第12話

誕生パーティーが終わった数日後の夕方、娘たちが出払っていて家には夫婦の二人だけだった。


「アナ、ちょっといいか」


いつもと明らかに声色が違う口調。大事なことを確かめるようにしてキンシはアナに声をかけた。


「……どうしたの?」


長年苦楽を共に過ごしてきた伴侶の一言だけで事の重大性を予感したアナは神妙に返事をした。


「コナのことなんだが……誕生日にお前のブレスレットを渡しただろう?あれから何かコナの雰囲気が変わってな……」


「確かにブレスレットを付けてから大人っぽくなったと思うわ」


「それから……これまで見えないようになっていたものが見えるようになっていってるんだ……」


最初は宝石の光が反射して、目の錯覚を起こしているのかと思っていたキンシだったがコナの顔―腕のブレスレットを見る度にその正体は鮮明になっていった。


「何を言っているの? 見た目は変わったけどあの子は普段と変わらないわよ」


キンシはコナから見えているものを口に出そうとするがこの一言を言ってしまえば全てが終わってしまう予感がしてしまい、声に出すのをひどく躊躇ためらっていた。


息を止めた音が聞こえてきそうなほどの沈黙。


頭を抱えていた顔がゆっくりと上がり、これまで透明だった扉をこじ開けるようにして口を開いた。


「あの男はだれだ?」


箱の奥にしまっていた、闇の光が開かれた。


「あ…あの男って誰のこと? コナに幽霊でも憑いてるっていうの?」

「違う…」

「もしかして…! あの子ボーイフレンドをゲットしたの?」

「違うだろ!!」


キンシの一喝が部屋に反響する。一度吐き出した感情は歯止めが利かない。

悲しみと怒りを噛み殺しながら考えたくもない仮説が嗚咽おえつのように溢れ出した。


「コナを妊娠した時、お前は娼婦だった。俺の他にけしかけた男がいたんじゃないのか」


鬼気迫る表情で脂汗を浮かべながらの詰問きつもんに、アナは顔が強張り、声が上手く出せずに震えながらパートナーの激情を受け止めていた。


「何か言ったらどうなんだ……俺には本当のことなんてわかりゃしない……だが、お前はあの時涙を浮かべながら二人の間にできた娘をこれ以上ない笑顔で喜んでいたじゃないか……」


キンシの脳裏には赤ん坊だったコナの笑った時にできるえくぼの違和感がフラッシュバックする。


「アナ……お前は産みの親だ。分かってたんだろ? あの時生まれたのは俺とお前、二人のコナじゃなくて、自分だけのコナだっていうことを……」


端と端で互いに手に持っていた見えない糸は宝石の光に照らされ、白日の下に晒される。

その糸をキンシが引っ張った時に繋がっていたはずの糸は引かれあう事なく、黒い糸がキンシの手元で垂れ下がっていた。


「違うわ! コナは私とキンシ二人の子供! あなたに似ている所だって沢山あるわ!」


焦りが沈黙を凌駕し、必死にキンシを説得するが宝石の闇を浴び続けたキンシの心は黒のとばりに侵されていた。


「だったらそれを証明してみろよ……コナが俺とお前の二人の子供っていうならお前の身体もあの時からずっと俺の血が! 遺伝子が流れてたんだろ!」


これまでの関係を全て振り払う慈悲なき平手打ちがアナの蒼白の顔面を赤く腫らした。不意の衝撃に床に尻餅をついてしまう。


「やめて……やめてよ……コナが私たちの子供でないなんて何の証拠もないじゃないの! それに万が一、あなたの言ったことが本当だったとしてもコナはもう私たちの家族でしょ……お願い……気を取り戻して……」


腫れた頬を片手で庇いながら涙の訴えをする。しかし、アナの必死の訴えはキンシの邪推じゃすいの油に火を注ぐ結果となってしまった。


「本当!? ……やっぱり違う男とヤってたってことだったのか……ふっ……ふふふっ……」


キンシの身体が急停止し、首の関節が外されたかのように表情が下に落ちる。


「気づいてたんだな……最初から……相手が誰だろうと自分の血が通ってればお前にとってはみんな同じ子供。俺は都合の良い男だったって訳だ……たまらねえなあ……」


怨嗟えんさうなりを上げた次の瞬間、キンシは尻餅をついているアナに覆いかぶさり馬乗りになる。

国を、家族を守るために鍛え上げられた両腕が最愛の妻のか細い首を締めあげて離さない。


「やっ……! やめっ! あなっ……た……」


首が千切れそうなほど強く絞められ、立てた爪が首の肉を深く抉る。

通気口を失った喉からは声が一瞬にして奪われた。

赤子のように足をばたつかせるが男と女では力の差があまりにも大きく、かえって絶望感を増幅させてしまう。


「お前の血は穢れた男の通った悪魔の血だ! 我が純血を継ぐリング……一度染められてしまったコナ……なんて可愛そうなんだ」


宝石の力に憑りつかれたキンシの目はおぞましいくらい血走っている。


「愛する娘たちを悪魔から護らなければならない! 俺の家族を穢した罪は死んで償え!」


息の根を締め上げる手により一層力が加わるとアナの顔はみるみるうちに青ざめ、逆流した吐しゃ物が押さえつけられていた喉の隙間から噴水のように噴き出すとキンシの顔にかかった。

