第17話
「どう?リング、お姉ちゃんとの赤ちゃんできそう? それとも……死んじゃった?」
ピクリとも動かなくなったメインを横目にサブは薄気味悪い顔を浮かべていた。
膣穴から逆流した子種が崩壊したダムのようにとくとくと地面と被辱体を白に染めている。
「そうですねぇ……残念ながら死んでしまいました。いくら宝石所持者といえども結局は人の子。心の
「私の見立てだと、サブ様の最後の一言が彼女に止めを刺したように思えますけどね」
「うそぉ、そんな訳ないじゃない。悪いのはあんたのおちんちんじゃない。私だってあんたのおちんちんすっごく苦しかったんだからぁ。余計な赤ちゃんもできてたっぽいし……」
意地悪い調子で悪びれる様子もなくそのたくましいリングの雄棒を雌の表情でいやらしく見つめる。
「あらぁそれは光栄でございます。サブ様が許してくれるのであれば私は今からでもサブ様との子を孕ませる準備はできてますので……その証拠に……もう私の遺伝子も次なる身体を求めております」
暴走する精を抑えきれないのか時々屹立した肉棒を手淫で慰めている。
「いいよ。今度はリングの赤ちゃん産んであげる。でも、その前にダッチワイフのお相手が先かもね」
リングが咄嗟に視線を移した先では動くはずのないメインの身体がゆっくりと動き出していた。
起き上がると同時に周りの小石たちが重力に逆らうように浮き上がり、近づくだけでも皮膚を溶かしてしまいそうなほどの熱波と赤黒い
呼吸をするだけでもその痛みに気を失ってもおかしくない満身創痍の状態でどこに立ち上がる力があるのか、リングは深く恐怖をしていた。
立ち上がった王女の姿はまるで人間ではない、野獣であった。
凛々しさと快活さを現していた白銀のポニーテールは引き裂かれるように解かれ、怒りの血で染められた深紅の髪が両目を覆い、その野性味を物語っている。
口からは血に飢えた荒い吐息と涎が荒々しく呼吸している。
両目からは光を失った深淵へと引き込まれてしまいそうな黒の瞳が標的のリングを捉えていた。
「ォァ……ア……アァ……オォ……」
人の言葉ではない
「これはこれは……驚きましたわ。一度息の根が止まってから蘇ってくるなんて。それでこそ選ばれし宝石所持者、ミネ王国代七代王女というもの。まだまだ楽しませてくれるとは
戦闘経験豊富なリングは目の前の暴走したメインと手を合わせずともその危険さを肌で感じていた。だが、それ以上に――
(あの狂った状態で力任せに殴られたらどんなに気持ちいいのかしらぁ……!)
リングは受けたダメージを快楽に変えてしまう特異な体質。
これから始まる戦いに興奮を隠せずにいた。
その気持ちに便乗するように今度はメインからお返しのチェーンがリングの腰に巻きつけられる。
再度、互いの生死を賭けたデスマッチが幕を開けた。
「オオッ……オッ……オアァ!」
またしても先に仕掛けたのはメインだった。これまでの力と速さで戦うスタイルとは違う、力一辺倒の怪力で鎖を片手で引っ張り、リングを強引に引き寄せた。
「積極的な女も……嫌いじゃないわよ……っ!」
引力の波に乗る形で暴虐のきっかけとなった高速ラリアットを首の根元目掛けて振りぬくリング。だがその一撃は虚しく空を切った。
(ッ! 早っ、おぐぅおぉ!?)
メインは直撃の寸前、身体全体を一瞬にして深く折り曲げ、致命傷を避けた。
その反動で下から突き上げるようにリングの露わになった白い腹部に獣拳を叩き込んだ。
とてつもない衝撃であばらごとリングの身体がくの字に折曲がる。
口からは強烈な吐き気が襲い、唾が口の中から吹き出た。
「グガアアアア!」
攻撃の手を止めない猛獣。
浮き上がったリングに追撃を加えるため無防備となった肢体に大地を切り裂く回し蹴りを見舞った。
「ふっ……ぐぅ!」
獣欲にまみれた美貌に足の甲が直撃し、メリメリっと骨が沈む音を立て陥没しながら横に吹き飛んだ。だが、リングも黙っているわけではない。
即死級の攻撃を二度も喰らっておきながらその口元は笑っていた。
抑えのきかない痛みの快楽がリングに力を与えていた。
「すっごい……! あなた……さいっ高よ! もっと痛めつけて! ぐちゃぐちゃに殺して!」
メインの嗜虐心と己の嗜虐心を煽り立てるようにリングも態勢を立て直し強烈な膝蹴りを繰り出した。
「グッ! カッ……アアッ!」
肺機能を停止させる苦悶の剛脚がみぞおちの肉を最深部まで抉り取る。
リングは確かな手応えを感じていた。だが、死者の暴走は止まらない。
「グオオオオオオオオッ!」
歯を食いしばりながらターゲットを両目ではっきりと睨みつけ、ゼロ距離で無防備になった顔面にカウンターの一撃放つ。
「バカなっ……ぐああっ……!」
再度地面に叩き落され、地面に血痕が吹き飛ぶ。
身体は
常人であれば死んでいてもおかしくない撃鉄を被弾しても尚、力に変えることができるのはリングの身につけている宝石の賜物だが、自身が培ってきた強靭なタフネスが融合して始めて実現できるものだった。
その力を遥かに凌駕するの怪物の一撃。
オーバーフローした圧倒的な暴力はリングの身体を確実に壊していた。
だが、完全に宝石に支配されているリングは理性を失い、己の欲と使命に支配されてしまっている。
自分の身体がどうなろうと襲ってくる感覚は痛みの快楽。ただそれだけだった。
(あれはもうダメだね……まぁ、十分お姉ちゃんの玩具になったんじゃないかな)
遠くで二人の様子を眺めるサブはゴールの見えた行く末をつまらなそうに見ていた。
「フヒッ……ヒッ……あっ……イッくぅ……お、おおぉ……気持ちよすぎて死にそうになる……んんぅ!」
痛みの快楽がオーバーヒートして、もはや直立することもできない激悦がリングを襲う。
そのような状況でも肉体からは獣の生命力が過剰に湧き上がる。
肉棒と子種袋が風船のようにミチミチと膨れ上がり、カウパーを吹き出す亀頭の先には本物の獣が荒い息を撒きながら
「コロ……ス、コロ……ス」
自らの身体、更には最愛の妹まで穢されてしまった怒りと復讐心が魂を蘇らせた。
今のメインにはリングを「殺す」という感情しか持ち合わせていない。
復讐に燃える野獣が止めを刺すべく二人を繋ぐ鎖を
リングも止めの一撃を放つべく、最大級の宝石の力を全身に駆け巡らせた。
「捕食者になるのは私よ。この一撃でアナタはまた、敗れて私の子供を孕むの!次は死ぬ前にさっさと産ませてあげる!」
引き寄せられたリングが助走をつけて宙に舞った。
そして懐に潜り込む渾身のタックルをお見舞いすべく一直線に飛び込んだ。
予想外の攻撃にメインはテリトリーへの侵入を許し、抵抗する暇なく馬乗りマウントを取られてしまう。
秘所を中心に腰を下ろし体重に釣り合わない凄まじい力が重くのしかかった。
「ここまで私を愉しませてくれたあなたへの……ご褒美。受け取りなさい」
捕食者が怪物を呑み込もうとした時だった。メインの瞳が血の色に染まった。
「ぐっ!? 何なのこの力っ! 私が力で負ける……というの……!」
一斉の抵抗を許さなかった肉圧を上回る圧倒的な力で押し返す。
地面に仰向けになっていたメインの身体がミシミシと持ち上がり、逆にリングの身体が地面に向かって押し返されていく。
「オマエハ……サブ……ヲ……コ……ロス……」
「ぐああああああああっ! ぐっ! ぎゃあああ!」
再び地面に押し返そうとリングは最大出力で身体を力ませるが、ものともしない圧倒的暴漢に捕食者の骨が音を上げて屈する。
そして二人の位置が逆転し、馬乗りマウントになったメインは体内から
「ウガアアアアァ! ウガッ! グアアアアアア!」
死音がリングの鼓膜を突き破った。
絶望の淵に立たされているにもかかわらず、リングは
「うふふっ……殺してごらんなさい? 気持ちいいわよ……きっと」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
怪物王女はありったけの力を両拳に込め捕食者の顔面を撲殺した。
握った両手からは憎しみを抑えきることができない爪が掌に刺さり、血が流れている。
それでもお構いなしに殴り続けた。
「ぎゃっっっ! ぐぎっっ! ……ご……っ! …………………っ………………」
首から上がもげてしまいそうなほどに残忍な暴力がリングの快楽を遂に叩き折った。
耐え切れなくなった地獄の苦しみに被虐者の意識が消え去る。
それでも怪物の怒りは留まることをしらない。
顔の形が分からなくなるほど執拗にその怒りと復讐をぶつけていく。
「シネッ! シネッ! シネエッ! シネエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」
制御のきかなくなった感情を糧にただひたすら殴り続けた。
そしてピクリとも動かくなったリングの腕に巻き付いているイエロージルコンのブレスレットを引きちぎり、死者の腹に乗せ、血まみれになった拳で何度も腹と宝石を力任せに叩いた。
「ウァッ! ウァ! ウァ! ガアアアアウアアァッ!」
腹が歪な形に凹み、宝石にひびが入る。
全ての怒り、憎しみ、復讐を込めて最後の一撃を振り下ろした。ガキィッ! と甲高い音が鳴り響きイエロージルコンは粉々に砕け散った。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
変わり果てた姿の姉が悲痛な雄たけびが坑内に鳴り響く。その姿をサブは不敵な笑みを零しながら見守っていた。
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