第18話

第四章  秘めたる想い


「ハアッ……! はァッ……ウガああっ!? アあっ! あっ……!」


惨殺劇が終わりを迎え、灰と化した敗者の遺体は消滅していた。

それでもメインの怒りは収まることを知らず、しばらくはぶつけようのない憤りを声に乗せてむなしく発散させていた。


その怒りもしばらく経つと徐々に呼吸が落ち着きを取り戻してきた。

体内から発せられる炎のオーラも鎮火、深紅の髪も本来の美しい白銀の色へと戻り、怪物としての成りを潜めた。


宝石の闇の力を多用した身体はポールを破った時以上に蝕まれていた。

普段の明朗で快活な王女の姿はそこにはない。

目の生気は枯れ果て、焦点が合っていない瞳は光を照らす光の使者ではなく、見るものを不安にさせ、近づけさせない闇の存在へと変わり果ててしまった。

それでも、未だ費えることの無いたった一人の家族への愛は変わらないものだった。


――……サ……ブ…………


体力の限界を迎えたメインがしゃがみ込んだ態勢から力なく倒れる。それを優しく受け止めたのは誰の他でもない妹のサブだった。


「サブ……大丈夫……? ごめんね……サブを危険な目に遭わせちゃって……お姉ちゃんがいなくて一人で寂しかったよね。私も辛かった……心も身体もこんなに汚れちゃって……お姉ちゃん失格だね。ごめんねサブ。ごめんね……ごめんね」


疲労で視界が何度も暗転しながらも言葉一つ一つを何とか繋ぎ合わせていく。


再会後のサブはメインの知る尊い妹とは別人になっていた。


姿形は同じでもその物腰柔らかい雰囲気は影を潜め、ジメジメと張り付くような重苦しい邪気と見たこともないあざけるようで冷徹な表情。そしてリングの期待を裏切る行動。


始めは動揺も激しく、自分自身の心が折れてしまった時もあった。

それでも諦めきなかった。

信じ切れなかった想いが込み上がり、結果的に全てを受容した。サブがどんな姿に変わり果てようが、どんなに辛い存在となろうが、サブが生きている。

私のことを認識してくれている。それだけで十分だった。


「お姉ちゃん。よく頑張ったね。私、どんなことがあってもお姉ちゃんが助けに来てくれると信じてたよ」


感動に満ち溢れた表情を浮かべながら再開を喜んでいたサブ。

しかしその目は瞳の奥で黒く黒く、力尽きた姉を品定めするように見据えていた。その瞳の意味が持つものはメインも理解していた。

妹が私のことを褒めてくれた。期待に応えることができた。

その事実だけで一時は空いてしまった溝が塞がっていく。

家族冥利に尽きるとはまさにこのことだ。

今すぐにでもこの満身創痍の身体を投げ出して抱き付きたい。

ありったけの想いを伝えたい。いうことのきかない四肢とは正反対に感情は激しく沸騰し高揚は止まらない。


「こんなに長い間サブがいなくなったことなかったから少しの間、お姉ちゃんおかしくなっちゃったみたい……でも今はサブと一緒にいるからいつものお姉ちゃんだよ……怖かったよね……沢山甘えていいよ……最後までずっとお話聞くからね。遠慮しなくていいんだからね」


自分のことなんてどうでもよかった。

それよりも今、目の前にいる妹が一早くこの忌々いまいましい記憶から解放されてほしい。そんな気持ちでいっぱいだった。


だが、その言葉を聞いた途端、サブの瘴気が更に大きく、濃黒になり、形どった柔和な雰囲気が憎悪ぞうおあふれた。


すると予定調和の憤怒の感情が沸騰し、サブの全身を首に掛けている真黒に染まった宝石が包み込んだ。

細い血管からは想像もつかないほどに血管が浮き上がる。

一瞬、般若の容貌が現れたが、すぐさまその表情は先と変わらない元通りの顔に矯正された。


「そんなことできる訳ないよ。お姉ちゃんは自分の身体がどうなってるか分かってない。今にも消えていなくなっちゃいそうだよ……そんなの絶対嫌だ……! 私は一人でも大丈夫だから! お姉ちゃんが大変な時は私が助けるから! ……だから今はゆっくり休もう?」


始めは機械的に言っていた言葉が次第に感情的になっていく。


これはサブが望んだシナリオ、ここでサブはメインを冷静に、優しく、あるべき姿に押し潰すはずだった。

僅かないびつが生まれていたが、その歪みにすかさず宝石が反応し、サブは平常心を取り戻す。


(ここまでは全てが順調だ。もう一押し。もう一押しすればお姉ちゃんは私のものになる。)


