運がいい
UD
第1話
私は運がいい。
そう、運がいい。
今思うと、孤児院に住む子どもたちは皆ギラついていた。
大人たちや周りの子どもたちの言動にすぐさま反応し、反抗する。
それが当たり前のように。
子どもたちは愛に飢えていた。
親に疎まれ、暴力に晒され、食べるものも与えられず、教育を受けることもできず、その状況が異常である事だと知る術もなく生きている。
子どもは孤児院に来てからも、自分と同じような境遇の周りの子どもたちでさえ信用できない同居人だ。
足し算はできないのに引き算はできる。
心を許せる友もいない、情緒も安定しない。
親の側の事情はさまざまだ。
しかしそんな子どもたちも孤児院に入れただけまだマシだ。孤児院にさえ入れず、どんなに劣悪な環境だろうがそこで生きなければならない子どもたちもいるのだ。
私は孤児院の仕事を辞め、教師になった。
そこで目にしたのは、孤児院とは真逆の光景だった。
子どもたちは送迎され、家族に大切に育てられ、両親や祖父母は教育熱心。
学校に通ってくる子どもたちは疑うことも知らず、敷地内にいる者は誰も敵意など持っていない。
「あー、よく来たねえ。さあ、おいでー」
私より若い教師が子どもたちに話しかける。
子どもにかける言葉も孤児院とは大違いだ。
そして
そこにいる大人たちは孤児院のような世界があるということを知識としてしか知らない。
孤児院にはかわいそうな子どもたちがいて、そのかわいそうな子どもたちは愛に飢えていて、苦しく助けを求めているのだと知識として理解している。
「私たちの愛で子どもたちを導かなければ」
「私たちの愛で子どもたちに幸せを」
「私たちの愛で子どもたちを笑顔に」
本気で思っているのか?
明日食べるものがない。
明日着替える服がない。
明日親に殺されるかもしれない。
盗み、騙し、奪わなければ生きていけない子どもに本気でそんな事を言えるというのか?
私にはとても言えない。
それが解って本当に良かった。
私は運がいい。
(完)
運がいい UD @UdAsato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。運がいいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます