第9話
「ブェ!? どういうことだ!? 死んだはずじゃ!?」
驚嘆の声を上げるポールをよそにメインの表情は皺の一つも動かない。しかしその深黒の瞳は瞬きなくただポール一点だけを捉えていた。
「こいつは
再生した身体を見て収まっていた淫触手たちが背中から再び
「………」
灰色の
「犯されすぎて脳みそまで精液で蕩けちまったかぁ? グゥッブ! 構いやしねえ……泣き喚きながら死のうが黙りこくって死のうが、気持ちよければ何でもいいのよ……ただ……その様子だとお前、闇に呑まれているな? グブッ! 俺と同じ匂いがするぜぇ……グブゥグブッグブッ!」
その異様な雰囲気を絶対強者であるポールが感じないわけがない。変わり果てた姿を見て不敵に笑う。
「どうだい? 闇に呑み込まれた感想は? 気持ちいいだろう? 力が漲ってくる感覚、心の奥に眠っている感情を呼び覚ました開放感……たまんねえだろう!」
眉一つ動かさない無反応。余計な感情の起伏を棄て去った彼女の光と併存する闇が顕現していた。
「グェッグェッグェッ! お前の闇を俺に喰わせろ! 俺様の闇で全て塗り替えてやる!」
口では強気になっているもののポールの身体はメインの瘴気に圧倒されていた。額からは汗が滴り、身体が
図体に見合わない速さで近づいてくる巨体。先までの彼女であれば相手が動き出したタイミングで迎撃か回避の行動をとっていたが今のメインは
それどころか何も考えていないのではないというほどに無防備で呼吸の起伏もない。背後から妖しく湧き上がる瘴気が唯一の感情表現の表れだった。
「またバキバキに砕いてやるぜぇぇ!」
剛腕を振りかぶり身体ごと薙ぎ倒そうと振り下ろした刹那、メインが一瞬にして消える。
渾身の一撃……ポールは決して油断していたわけではない。標的を捉えた感覚はあったが、初めからそこに何もなかったかのように攻撃は空をきった。驚きと共にすぐさま目を血走らせて辺りを見回す。しかしメインの姿は見当たらない。
「――消えたっ!?」
手加減無しの攻撃を躱されると額からは汗が迸り、本能が危険を察知する。見えない姿に恐れながらも
「ブェ……ちったぁすばしっこくなっているようだなぁ…それでこそ捕まえた時の犯し甲斐があるってもんだ……」
「私の闇に潜り込んできた愚か者はお前だったか。随分と
メインは自らのクレヴァスに細指を入れ、膣内を
「過去のことなどどうだっていい。傷を負おうが骨を折られようが穢されようがこれはわたしの身体。わたしの身体が壊れようとも他人には誰一人傷つかない。わたしが受け入れればいいだけのこと。気持ち良かったか? わたしの穴は?」
あれだけの剛辱、吐精を受けていれば並みの人間であれば精神が崩壊していてもおかしくない状態で悟りの境地と言えるほど落ち着いた口調で淡々と口を開く。
「しかし……蓋を開けてみればこの程度か。お前の本気というのもたかが知れているな。所詮は虚空に吠えるだけの哀れな犬。女一人悦ばせることができないなど情けない」
抑揚のない罵倒一つ一つが鋭くポールの心を刈り取っていく。
「さっきまではあんあんよがってた口がよく言うぜ。次は全身の骨を粉々砕いてこの前の雑魚共と同じように形も残らないようにしてやるからな……ブエッビビビ!」
メインとの力の差が歴然だということに直感では気づいていたものの、力と性欲がそれを上塗りするようにして雄としての本能のまま怒張が膨張していく。
「宝石がなければ何もできない
等速に動いていた声色がその質問をする時だけ僅かな感情の抑揚が感じられた。
「…………知らねえよ。ブッッビッッッ!」
余りの威圧感に一瞬ポールの口が勝手に開いてしまいそうななったが、自我を取り戻し挑発する。
「そうか……それは残念だ」
機械的な口調がより一層冷たい空気となって身体から溢れ出る瘴気と混ざり合い、首にかかっている澄んだ透明のペンダントが黒く染まっていく。
光の剣は黒いペンダントの瘴気に呑み込まれ、鉱石採掘を行うためのツルハシのような形状の武器に変異した。
死神の鎌を連想させる長いシャフトと、湾曲したヘッドの先端はに全ての物質を粉砕するために形どられた
「何かと思ったらそれはツルハシじゃねえのか? グエッッビビビビ? 俺の元で炭鉱婦として働く気になったのか? ブエエエエビビビビビビ! だったら先輩の俺が手取り足取り教えてやるよ!」
背中から幾度もメインの蜜を
ポールは昂った気持ちと身体を速さに換え超特急で懐に飛び込んでいった。これまでのメインでは間違いなく避けることはできない一撃。守勢に回ることすら許さない神速の猛突進が襲い掛かる。
「どてっぱらぶち抜いてやるぜぇぇぇぇぇぇ!」
渾身の一撃を前にしてもメインは微動だにしなかった。しかしそれは相手の攻撃が見えていないのではなく、余裕から生まれるものだった。
「くだらない……」
「スクラップ・デスカトリオ……!」
ポールの神速攻撃を目にしっかりと捉え、胸の宝石目掛けてフルスイングしたツルハシは寸分の狂いもなく宝石の
尖角の唐鍬で打ち抜かれた宝石には一瞬にして全体に亀裂が入る。そして僅かな時間を置き、宝石が粉々に決壊していく。
「グギャ!? お、俺の宝石が……ギィィ……砕け……」
巨漢の胸全体を覆うほどの巨大な宝石が砕ける。そこから出血に似たの透明の赤い液体が止めどなく流れ落ちていく。ポールの身体はすでに自立するのもままならないほどに力が失われていた。
「ブ……好きなだけ犯して、殺して……あと少しで気持ちよくなれたのによぉ……気に入らねえ……お前のような奴に殺されるのは……」
「サブの居場所を知らないお前に用はない。死ね」
「グッ……サブ様……知ってるぜぇ……」
思いがけない返答にメインの眼の色が変わる。死期がすぐそこまで近づいていることを理解していたポールは最後の力を振り絞りメインにありったけの感情を断末魔として吐きだした。
「
刹那、地鳴りがするほどの恐ろしい殺気が瀕死のポールを襲い、怨念の境地に達したメインのツルハシが砕けかけの宝石を完膚なきまでに粉砕した。
「ギィィィィィヤァァァアァァァア!」
辺りにポールの壮絶な断末魔が反響する。音が消えゆくと同時に生物としての機能が停止したポールの身体は宝石と同じように粉状に砕け散り、地面へ消滅した。
ポールを消滅させることに成功したがメインの姿が元の状態に戻ることはなかった。頭の中には真偽が定かではないポールの断末魔が色濃く残り続ける。
(あの言葉……ポールはサブを知っていた……サブ……どうか生きていてくれ……)
髪の色も風貌も生まれ変わってしまったメインだが、サブを想う時は先までの禍々しい殺気が嘘のように、いつもの純真な感情が彼女を形作っている。
凄惨な苦虐を受け激悦に一度は屈したメインだったが、感情と身体を投げ捨てサブへの想い一つを残し闇に染まっていく。変わり果てた自身の肉体を受容しメインは坑道の奥へと歩みを進めた。
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