そんなことをくわだてていた傍でメインは必死に意識を保って妹の決意に涙を浮かべていた。

だがこうする間にも身体の力が段々と弱くなっているのは明白だった。


(もう少し心身削ってから次のフェーズに行きたかったけど……これ以上いたぶるとお姉ちゃんの身体が持たないかな。頑丈だけが取り柄なのに……使えない)


心の中で毒づきながら、サブは自身の胸で黒く光る宝石に祈りを込め、声をかけた。


「お姉ちゃん!? 大丈夫!? しっかりして! 嫌だよ! お姉ちゃんがいなくなっちゃうなんて」


「サ……ブ……ごめんね……瞼が……すっごく……重たくて……力が入らないの………」


首の皮一枚で意識を保っていたメインだったが、とうに心身共々限界を越えている。

瞼がゆっくりと意思に抗いむなしく落ちていく。

一時を争う事態だったがサブは平然とした心境で来るべき時を心待ちにしていた。


その背中からは人間のものではない数本の細引き触手と一本の極太触手が悪戯いたずらにその姿を現し始めた。


「……お姉ちゃん! 私の宝石の力で絶対に助けてあげるから! だから死んじゃいやだ!」


――メインからの返事はない。だがまだ息はしている。待ちに待ったこの状況。 サブは抱えていた姉の身体を壁に寄りかからせるように座らせ、互いの膝が触れ合う距離に座った。


「ちょっと気持ち良くなるけど我慢してね。キヒヒッ!」


抑えきれないよこしまな感情が奇声として思わず漏れ出してしまう。


背中から生えている大根ほどある極太触手。その先端は男性器の形をしており、触手特有の粘度の高い液体を滴り落としている。


極太触手はゆっくりと意識を失った姉の身体に近づくと四肢を這いながら唇へと向かった。

先端からカウパーに似た透明な粘液を纏った触性器が唇と優しいキスを交わす。瑞々しい潤いのある唇をさらに粘液がその艶やかな光沢に磨きをかける。


そして触手は先端の性器を舌代わりにしてゆっくりと唇から口へと侵入した。

口内の生温い温もりが触手を優しく受け入れる。

その柔らかさに触発されるようにしてすぐさま先端の亀頭がエラを張りながら血液を凝縮させた。


「それじゃあお薬注入するねー。最初は特に気持ちがいいから暴れないでね。キヒヒッ!」


サブの合図とともに口内に侵入した触手の鈴口が大きく花開いた。そして膨れ上がった性器を破裂させるように四方八方に触精液を弾け飛ばす。


「んきゃあああああああああ! あああっ! ああっ! あああっ!」


意識を失くしていたのが嘘だったようにメインの全神経がゼロからイチに変わった。


壁にもたれかかっていた背筋は一瞬にして落雷を撃たれたように張り詰め、口を中心に過剰な生命エネルギーが体内に駆け巡っていく。


粉々に折れていた骨はたちまち再生し、出血を伴う傷は内部から修復された。 元々滑らかで手入れの行き届いた白肌は、爬虫類の脱皮を連想させるほどに生まれ変わり、あっという間に超回復を果たしていく。

全身に活力が漲り、五感がかつてないほどに研ぎ澄まされる。


それでも尚、余りある触精液の効能は快感としてメインの身体を支配していった。剥き出しになった神経を炎で炙られたような熱が体の芯から湧き上がり、熱さを通り越し、寒気にも思える灼熱の快美が全神経の疼きを加速させる。

一滴でも絶大な効果を発揮する劇薬を夥しく浴びせられた肉が、骨が、皮がその殺人的快楽に呼応しない訳が無かった。


「ああっ! あああああああ! じぬっ! じっ……ぬっ! じぬううううううう! じぬうううううううううう!」


痛みすらも凌駕りょうがする激悦が快楽者をのたうち回らせる。

規格外れの魔悦を到底抑えきることはできず、電気が切れそうになる電球のように生の苦しみと死の快楽を毎秒行き来していた。


内臓が握りつぶされそうになる感覚が襲えばすぐさま膨張し、破裂しそうなほどに膨れ上がる。喉から内臓の嗚咽が溢れ出そうだった。


一番の性感帯である膣口はかつてない収縮を開始する。


生命の根源である子宮奥から洪水愛液が分泌され、あっという間に子宮内部を愛液で満たした。

その愛液を子宮壁がオアシスを求めるように吸い尽くす。

愛液はすぐさま間欠泉のように吹き出し、飢えた肉共がその渇きを潤すために収縮、湿潤のサイクルを繰り返す。

それでも吸い尽くせない愛液が肉の壁を突破し、膣口からは火花のような愛潮に為す術なく、身を滅ぼされるだけだった。


「どう? 私の特性媚薬は? 気持ちいいでしょ? この触手液はお姉ちゃんみたいな瀕死の状態でも一瞬でうっとおしいくらいに蘇っちゃうの。ただ、その回復力は絶大。人間は当然、化け物の集まりでも持て余してしまうほどにね。でもお姉ちゃんなら耐えられるよね! 可愛い可愛い妹のお願いなんだもん!」


