第54話『今日の報告会は盛り沢山みたいだね』
「無事でよかったんだよーーーー!!」
レツは俺に抱きついてきた。うん、レツも無事で何より。
俺たちは宿の部屋に戻っていた。
ロマンチックなテラスでご飯は今日もおあずけになった。俺とコウが一緒にテラスで悠々ご飯を食べてるところをあの二人に見られるとまずいから、食事を部屋に持ってきたのだ。
「今日の報告会は盛り沢山みたいだね」
ハヤは皿を持ってベッドに座る。
俺たちはめいめいご飯の皿を取って、テキトーに座った。今日のご飯は小麦の麺にひき肉のソースがかかっていた。パストという乾麺を使った料理はこの地方の料理らしい。肉に合うからと、今日はキヨの酒も赤い葡萄酒のタレンだった。
「まずどっから? 海の竜と言えば、」
ハヤはそう言ってキヨを指す。
「ハイバリー湾の伝説」
今日キヨが調べてた神話とかかな。あの路地の広場に描かれてたのも、その話なのかも。
キヨはバトンを渡すみたいにシマを見た。シマはちょっと肩をすくめる。
「そこの発展系っぽいな、フィーリョギャラリーのガラス像」
うーんと、それは伝説をモチーフにした像があるってことなのかな。シマは次とばかりにハヤを見た。
「なるほど。じゃ僕のはちょっと異質だな。竜の鱗と呼ばれるヤバい薬」
ええ!? 薬として使われるって、竜の鱗って、そんなに手に入るもん? いや、手に入らないから貴重な薬だったりするのか。
「っつかヤバい薬って、ホントにヤバい方の薬なのか?」
シマに聞かれてハヤはちょっとだけ難しい顔をした。
「作用がいい方にも悪い方にも使われるって感じかな、どっちにしろそれなりの効果があるんだろうけど」
「本物なの?」
「どうかな、僕自身確認できたわけじゃないし。モンスターから作る薬もあるから、まったくのウソとは言い切れないかなぁ」
ハヤは軽く言ってパストを頬張る。
「伝説も、竜の鱗で命が助かるってオチがつくから、そこからだろうな」
キヨはタレンを飲んだ。なるほど、大元の伝説がそういう話なのか。そしてその命を救った竜のガラス像が、フィーリョギャラリーってとこにあると。
……でもそれだと、どこにも何の問題もなさそうだな。海の竜ってヒントからだと、そんなに誰かを救う何かに行き当たってない気がする。
「無理矢理考えて、その薬が手に入らないと命の危険がある人が居るとか?」
「でもお告げって、そういう風に出て来なくね?」
確かに。お告げをそのまま捉えても、クリアすべき問題には直結してないことのが多い。
海の竜の伝説を調べていくと困った人に行き当たるか、フィーリョギャラリーに困ってる人がいるか、薬が必要で困ってる人がいる、みたいな感じだろうな。でもそれだとホントに、ここまでの情報じゃどこへ進んでいいのかわからないや。
「そしたらじゃあ文字通りの海の竜はここまでとして、今日イチ面白展開のあったコウちゃん」
ハヤに振られてコウはちょっとだけ眉を上げた。
「……まぁ、誰の差し金っつったらキヨくんなんだけど」
キヨの? あ、今日朝話してたヤツか! おつかいってどこに行ってきたんだろ。俺たちはキヨを見た。
「あの暗号にあった住所だよ。日時は五日後だけど、どんな場所なのか気になって」
気になってコウに見に行ってもらったと。つかキヨが行ったら違う意味で危険てどういうことなんだろ。
「キヨくんに大ざっぱに言われたのは、住所が港の倉庫街らしいことと、たぶんそんな所に遅い時間に待ち合わせるなんて良からぬ感じだから用心していけってことだったんだよね」
「遅い時間だったの?」
そう言えばキヨ、暗号の内容は日時と場所って言ってたけど、五日後ってこと以外は明かしてなかったな。キヨはタレンを飲んで眉を上げた。
「夜の二十二時」
「子どもが宝探しに行く時間じゃねーな」
わざとらしく眉根を寄せたシマの言葉にレツが吹き出した。いや、なんでそういうこと先に言わないんだこの人は。
あ、でも暗号は俺たちのお告げとは関係ないからか。っつか良からぬ感じだからコウに行かせたってのもどうなんだ。
「そんで行ってみて、まぁ目当ての倉庫は結構すぐ見つかったんだけど、中の様子はわからないからちょっと覗き見しようと高いトコ登ったら、何か裏路地で揉め事してて」
コウはパストを一口食べたので、みんなはコウが口を開くのを待った。
「巻き込まれるつもりはねーけど、ほぼ一方的だったんで」
「可哀想になって助けちゃったと」
コウはシマの言葉に、ちょっとだけとぼけるみたいに肩をすくめた。
港の倉庫街とかの路地じゃ、ちょっとガラの悪いのとか居たりしそうだよな。コウはそういうのに絡まれてる人を見かけて助けたのか。
「そんで?」
「さらっと立ち去るつもりだったんだけど、なんか逆に頼み事されちゃったんだよね」
頼み事って、そのやられてた人にってことだよな? そんな怪しい人がいるような裏路地で、ほぼ見ず知らずの人に頼まれて……
あ、でもそんな風にやられてた人ってことは、頼み事イコール人助けになりえるのか。悪いことじゃなければ。
「コウちゃんの強さを買われたわけだ」
レツが言うと、コウはちょっと複雑そうな顔で首をかいた。
「んー、でも一応俺たちお告げも受けちゃったじゃん? いくら調べる事はキヨくんたちに任せてられるとは言えムダに時間取られても困るしって思ったら、その人、相方が今指示書の件で図書館行ってるとか言うんで、これは? って思って」
図書館って……もしかして俺とレツが図書館で会った人が、コウが助けた人の相方だったってこと? そしたらあの暗号って指示書だったのか!
ってことは、俺たちが暗号を抜き取っちゃったから、その人には指示が届いてなかったことになる。
「あの暗号が、指示……」
昨日から五日後、つまり四日後の夜二十二時に港の倉庫に来いってことなのか。
何をする指示なのかわからないけど、その倉庫の近くで酷い目にあったりしてたんだったら、コウみたいに強い護衛が欲しくなるかもしれない。
「そんで、まぁ何かわかるかもだし、話だけでも聞くかって連れられるまま住宅街の方に移動したんだけど、戻ってきた相方がヒントが足りなくて解読できないとか言い出して」
そうだよな、暗号は取り戻せたけど、俺が抜き出しちゃったことで挟まっていたページがわからなくなってたんだ。キヨは想像力でカバーできちゃったけど、普通はそうはいかないだろう。
俺は誤魔化すみたいにパストを食べた。
……ん? いやちょっと待って、コウがそこで一緒に行動してるってことはつまりその人たちって……
「俺はほら、内容知ってるけど言うわけにいかないから、ちょっと出てくるっつって近辺の地理とか確認してから戻ったら、裏口にレツくんが倒れてて」
レツはえへへと笑って頭をかいた。いやいやいや、そしたらやっぱり、
「コウが助けた人が、俺をさらった人ってこと!?」
なんだそれ、めっちゃ恩を仇で返されてんな! いやコウと俺の関係なんて、その人たちは知らないんだけど。
あ! そうだ、顔はほぼ一瞬しか見れなかったけど、あの人図書館で会った人じゃん! あの暗号を子どものいたずらみたいに言ってて、怪しかった印象は正しかったのか。
そしたら、俺たちが襲われた直後くらいにコウはレツを見つけたのかな。そうでなかったら、路地に人が倒れてて騒ぎにならないハズないし。
「レツくんにはビビったけど、気を失ってるだけだったからすぐ目を覚まさせて経緯聞いて。とりあえず宿へ戻ってもらって、俺は中に戻ったと」
コウはおしまいと言うように両手を挙げた。
それであの展開に。
っつか、何で消すとか言うんだよ、マジでビビったつの!