最後の最後に自身の身体を穢されたことに糸が切れたキンシは全体重をかけて首と喉を仕留めにかかる。


「がっ……うっ………っか……」


茶色い泡を吹き、秘所からは小便、菊門からは糞の音が最期の断末魔を鳴り響かせた。


アナの眼から光が消え、呼吸が完全に止まると緊張で固まっていた身体が緩やかに弛緩していった。


アナが死んだことを確認し、キンシは死体を近くの林の中に放り投げた。

そして家に帰ると床に散らばった糞尿を一滴残らず丁寧に拭き取った。


「ただいまー」


その夜、コナがリングより先に家に帰ってきた。

扉を開けリビングへ入ると、鼻をつんざく異臭と部屋の違和感に思わず足を止めた。


(くっ、臭い!)


最初は強盗が侵入したと思っていたが家具などは散乱していなかった。

しかし、今日は毎日見ている風景が明らかに違って見えた。

コナは慌てて辺りを見回すと部屋の端で灰になったように俯きながら椅子に座る父を発見した。


「お父さん! 大丈夫!?」


慌てて声をかけるがキンシは動かない。

コナが近寄ると肉に飢えた猛獣の荒い吐息が歯と歯の間から肌に伝わってきた。


「しっかりして! 何があったの!?」


肩を揺らすコナの手首に嵌められたブレスレットの宝石がキンシの背中のネジを巻くようにして美しく輝く。


するとと止まっていたキンシの口がゆっくりと動き始めた。


「コナ……その宝石はお母さんからもらったんだったな……お母さんは好きか?」


「当たり前じゃない! それよりお父さんどうしたの!? 何があったの!?」


危険な状況にもかかわらず当たり前のことを聞いてくる父に理解が追い付いていなかった。


「そうか……残念だ。あいつは家族の血を汚した愚か者だ。そして悲しくも愚か者の血を引いてしまったコナもこのままでは一生その呪いを背負うことになる」


「何言ってるの!? お母さんが愚か者? 意味が分かんないよ!」


意味不明なことを言いだす父親に理解が追い付いていない。


「だが安心してくれ。これから俺がコナを救ってやる。俺の精で……血で……汚れた血を全て洗い流してやる」


コナとは対照的に淡々と話すキンシ。しかし蒸気を吹き散らすやかんが嘆きに近い音を上げるのは時間の問題だった。


キンシはブレスレットが付いているコナの腕を乱暴に掴み、身体ごと床に叩きつけた。


「あの女は長い間、家族全員を騙し続けていた悪魔だ! コナを産んだ二人の悪魔はもういない。あとはコナ……お前だけなんだ。今、あるべき姿にしてやるからな……!」


そう言うと床に倒れる娘に覆いかぶさるようにして両手首を掴み、立膝をつきながら自らの両足でコナの股を強引に開いた。


「いやっっ! いやぁぁぁっっ! お父さん離してっっ!」


脱出を試みようととするが岩のように硬い肉体は抵抗をすればするほど硬さを増していった。

見上げる顔には使命感に憑りつかれた獣が目を血走らせて吐息の混じった生温い涎を首筋にねっとりと落としていく。

人間の腕くらいあるのではないかと思うグロテスクな肉性器が血脈を浮き勃たせながら秘境へ狙いを定めていた。


「やだあああ! 挿れないでええええええ! お父さん! やめてえええええ!」


娘の猛然もうぜんたる抵抗もむなしく、迷いのない豪槍がコナの花弁をこじ開けた。


「いやあああああああああああ!」


ぶちぶちぶちぶちと腱が切れるような音が骨を伝って二人の五感を刺激する。


「痛い! 痛い! 痛いいいいいいい!」


薄い肉の花びらが強引にもぎり取られるような激痛が降り注ぎ、容赦のないストロークを叩き込む度に股関節が外れそうになる。

秘所からは愛する人との破瓜を夢見ていた処女膜から悲鳴のような血が零れていた。


「痛いっ! 痛いっ痛いっ! やめてよおお!」


けたたましい絶叫が唯一の意思表示だったが感情を失った雄は「繁殖」という使命を遂行するためだけにお構いなしに腰を振り続ける。


助かる方法がないと直感で感じたコナの身体からは抵抗の力が抜け落ち、膣穴からは僅かな愛蜜液が顔を出し、股腿を伝って床に雫が落ちていく。


「ゴオッ! ゴオッ! 俺の血で悪魔を祓う……消えろ……愛娘に潜む悪魔よ……一匹残らず染め上げる!」


悪魔の血を押し潰すように抽送は加速度的に上昇していく。

溢れ出た愛液が性器と交わり、その性器で抽送をされるとこれまでの私が父の血に染まっていく感覚があった。


そう思うと、今まで開かれることのなかった新しい家族の扉が開いていくようだった。


「あっ……あっ……お父さんのがっっ……」


拒絶と絶望に支配されていた心と身体が疲弊し、諦めへと変わった。

大きく見開いていた眼から生気が消え、瞼が重くなる。

骨と筋肉を溶かすようにして、全身の力を抜いた。


「俺の血をっ! コナは俺の子供だっ! 俺の血が必要なんだ! だからもっと多く……濃い遺伝子を刻み付けなければ!」


繁殖目的の横暴おうぼうで残忍な凌辱が続く。

愛蜜を含んだ剛槍は力を増しながら、子宮口を犯し続ける。

鈴口から出るカウパーが愛蜜と交じり合い、微かに漏れる嬌声が潤滑液として機械的に行う繁殖活動にわずかな悦楽を与えた。


最初はこじ開ける抽送だった膣口が今は自らが雌になることを受容した愛膣口に変わっていった。


一段階早くなったストロークが射精への時が近づいている事を予兆させる。誰が相手だろうが関係なかった。

雄と雌がまぐわう、互いの遺伝子を送り、受け入れる。

その行為に家族も父も関係なかった。雌の本能が膣壁肉を収縮、蠕動させ新たな遺伝子を求めて性器から搾精活動を行う。

締め付けられた肉棒が快感の渦に飲まれ、キンシの身体が僅かに腰を曲げる。

これまでのいさましい記憶、血を塗り替えるようにして最奥に純血白濁液を解き放った。


ビュッッッッ! ビュッッッッ! ビュバアアアアア! ヒビュバッアアアアア! ビューーーーーーーーー!!!


人間からは考えられない量の精液が太く、長く注ぎ込まれた。


子宮口はあっという間に溢れかえり、崩壊したダムのように滝をなして崩落した精液が流れ落ちる。


「あっ、あっ、あーーーーーーっ! これ、、ダメっ! ッック! イクッッッ!あああああああ! いやっ……あーーっっっ! イッく……」


許容量をとうに超えた量の精が溢れてしまっているにもかかわらず、膣口はひくひくと収縮を繰り返し、物足りなさそうにしている。

背骨が折れそうになるほど弓なりにしなりながら、最後の最後まで精液を搾り取る。

最後の一滴が膣口から零れ落ちると弓なりになっていた身体が落ち着きを取り戻し、微弱な痙攣けいれんが多幸感の余韻に浸らせた。


だが、キンシは束の間の余韻も許さない。

倒れこむコナの腰から太股を床から引き剥がし、再度腰を密着させ、一切萎えることのない絶倫を膣口にねじ込む。


「いやっ……! いやあああああああああああああああああ!」


消えていたはずの絶望と恐怖が煮えたぎり、過去の記憶と共にコナは心を燃やした。

「まだだ……もっと……全てを俺の血で染めるには……まだ足りない……」


キンシはうつろな目で呟くと、その後二時間にもわたり父の遺伝子を徹底的に叩き込んだ。

全ての繁殖が終わる頃にはコナの身体は、精液まみれで犯しつくされた四肢が重力の力をありのまま受け、だらんと垂れ下がっていた。

しばらく放心状態で、浜に打ち付けられた魚のように不規則に痙攣を繰り返す被虐体―


「あっ……ぴっ……ぴっ……ぴっ……」


人の言葉が話せなくなるまで犯され続けた脳は正常に機能しなくなり、父の遺伝子が刻まれた赤子として海馬までも白濁に染め上げられた。


意識を取り戻したコナは精液で重くなった睫毛まつげを開き、産みの親であるキンシの姿を捉える。


「パパ……パパー!」

「そうだ! 俺はお前の本物のパパだ!」

「パパ……嬉しい!」


歓喜の産声を上げるコナ。キンシの子として生まれ変わったコナは満面の笑みを浮かべた。


「コナ、これからお前はこの高潔な遺伝子を一人でも多くの人間に残す使命がある。そして妹であるリングはお前と同じ遺伝子をすでに持っているが同時に悪魔の血も僅かに残っているんだ……」


宝石の力にむしばまれ、急激に老衰する父親はまるで吸血鬼に生き血を吸われていると思わせるほど急激に血色が青紫になり、ヒビという皺が次々と顔に刻まれる。


「頼む妹をリングを救ってくれ。これはコナにしかできないんだ……!」


最期の力を振り絞って懇願したキンシは精根尽き果て、乗っ取られていた宝石の力に耐えられず息を引き取った。


「パパ……パパー!」


涙を流しながら父を抱きかかえる。父の遺言とその遺伝子を受け継いだコナは決意を固めた。

手首につけているイエロージルコンのブレスレットが禍々しい瘴気を放ち、黄金色に輝いていた。

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