「ぐががっ! ががっ! ……ああああああああ!」

「って、聞こえてないか…キヒヒッ」


サブのあくらつ悪辣あくらつな声など全く届いていなかった。

歯を磨り潰しながらガチガチと音を立て、言葉になっていない絶叫が絶え間なく続いている。

本人の意思など始めから存在せず、快楽だけを組み込まれた実験体は決して終わることの無い無限絶頂を猟奇的に味わわされ、制御不能となった全身の痙攣に踊り狂った。


「滑稽! 滑稽! 可愛いよお姉ちゃん。このままエクスタシーに死んでいくお姉ちゃんを弄ぶのもいいけど、死なない人形ほどつまらないものはないからね。生き物は限られた命の中で懸命に生きようとするから興奮するんだよ? だからお楽しみタイムはおしまーい。お薬ちゅーちゅーの時間だよ」


サブの背中から生えている極太触手を狂楽の源泉である秘所にあてがった。


蠢く巨大な淫手が肌に触れるだけでも狂人の過敏な感覚神経が全身の毛を逆立てる。そんな様子を愉しむようにして淫手は収縮を繰り返す膣口を侵犯した。


「ぐっっっ! ぎっっっ! いいぃぃいい……っっっ! おおおおおおっっっう!」


女の鳴き声にしてはあまりにも低い、鈍重どんじゅうで地鳴りのような嬌声が淫手を歓迎した。


膣内は入口の時点で全てを貪り尽くさんとばかりに愛液と肉によって形成された膣海の膣圧が容赦なく侵入者の触手を手荒く迎え入れる。


あまりの圧力に常人のペニスであれば一瞬で枯れ木、再起不能になってもおかしくなかったが、極太触手はその圧力を愉しむかのように奥へ奥へと蠕動していく。


「おっ……おぐっ! おぐっ! おぐっ……きゅるうううう!!」


強行突破の快進撃が膣肉襞をメリッメリッと押し開き、極上の魔悦を開拓していく。


呼応するように熱い襞の抱擁が迎え入れる。そして子宮まで到達した極太触手は雌の神域に侵攻した。


「じ……じぎゅう…ぎっっだ! じょ……じょくしゅ……んぎぃ。おっっっっぎ。ぎもぢ……しょく……じゅ……もっど……おおっっっつ!!!! んぐぅぉおおおおぉぉぅぅぅぅおおお!」



快楽の獣が品性の欠片もない咆哮をあげる。


肉体は修復した骨を再度折る猛烈な勢いで背骨を激しく弓なりに逸らし、下腹部の秘境にありったけの神経と力を込め始めた。


淫手は子宮内最奥に先端の雄性器で行き止まりの子宮を押し潰した。亀頭は子宮の壁に飲み込まれるように跡を残しながら飲み込まれ、子宮は亀頭の印を刻まれながら押し潰されていく。


「おっぎ……しゅわれるっ! ……しゅわれるっ! おまんごの快楽しゅわれるぅぅぅぅぅ! いぎやあああああああ!」


感情を喪失していた心身は今、「快楽」という一つの要素で構成されている。 その快楽が今正に奪われてしまう……!


本能が危険を察知し、拒絶心という感情を取り戻させた。

しかし、触手はそんな願いを嘲笑あざわらうかのように強奪を開始した。


「んぐおおおおおおお! 身体がっ……気持ちいいのが……ぅっっ……しゅわれるぅぅ! いやあああっ……! じぎゅうういやああああ!」


生命の最奥――夥しい量の快楽を極太触手は吸い上げ始めた。途方もない生命エネルギーが主の元へ戻っていく。


結合部である亀頭を始めとする触棒も愛液と媚薬が混じったエネルギーを吸い上げて、瞬く間に破裂しそうなほど膨れ上がっていた。

それでもメインの身体から快楽が尽きる様子はない。

快楽を吸い上げられること。それ自体を触媒とし、新たな快楽を生成していた。


「ぎもぢいいっっっっ! うううぅぅぅうう!!! とっ……とぶっ! とぶとぶとぶうううううう! じぬううううううう!」


激悦を奪われまいと必死に膣襞の収縮を強め、秘境液を分泌させ、快楽にすがりつく。


だが、抵抗虚しく触手の搾楽が徐々に上回っていく。

小便より激しい洪水をまき散らしていた触愛液は次第にその勢いを奪われ始める。触手ごと押し潰してしまいそうな収縮圧もエネルギーを吸って膨張する極太触手に押し広げられる形でその力を弱めていった。