「そうでもしないと身バレすんのにヒントを聞かないだろ。聞かなかったら、そいつらもっとヤバいことになる」
シマがタレンを飲みながら言った。そりゃ、すでに暗号解いてるとは思ってないその人たちに、コウが教えるわけにはいかないけどー。
コウ、バトルや鍛錬の時も殺気みたいの出すことあるけど、今日のは全然シャレには思えなくてマジで怖かったのに。
「そんな、人質がリラックスできちゃったら、逃がすつもりってバレちゃうじゃん」
「そうだけどー」
俺が膨れていると、レツが面白そうに頬を突いた。ヤメロっ。
「それで、コウちゃんはその人たちのこと手伝うの?」
ハヤは皿をサイドテーブルに置きながら言った。そうだ、頼まれ事しちゃってるんじゃんね。コウはちょっとだけキヨを伺った。
「いやー、何か突っ込んだ話がわかるかなと思ってついてったけど、何もわからなかったし、バックレちゃえばいいかなって」
続きは明日みたいに言ってたのに! あ、でも暗号も解けただろうし、この後はあの人たちが何とかすべきことなのかな。俺たちにはお告げがあるから、誰彼構わず助けてられないもんな。
「でもバックレちゃって大丈夫な感じ?」
レツはちょっとだけ心配そうに聞いた。
コウのが強かったとは言え、何かヤバそうな事になってる人たちだし、妙な後ろ盾があったらコウにも累が及んだりするんだろうか。コウは左右に首を傾げた。
「あいつら見習いを消すっつったらビビってたし、たぶん結構普通の人じゃないかな」
そう言えば、コウの言葉の後に妙な間があったっけ。あれ逡巡してたんだ……コウ、当たり前のように俺を消せばいっかって言ってたもんな。
でも俺はあの時の、切羽詰まって俺の首を絞めた手を思い出していた。
本当に普通の人だったら、それこそ追いつめられてるんじゃないのかな。俺は無意識に片手で首を押さえていた。
「でもバックレた方がいいかどうかは、キヨリンの話聞いてからじゃん?」
ハヤがグラスでキヨを指した。キヨの話? そう言えば、途中から黙って話を聞いてたな。
「新しい暗号、解けてんでしょ」
あ! そうだった、あの人に図書館で会う前に見つけた暗号! 同じモンレアルの冒険シリーズに挟まってたけど、それって前のに関わる暗号だったのか?
キヨはわざとらしく顔をしかめて、それからグラスに口を付けた。珍しく話を聞く側だったからか、いつもよりはパストが減ってる気がする。
「今日の暗号が挟まってた本のどこかに、青い目印ってついてたか?」
青い? あ、そう言えば背表紙に青い丸がついてたな。俺がそう言うと、キヨはやっぱり嫌そうな顔をした。どういうことだ。
「前の暗号の最後に、文脈からは意味のない単語があってそこだけ不自然だから、正しいページがわかったら内容が変わる可能性が無いとは言えないなと思ってたんだけど、じゃあ正しかったんだな」
「何て書いてあったの?」
レツに聞かれてキヨはちょっと口をゆがめた。
「青」
あー……それで、青い目印の本に次の暗号が入ってるってことになるのか。
「暗号写して来たってことは、本物は同じ所に置いてきたんだよな?」
キヨに聞かれてレツは頷いた。ちゃんと同じページに挟んで来たよ。そう言うとキヨは頷いて、「三日で何とかなんのかな……」と呟いた。
「そんで、結局暗号は何て書いてあったの」
痺れを切らしたハヤはキヨの肩を持って揺らした。キヨは笑って逃げると、ベッドサイドに置いてあった鞄から俺の石板を取り出してハヤに渡した。
「前のよりはちょっと面倒だったな。シリーズの五作目だから、まずアルファベットを五個で改行する表にして、その表の上で暗号の文字を探す。そこからページ数の十三を一と三に分けて、上へ一、左へ三とずらして文字を拾う」
「解読方法が違うの!?」
一つ解読できたら、次も同じだと思うじゃん。それが違うなんて。
「用心のため、なのか」
シマはちょっとだけ真面目な顔で言った。それってつまり、一つ目をうっかり見つけた俺たちみたいのが、次を手に入れても簡単には解読できないようにするため? キヨはチラッとシマを見た。
「だろうな。こっちの解読文は……個人情報が入ってる」
個人情報?! 個人情報って、名前とかそういうやつ? キヨは小さく頷いた。
「こっちの解読文は個人宅の住所と、たぶん狙う物の場所が入ってる」
「狙う物って、まさか」
ハヤが言うと、キヨはとぼけるみたいに眉を上げて頷いた。俺は二人を見比べた。え、なに?
「それ、泥棒の指示書ってこと……?」
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