幕間 壊れてる少女達


「ふふっ、そう言えば可愛いらしい寝顔をするんでしたね」


 腕の中でスヤスヤとあどけない寝顔を晒す伊吹君の髪を撫でながら、私は思わず笑みを溢しました。

 本当に懐かしい。

 思えば、彼と私が初めてちゃんと話した日も彼はこんな顔をしていましたっけ。

 そんなことを考えながら、彼の髪をすいていると、ぬっと真帆ちゃんの顔が私の前に現れました。


「もぐもぐ、のふぉか。……交代。仕事して」

「あぁ、すいません、つい」


 ジト目でクレープを食べている真帆ちゃんに急かされたことで、何をすべきか思い出した私は彼を預けて立ち上がりました。

 周囲を見渡すと、モール内はかなりの人が居ますが誰一人として目は合いません。

 それでいて、倒れている高校生男子と大学生の男が二人の方に目を向ける人も居ません。

 誰もが、私達の方を見ることはなく、横を通り過ぎて行きます。

 歪な光景です。

 ですが、これは決して周りの人達が見てみぬフリをしているわけではありません。

 真帆ちゃんの結界魔法によって、彼らは私達のことを

 おかしな事を言っていると思われるでしょう。

 ですが、これは紛れもない事実です。

 実際に真帆ちゃんは魔法を使っていて、周りの人達はそれによって私達がいる事に気が付けていないのです。


(まさか、こっちの世界でも魔法が使えるとは思いませんでしたけど)


「私達としては本当に好都合でしたね。『治癒ヒール』」


 きっと少し前の私なら恥ずかしがって言えなかったであろう呪文を口にします。

 すると、私の手から淡い光が放たれ倒れている男達を包みました。

 それから間もなく、まるで巻き戻し再生をしたかのように折れていたはずの腕が元に戻り、青い顔で息を荒げていたはずの男はすっかり穏やかな寝息を立てるようになりました。

 現代の日本では絶対に目にする事の出来ないたった数秒の超再生。

 もし、私達のことが周りの方々に見えていたら、神の奇跡だと大騒ぎされることが容易に想像出来る異様な光景。

 

(本当に真帆ちゃんが居てくれて良かった)


 心の底から私は親友に感謝しつつ、頭を抱えて蹲っているもう一人の親友の元へ向かいました。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「大丈夫ですよ、美涼ちゃん。皆んな無事ですから、『鎮静カーム』」


 身体を縮こめる美涼ちゃんの身体を抱きしめながら、私が魔法を発動すると、徐々に震えが治まっていきます。

 そして、三十秒ほどが経ったでしょうか?

 ようやく美涼ちゃんが顔を上げました。


「ごめんね、のどか。迷惑をかけて」

「いえいえ、困った時はお互い様ですから。美涼ちゃんにはあっちで何度も危ないところを助けてもらってますし、気にしないでください」


 ぐしゃぐしゃの顔を浮かべる親友に私は笑いかけると、美涼ちゃんは申し訳なさそうな顔をした後、下手くそな笑みを浮かべました。

 どうやら怒りに身を任せて行動した事に対して、まだ罪悪感があるようです。

 

「では、もう一度やっちゃって下さい。大丈夫です。。〇ぬ前にちゃんと私が全部治しますので」

「えっ?」


 ですが、それは不要なものです。

 なんせ、彼らは

 美涼ちゃんがあの時殴ってくれなかったら、間違いなく私が手を下していたと言い切れます。

 ですが、あの程度ではまだ足りません。

 一度腕が折れた。一度死にかけた程度で許して良いはずがないのです。

 彼には二度と同じ事をしようと思わないように、徹底的に、骨の髄まで、己の愚かさを罪の重さを刻み込まなければいけません。

 私の言ったことがすぐに理解できなかったのか、美涼ちゃんは目をまん丸にさせていましたが、やがて「アハッ」と楽しそうな声を上げました。

 それそれは、仄暗い綺麗な笑みを浮かべて。


「そうだ。そうだよね。いぶっちの前にもう二度と現れないくらいしないと駄目だよね」

「はい。彼を傷つけるものは例外なく全て排除です」

「んっ。結界の強度は上げておいた。派手にやって」

 

 それから、私達は床で寝転んでいる男達を徹底的に罰しました。

 えっ、どんな事をしたのですか?って。

 ふふっ、それは秘密です。

 大丈夫ですよ。

 ちゃんと身体も記憶も最後には元に戻しましたから。

 

 これくらいは特に問題ありませんよね。

 


 

 

 



 


 


 

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