瑞々しく、光沢すら放っていた異常な肌艶も元の健康的な肌に代わっていった。


「いやぁ……気持ちいいのが……いやぁ! ……いやぁ! ……返して! 私の気持ちいいの返して!! 返してよおぉぉぉ!」


エネルギーを多量に吸い取られたメインの身体は元の状態に戻りつつあった。

それでも一度刻まれてしまった獄悦が忘れられず結合している極太触手を両手で握り、ありったけの力を込めて絞り始めた。


「返せっっ! 返せッッ!!!」


粘液で手がぬめつき、中々うまく絞れない。

掌、指先に力を込めて思い切り絞り上げる。

触手は乳房の様に柔らかくそれでいて弾力もあった。

絞った部分は凹み、手応えはあったが奪われた媚薬液が亀頭部分から噴出されることはなかった。

諦めることなく絞り続けたがとうとうパンパンに張り詰めた触手が媚薬を零すことは一滴もなかった。


「あああっ……快楽……全部っ……うわあああああ!」

「キヒヒヒッ! 媚薬を吸い尽くして大人しくなると思ってたけど、干からびても藻掻もがき続けるなんて。よっぽど気持ち良かったんだね」


死の淵に立たされていたメインを荒療治で復活させたサブは次のフェーズへ移るべく悪辣な笑みを浮かべていた。


――ああ………ああ……


媚薬液を体内から全て吸い上げられたメインの身体は回復し、意識を取り戻し、手足を自由に動かせるまでになった。

あれだけの快楽を一度味わってしまうとその夢からはなかなか抜け出せない。

夢遊病者のようにうつろな目で自らの突起豆を指で弄るが、欲の足しにもならない申し訳程度の愛蜜が滲み出るだけだった。


「おちんぽ……足りない。まんこにおちんぽ足りないよぉ。触手おちんぽぉ……」


砂漠で水を求める旅人のように肉液を求める。


「お姉ちゃん。お疲れ様。触手ちんぽくわえて元気になった?それともまだ足りないかな?ヒヒヒッ」


姉の元へゆっくり歩み寄る。しかし、疼ききった秘口に意識は集中しており、妹の方を向いたまま愛液の源泉となるGスポットを一心不乱に掻き出している。

欲に狂いきった姉の姿を愛玩玩具を見る眼差しで剥き出しの胸乳に優しく触れた。


「おきゅうううんっっっ!?」


触れただけで飛び跳ねるような快感が襲い、舌を突き出しながら腰を前後に痙攣させる。

媚薬を吸い出されたと言っても今のメインの身体は一押しすれば雪崩式に倒れてしまうドミノのようなガラスの肉体となっていた。


それでもサブはお構いなしに胸から臍、臍から秘所へと指先を伝わせる。

女性らしい繊細なタッチの中にも相手の尊厳を奪ういやらしさが内包されていた。


「お姉ちゃん。やっと姉妹水入らず二人だけになれたね。私、悪い人たちに攫われてすっごい怖かったんだよ……でも、お姉ちゃんなら絶対に助けに来てくれると信じてた。白馬の王子様だね」


優しい言葉とは裏腹に悪戯な手つきが姉の下腹部を弄ぶ。まだ快楽に残滓ざんしに酔いしれているメインは全身で悦びを表現する。


「私たちずっと一緒だったよね。生まれてから今日まで。一日たりともお姉ちゃんの顔を見ない日はなかった……今回だってお姉ちゃんはこうしてボロボロになりながらも迎えに来てくれた。私が酷いこと言っても諦めずに救い出してくれた……お父さんとお母さんが亡くなった時もそう、いつだって私はお姉ちゃんに護られてきた」


秘所を弄ぶサブの指に段々と力が入っていく。

自らの指では濡れることのなかった膣口が湿り気を帯びてくる。


「私はお姉ちゃんに比べて体も弱くて、運動も全然できない。それに恥ずかしがり屋で自分ひとりじゃ何もできなかった。傍にはいつもお姉ちゃんがいた。お人形のようにして毎日護られ続けた。危険な目に遭いそうになるとすぐさまお姉ちゃんが現れて助けてくれた。その背中を後ろで見て、舗装された綺麗な道を歩くだけだった。王女になってからもそう、いつも最初に声をかけられるのはお姉ちゃん。それもそうだよね。私は何もしていないんだから」


