第6話 様子がおかしい拳聖ギャルを止めてみた
(マジ……かよ)
いくら頭では拳堂が異世界から帰ってきた最強の武術家だと分かっていても、たった一回のパンチで人がぶっ飛び大量の血を流すというのは衝撃的で。
俺は何処か夢見心地のような状態で、倒れている男の方を眺めていると、俺の頰を一陣の風が撫でた。
「がっ!?」
思わず細めた目を開けると、先程倒れていた男の横にナンパ仲間が追加されていた。
今度は血こそ流れていなかったが、左手が明らかに曲がってはいけない方に曲がっていて。
あまりの痛みに叫ぶのことも出来ないのか、ナンパ男はB地面に蹲り苦悶の表情を浮かべていた。
そんな重傷者達の元へ、銀髪の美少女はゆっくりと歩み寄り目の前で立ち止まる。
「ひっ、ごめんなさ──「ねぇ、どうしてお前らみたいなゴミ如きが──を殴っていいと思ったわけ?ていうか、常識的に考えてあり得ないよね?──は、──なんだよ?神様を殴るなんて馬鹿なことしないでしょ?マジあり得ないんですけど。しかも、血を流させるとかマジ許せん。──がこれまで一体どれだけ、お前らみたいなゴミのために血を流したと思ってんの?褒めてもらえないと分かっていても、後指を刺されると分かっていても、誰に見られることがないと分かっていても、毎回血塗れになって、死にそうになってた──からこれ以上血を流させて良いわけない。あっちゃいけないの。ていうか、ウチが絶対にさせなないって決めてたのに、また守れなかった。また気づけなかった。また間に合わなかった。あぁ、ダメだ。許せない。──を守れなかったウチが生きている意味とかないじゃん。こんな力を持っていて守れない無能なんていらない。でも、だけどね。その前に──お前らだけは連れていく。絶対に。どれだけ謝っても潰す。徹底的に跡形も無くなるまで殴り潰す。一緒に──が安心して暮らせる世界を創るための礎になって」──何言って」
ぶつぶつと拳堂は何かを呟いた後、拳堂は怯える男に向けて腕を振り上げた。
(やばい!アイツ完全にやる気だ)
一体何がそこまで彼女を激情させたのかは分からない。
でも、だとしてもこれは、これ以上はやり過ぎだ。
同級生が
「クソッ!」
そんなことを考えている内に、俺はその場から駆け出していた。
そして、拳堂の拳が振り下ろされる直前、何とか二人の間に割って入ることに成功。
ただそこから先のことは何も考えていなくて、俺はこれから襲うであろう激しい痛みに備えて目を瞑った。
(あれ?)
しかし、いくら待っても痛みは来ず。
俺は恐る恐る目を開けると、拳が顔に当たるギリギリのところで制止しており、その奥で青ざめた顔の拳堂がいて。
やがて彼女はプツンと何かが切れたようにその場に崩れ落ちた。
「ごめんなさっ、ウチ、そんなつもりじゃ、ごめん。ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。約束を破ろうとしてごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。お願いだから嫌いにならないで、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい──」
それからうわ言のように謝罪の言葉を繰り返し出す拳堂。
本当何が起きているか分からないが、おそらく彼女の暴走を止めることは出来たと見ていいだろう。
俺はホッと胸を撫で下ろしつつ、次いで後ろで泡を吹いて倒れているナンパ男達に視線を飛ばす。
(どうしよ、これ?)
明らかに何か処置をしなければいけないのは分かるのだが、前世含めてこういった場面に出くわした経験がないため何から手をつければいいのか判断出来ない。
「とりあえず、救急車を──「そんなもの呼ばなくても大丈夫ですよ」──えっ?」
震える手でスマホを取り出そうとした直前、柔らかな手に阻まれた。
咄嗟に顔を上げると、そこには美しい微笑をたたえた聖女様がいた。
ただ笑っているだけなのに、その姿に不思議と安心感を覚えて。
俺は上げかけていた腕を地面に垂らした。
「ごめんなさい」
「っ!?」
次の瞬間、首筋に衝撃が走り、世界が急速に暗くなっていく。
そんな中、視界に映る聖の姿は変わらず優しいままで。
「後は私達に任せてゆっくり眠っていてください。もう、アナタがこれ以上何かを背負う必要はないんですよ。
「?……どう、いう──」
「おやすみなさい」
柔らかく慈愛に満ちた聖の声を最後に、俺の意識は完全に途絶えた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます