第14話

「んっ! ……ああっ!」


膣口から何度目か分からない潮吹きが地面を卑猥ひわいに濡らした。

自らの手で慰めていた肉竹は性と痛みの相乗効果で益々屹立きつりつしている。


「こんな痛みじゃあの時、お姉さまから受けた痛みよりも遥かに優しい……退屈な愛撫はいらないの。私がほしいのはこの身がズタズタに壊れてしまうほどの激しさ……もっと厳しく、苛烈に……っ」


リングから放たれる淫と性のオーラがより一層大きくなった。


「ならば望み通り骨を折り、肉を断ち、その皮を剥ぎ取ってやろう」


冷酷なメインは腰を下ろし、全体重をつま先に預け地面を跳ぶように蹴り上げるとバネのようにリング目掛けて飛び込んでいった。

超接近戦の中で身体を宙に預ける行為は、反撃から逃れられないことを意味するが、相打ちであれば息の根を止める一撃を放つ自信があった。


「はぐっ……ぅっっ!!」


殺人拳がリングの胸に深々と突き刺さった。

ハリのある豊穣の肉乳が胸ごと貫通してしまう勢いで押し潰され、胸板に肉乳がめり込む。

身体の一番分厚い部分でも衝撃を完全に吸収することはできず、痛みにリングの背中が丸まった。

それでも倒れることはなく、むしろ痛みを快感として力に変えているオーラが増幅していく。


「今のもいい一撃だったわぁ……ほらぁ見てぇ……おっぱいもこんなに喜んでいるの」


陥没乳首が今の一撃で芽吹き、桜色の乳突起が太く長く勃起している。

肉毬から外界に解き放たれた乳首からは今にも母乳が吹き荒れそうだ。

強打の攻撃を浴び続けその痛みが邪な力へと変幻していく。女としての淫欲と雄としての獣欲が悦楽の先に待つ「繁殖」という目標を後押しする。


――まずいっ!


咄嗟とっさに胸の前で両手をクロスさせリングの反撃をギリギリの所で受けきる。

女性らしい細く、長い脚からは想像もつかないほど重い一撃だった。

先ほどの一撃は間一髪のところでかわせて躱せていたが、今回の攻撃は見えなかった。

油断していたわけでもない。

リングの戦闘能力がメインに追い付てきている証拠だった。


「あなたの方が分かっているんじゃない? 私の速さが追い付いてきていることを」


リングが言う通り、純粋な戦闘能力ではほぼ互角にまでなっていた。

攻撃をすればするほど強くなっていく相手を前に思考を張り巡らせながら苦慮している最中、その時は突然現れた。



――お姉ちゃん



優しく、聞くもの全ての心を癒してくれそうな美声が二人の空間を飲み込んだ。


「サブ!!!!!」


鼓動が数えきれないほどに高くなる。


「サブ!!!!!!!!」


身体も震え出した。


「サブじゃないか!!!!! サブ!!!!!!」


動機が止まらない。


「よかった……生きていて……本当に良かった……」


喜びと涙が止まらない。

でも鼓動と動揺は少し落ち着いた。

最初にして最後の、最愛の妹。

これほどまでに生を実感したことがあっただろうか。

私が今生きているのもこの瞬間、この信念を待ち続けていたからだ!

私はもう駄目だ。時間で言えば三十二時間四十七分三十一秒。

妹の顔を見れていなかった。

一秒一秒離れていく距離、不安、焦り、苦しみ。黒の感情が今まさに白、光へとめくれ上がった。


――ああ、なんて尊く、美しい……当たり前だと思っていて知らぬ間に忘れていたのかもしれない。

私という存在を白日の下に照らしてくれる紛れもない光。

目の前が霞んでしまいそうだ。


――いけない! 会えていなかった事実があったとしても姉としてあるべき姿というものがある。心を整えろ。いつもの私に戻るんだ。


――一番危険な目にあっていたのはサブなんだ。最愛の……いや、サブは囚われていたんだ。

心から叫びたがっているのはサブだったのに、それを受け入れてこそあるべき姉の姿だったのに……それなのに私は……なんて身勝手で浅ましい……


ごめん、ごめんね、サブ。

これからは立派なお姉ちゃんとして一時たりとも離れないから。

最近は週に三回しか一緒に入れてなかったお風呂も毎日一緒に入ろうね。

トイレも本当は一緒にしたいけど、トイレは一人がいいって言ってたのお姉ちゃん覚えてるから我慢するね。

本当に……本当に良かった……お姉ちゃん、落ち着いたよ! もう大丈夫だから、サブ……もう一度……私の名を聞かせて……


「あらぁ、サブ様じゃありませんかぁ。なんでこんな所に?」


馴れ馴れしい淫売触手娼婦の声がサブを出迎えるようにして空気を揺らした。

至近距離にも関わらずサブにメインの声は全く聞こえていないように見えるのに反してリングの声にはすぐさま反応する。


「リングお姉ちゃん急に何処かいっちゃうんだもん。私、とっても心配で……居てもたってもいられなくって」


――おかしい、何かが変だ。世界が歪んでいるのか? 私の聞き間違えか?