たまたま母と父の間に生まれた存在。一人の人生を次から次へと閉ざして自分だけの世界の中に閉じ込めておく邪魔な存在でしかなかった。

しかし王家の家族、姉妹という立場が逃げ出すことを許さなかった。常に姉と比べられるようにして見られるのが本当に嫌だった。

そんな気持ちを知る由もないメインはひたすらにサブを甘やかし続けた。


「だからね……私は一人になりたかったの」


淡々とした語り口調で言葉を繋げていき、産まれてから今に至るまでずっとしまい込んでいた感情をゆっくり取り出した。


「え……」


その一言を聞いたとき快楽に溺れていたメインがサブの声に反応する。

火照り紅潮しきっていた身体から血液が抜き取られるように全身から寒気が襲ってくる。


「鉱山爆発を起こしてさらわれたのも、ポールとリングをお姉ちゃんと戦わせたのも全部私が描いたシナリオ。元々二人はこっち側の人間だったからこの話をした時はすごい嬉しそうだったよ。普通の人間と違って全然壊れないから本気で愉しんでたし。二人にはお姉ちゃんのこと殺していいっていうのも伝えてたし……実際二人とも殺してくれたしね。でもお姉ちゃんは宝石の力によって死んでも蘇る力を手に入れた。ちょっとやそっとのことじゃ死なないのはその宝石を見ればすぐにわかった。その鬱陶しくてたまらない私への感情が一つたりとも消えないまでは何度でも…だからその気持ち悪い炎を一つ残らず消し去るために仕組んだお話なの。まあ、リングとのやり取り見れば普通は気づくと思うんだけど、私のことになるとお姉ちゃんは空想の世界しか見えなくなるからね。あれだけ言っても最後まで馬鹿の一つ覚えみたいに私が操られていると思っていたようだし……どう? 楽しんでもらえてる? ふふふっ」


今まで溜まっていた鬱憤を吐き出すようにして明朗快活に真実を打ち明けた少女の表情は歓喜に満ちている。


「………………嘘………嘘だよサブ………」


悲壮。悲哀。焦燥の津波が上から覆いかぶさる。

最愛の妹を助けるために身体も心もボロボロに磨り潰した。

今の自分が自分と思えないほど滅茶苦茶な感情が渦巻き、ポールとリングを殺めた事実。

嫌な感情が次々と生まれ、滅茶苦茶に混ざり合い、今の汚れたメインに変えていった。


――それでも! それでもサブ、妹への感情だけは無くさなかった。それが潰えてしまったら私は本当に無くなってしまうから。


だが……その時が訪れたのかもしれない。

いや、始めからサブはその時を待ち焦がれていた。

知らず知らずの傲慢ごうまんだけでここまで苦しめてしまった。信じられない。

これが最愛の家族の本心なのか……そむけたくなる現実を前にただ声を震わせるだけだった。


「お姉ちゃんは私から何を言っても、どんな目に遭おうともその呪われた信念は祓われないことがよくわかったよ……だから良い方法を考えたんだ」


サブの背中からまた、触手が伸びてくる。

媚薬液を放出した極太触手ではなく今度はイソギンチャクのような細い触手が無数に束を成し、わなわなと蠢いている。

先端は花のように開いた触手口が獲物を求めるようにパクパクと開閉していた。


「今からお姉ちゃんの脳味噌の要らない部分を触手に食べてもらって考え方を改めてもらうんだよ」


その言葉を聞いた瞬間身震いがした。顔面は蒼白になり目から生気が消える。 

記憶を食べられてしまったら何も残らなくなってしまう。そうなってしまうのはどんな苦痛、凌辱、死よりも恐ろしいものだった。


だが、これはサブが心から望んでいることなんだ。

私は今までその気持ちを汲んであげられていなかったんだ。

そう思うと自然と体は落ち着きを取り戻していた。


「……いいよ。サブのお願いだもんね……私の心と身体、自由に使っていいよ」


これまでの記憶が全て無くなる――今にも泣きだしそうだったが、最後まで頼もしい姉でいたいと思う気持ちが、溢れ出そうになる感情を押しとどめていた。最期の時間を惜しむようにメインは目を閉じる。


「……これだけ言っても最期の最期まで変わらなかった……まあいいや」


無数の触手がメインの耳元まで近づく。触手同士が絡み合い、卑猥な音を奏でる。


「それじゃあ、バイバイ」

「………………バイバイ」


ゆっくりと両耳に触手の群れが脳を食べに雪崩れ込んでいった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る