍まで来ている。


「私の中に入ってこないで!」


サブは頭に走る凶悪を払いのけると頭痛が収まり、同時にメインの気配が消えた。

姉の力に打ち勝った顔からは不敵な笑みが止まらなかった。


サブが宝石の力に目覚めると、瘴気に引き寄せられるように巡回中の一人の兵士がサブの前に現れた。


「サ、サブ様!?」


普段であれば気丈に振る舞い、かしこまった挨拶の一つでもするのだが、姿を見た時のその代わりようにただならぬ恐怖を感じていた。


足がすくみ、その場にへたり込んだ兵士の下にサブはゆっくりと歩みを進めた。そしてその冷たい手を兵士の股間にあてがった。


「サブ様!? お、おやめください!」


突然の事態にどもりながら兵士は狼狽うろたえる。

そんなことはいずしらずの表情でサブは衣服に護られた肉棒を指先一つ一つで揉み扱いた。


「私はこの国の王、サブだよ?誰にそんな口きいてるのかな?」


肉棒を握る力が強くなる。指先の腹で睾丸こうがんを揉み込み、指と指の間で肉根を挟み込み、搾り取るようにしてまさぐった。

滑らかな指使いに抵抗の余地なく懐柔された肉棒は本能のまま血液が循環し、赤く、そして硬くなる。


「王女様におちんちんとたまたま握ってもらえて気持ちーね。兵士さん?」


骨抜きにされた兵士はその場で快楽の餌食となっていた。

布越しにカウパーのシミが広がっていく。巨肉棒は今にも布をはちきる勢いで隆起していた。


サブは悪戯な表情をしながら指を絡めるのを辞めようとしない。

同時に瘴気が兵士の身体を覆い始めていた。


「ぐぁっ……ああ……ああ……」


悦びの果てに訪れた苦しみが兵士の精根を枯らす。


「自分のおちんちんも守れないで誰かを守れるのかなー? ねえ? 聞いてるのー?」


瘴気に蝕まれた兵士はうつろな目で心身が喪失していた。サブの問い掛けにも唸り声をあげるだけだ。


反応が鈍くなってきた玩具を扱う手も乱暴になっていく。そして遂に瘴気は兵士の身体を全て呑み込んだ。


「私の邪魔をする人はいらないよ」


サブは無関心に破裂寸前の肉竿を思い切り絞った。直後、溜め込まれた白いマグマが解き放たれる。


「の、呑まれ……る……」


瘴気の中に映っていた兵士の蜃気楼はやがて闇に吠えながら消えていった。

サブは指に付着した僅かな精液を床に擦り付け、兵士の存在証明を消し去った。


それからサブはメインに隠れながら闇の力を使い始めた。

木を黒く枯らすことも容易にできた。念じたことが瘴気になって対象を取り込むと願い通りの結末になる。サブの力はメインに押さえつけられていた感情を吐き出すようにして無尽蔵な闇の力を手に入れたのだった。


とある日サブの元に二人の男と女が現れる。それはポールとリングだった。


「ブェツッブブブブ! おめぇか? 俺様をここまで呼び出しやがったのは?」

「あらぁ。私のおちんぽを受け止めたい子からのお誘いと思ってきたら、とんだ可

愛いお嬢様じゃないですかぁ」



二人はサブの力によって呼び寄せられた。サブの最終目的を達成する駒として。


「うふふ……どんな人たちが来るかと思ってみたら、想像以上の化け物さんたちが来てくれたね」


自分と同じ力を持った者と対面し、その凶悪で下劣な雰囲気に共鳴し嘲笑ちょうしょうした。


「おい。ここに俺様を呼び寄せたんだからやる事は決まってるんだよなあ? ブェブブ! 王女様と淫乱女を二人同時に相手してやるからさっさとまた開くんだな。ブビャァアアアッアッアッ!」


ポールが巨大な手でサブを捕まえようとする。


「ごめんね。あなたに私が犯されるストーリーはないの。あなたは坑内で邪魔な人間共を皆殺しにして、お姉ちゃんと戦ってくれればいいの。私の願いを無視してでもセックスしたいんなら相手してあげるけど……セックスしてみる?」


サブの身体からポールの体長を上回る巨大な瘴気が立ちはだかった。

その瘴気は蜃気楼を映し、サブとポールがセックスをした顛末が浮かび上がっていた。

瘴気に圧倒された、ポールの額から脂汗が迸る。

同じ闇の力を持つ者同士ポール自身も圧倒的な力量を感じ、恐怖で身体が震えていた。


「申し訳ございません! 申し訳ございません!」


炭鉱夫としての本能が呼び戻される。


呪いにかかったようにサブの前で額を地面にこすり付け、猛省をした。


「ふふふ……セックスするのは無理でもお姉ちゃんと戦って勝ったら好きにしていいよ。セックスするのも殺しちゃうのも自由」

「あの化け物とはセックスしたくない気持ちはすごくわかるわ……うふふ。男なんて子供一人産むことのできない役立たずだもの。それに比べサブ様はこんなにも美しくて、強い力をもっていて…是非ご一緒に繁殖していただけないかしら」

「いいよ。しよっか。中に出して子供も作っていいよ」


あっけない快諾にリングの股間は高鳴った。生殖器をもった雌の本能が闘争心を剥き出しにする。


しかし、その隆々に蜂起した剛槍をサブは手で押さえつけた。


「セックスはお姉ちゃんが来る前までのお楽しみ。もう少し我慢しててね」

「あぁん。サブ様ぁ……なんてじれったい……」

「それじゃあ。私とお姉ちゃんが炭坑に行くのは来週だから……ポール、よろしくね。上手くいったら……セックス、しようね」

「ブェェ……ブビビャァァァアアアアアアア!!!」


ポールの士気は最高潮に達していた。その後ろで繁殖セックスをお預けされたリングもその股間を鎮めるのに精いっぱいだった。


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