「サブ!! お姉ちゃんだよ! メインお姉ちゃんだよ! サブを助けるためにちょっと身体は汚れちゃったけど……でもサブが元気なら全然平気! 大丈夫だった!? 怪我してない?」


改めて歓喜と慈愛に満ちた言葉で仕切り直す。

だが死に物狂いで助けに来た白馬の王子様は相手にすらされず、そっちのけで話が進んでいく。


「私は大丈夫ですよ。それにサブ様のお姉さまがここに来るっていうんで私も……居てもたってもいられなくって。サブ様だけでなく、お姉様にも遺伝子を残せるなんて光栄極まりないですから」


「お姉ちゃんは宝石の力でゾンビみたいに身体が丈夫だからポールみたいに派手に汚しちゃっても耐えられると思うよ」


妹からぞんざいな言葉を浴びせられる姉は話の内容が理解できず、ただ呆然ぼうぜんと二人のやり取りを見ているだけ――知らない女が図々しく話している姿は姉にとって不愉快極まりないものだった。


「じゃあリングお姉ちゃん、私は特等席で二人のあっつーい種付けセックス見守ってあげるから、終わったら相手してね」


「あぁん、サブ様ったら嬉しい! 私とのセックス……気に入ってくれたんですね! 嬉しいわぁ……また一緒にあかちゃん、作りましょうね!」


サブとリング二人の会話が終わるとリングがメインの下半身……性器をまじまじと見つめていた。その様子見て愉悦の表情をサブは浮かべていた。


――サブ? 誰と話しているの? メインお姉ちゃんはここだよ? 私はサブのことが見えてるよ! こっちを向いて! 私の名前を呼んで!


一時、心が浄化されたメインからは闇の力で浸蝕された灰色のオーラが消え、髪色も元の白銀に戻っていた。


だが今の状況は信じ難かった。

現実を逃避する震えた声で必死に話しかけるが、期待とは裏腹にサブはメインを一瞥いちべつすると悪意に満ちた邪悪な笑顔を浮かべた。


「こんなのサブじゃない! ねえサブ! お姉ちゃんはとっても心配してたんだよ!?」


変わり果ててしまった姿に落胆の色を隠せない。目の前の光がスイッチによってパッと落とされたようだった。


「それにサブのお姉ちゃんはこの私だけ! あんな化け物はお姉ちゃんじゃない!」


暗闇の中でいつもそこにある灯りの居場所を懸命に探す。

だがどれだけ手を伸ばしても灯りを見つけることはできなかった。

哀しみに暮れた感情は声となり震えとなり虚空をうつ。


「どうして……聞きたくもない言葉が沢山聞こえてきてきて……もうどうにかなっちゃいそうだよ……この女に操られてるんでしょ……そうなんでしょ……サブ……」


空想にすがりつく涙が止めどなく溢れてきた。


最愛の家族との再会。喜びも束の間、期待は幻想へと没落していった。


お姉ちゃんと呼んでくれなかったこと、訳の分からない下劣な女が私の代わりにお姉ちゃんと呼ばれていること……リングとサブが体の関係を持っている。

リングの……子供を……サブが……


考えるだけで嗚咽が止まらなくなりそうだった。

メインが生きている意味、それはサブが生きていることに繋がっている。

結び付いていたはずの赤い糸が今、正に断ち切られた。


「かっっ……っ……はっっ……!」


心の意識が断ち切られそうだったメインをハンマーで頭を叩きわったような衝撃が現実へと引き戻す。

リングの強烈なラリアットがメインの首を刈り取った。


メインはダンプカーに轢かれたようにあっけなく吹っ飛ばされ、痛みも感じずにかかとが空中へ放り出される。

首が九十度、あらぬ方向へ屈折し、追いかけるようにして前を向いていた身体が視界の暗転と共に天井へとその方向をかえる。


空中で意識を取り戻したが、潰された喉は呼吸を困難にさせ、激痛を感じながら後頭部から地面に落下。

叩きつけられた反動で背中が小さく地面に打ち上げられた。


「感動の再会で心が壊れちゃったのかしら? あんなに妹の名前を叫んでたのに。何ででしょうねえ? あははははっっ!」


メインを見下ろしながら作為的な絶笑が火の粉のように降りかかる。


「いつまでもおねんねしてんじゃないわよ。さっさと立ち上がれ」


これまでの甘い嬌声とは真逆の獰猛どうもうな声色。リングは互いの腰に括り付けられている鎖触手を引っ張り、強引にメインの身体を引き上げた。


そして白銀の髪を根こそぎ掴み、サブが見ている方向へ身体の向きを変え、だらけきった肢体がサブの目の前に力なくぶら下がった。


「せっかく感動のご対面をしてあげてるのに白目剥いちゃって……さっさと起きろよおらぁ!」

「ぐぶっっ!」


暴力という特効薬が緩みきっていた身体に生命力を取り戻させる。

剥きあがっていた白い目玉も黒を取り戻し、苦痛が嗚咽となって吐き出される。


「いいわぁ……その声。その表情、もっと激しく、雑に壊してしまいたい……おい、サブ様が目の前で見てるのに項垂こうべれてんじゃねえよ」


牝の悦楽と雄の支配欲が全開に解放されたリングは、本来の攻撃的な正体を現した。


「ごぶっっ! ……うっぶ! がっ! ……おっ! ぐぇっっ……おえ……」


片腕で髪を持ち上げ、もう片方の腕が括れた細く、美しい臍に岩石のような拳を容赦なくじり込む。


臍に拳が打ち付けられる度に身体がくの字に曲がり、嗚咽を催した蛙のような声を鳴らす。


「……ぷわっ……かっ……! おっ……お……っ……おえええええええ!」

「あーらゲロしちゃった。しょうがない子ねぇ」


繰り返される殴打に消化器官が限界を迎え、逃げ場を求めるように喉を伝って吐しゃ物が溢れかえってきた。

殴打する右腕に降りかかった吐しゃ物をコナを殺した時と同じようにして舌を器用に使い、生き血をすするが如く舐め取った。


「……王女様のゲロも……っちゅぷっ! 美味しいわね……あなたにもお裾分け。んっちゅ……っぷぅ……んっ……ぁ」


舌鼓したつづみを打ちながら吐しゃ物を口に含み、メインへ口移しをした。

舌で押し込むように重なり合った二人の美しい唇と艶やかな唇が唾液を通して交わり、互いの官能が高まっていく。

窒息してしまいそうなほど長く情熱的な口淫が互いの秘所を潤わせた。


「おげっ……! ひゅーっ……ひゅーっ……おっ……ごっ……ひゅー……っ……」


その後も嗜虐欲を吐き出すようにして腹への殴打を続けられた。


メインの反応が鈍くなってくると満足したのか拳が下ろされ、持ち上げていた白銀髪を離し、自身がズタボロに仕上げた身体を労わるかのように優しく抱き寄せた。


「どう? お腹を殴られてげっげっしちゃう快感は? たまらないでしょう?」


いやらしい手つきで何度も殴って細くなった腹を、細指で指紋を拭き取るようにさすっていくリング。


「あっ……ああっ……ああ……ああ……サ……ブ……」

「あらあら……まだサブ様のことが忘れらないようねぇ。素晴らしいわぁ……姉妹の絆って。私とコナの関係みたい……」


あれだけの苦虐を受けておきながら心の底では寵愛する妹のことが頭から離れられずにいた。

望みの綱である宝石も白く光り、いつ壊れてもおかしくないメインの肉体を首の皮一枚でもたせている。

その状況を悪用する嗜虐者は悪魔の艶笑えんしょうを浮かべながら次なる乱行に興じるのであった。


「あなたは宝石武器の所持者。こんなものじゃへばったりしないわよねぇ……それにこれから私の妹になるんだからもっとスキンシップして愛情深めないとねぇ……!」

「ぐぁっ!」


抱き寄せていた身体を今度は強引に押し倒し、うつ伏せにさせた。力のない首筋を舌で一舐め這わせて肉の味を確かめると、自身の腕を首の周りにロープのように括り付け固く締め上げる。

そして一気にメインの上体を反らした。


「がががっ……がっ……うぐっ……」


一切の慈悲もない破壊的な馬乗り固めがメインの首と背骨を襲った。


頭は天を向き、完全に極まったスリーパーは呼吸をする隙間を与えない。

並の人間では間違いなく折れている角度まで上体を反らし、背骨からメキメキと骨の軋む声が聞こえる。


「きゃはっ! その苦悶に死を彷徨さまよっている表情。なんて美しく可愛らしいの…!もっときつく、へし折ってあげる!」


苦痛の表情を見せるほどにリングの嗜虐心に火がつき、拷問はエスカレートしていく。

絞殺音が聞こえてきそうなほどきつく締めあげられた顔は極度の酸素欠乏状態となり顔が紫色に青ざめ始める。

上体は九十度をゆうに超えており、背骨がボキボキとけたたましい音を響かせていた。


「…………」


激痛で声を出そうにも首を極められている状態では声が全く出なかった。

足を子供のように必死にばたつかせるが無情にも空を切る。


「どう? 死ぬ? そろそろ死ぬ? うっふふっ……いいわよ死んで。ほらっ……死ね!」


止めを刺しにリングが全ての力を腕に込めた。

酸欠となっていた黒い視界に死の誘いが目の前に現れた。


――あ、死ぬ…

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