第40話『俺たちこれで帰るって選択肢は無いのか』

 荒い息を抑えながら落ちたゴールドを拾う。


「今の感じ、よかったな」


 俺の脇をすり抜けながら、コウが俺の頭に手を載せた。やった、褒められた!


 複数同時に襲ってきたモンスターの中に逃げ足の速いヤツがいて、キヨが遠隔で攻撃して削っていたからコウと追って倒したのだ。

 コウの攻撃で動きを止めた後、俺が剣で致命傷を与える。俺はまだコウみたいに動く敵の急所を確実に捉えることはできないけど、それでもコウの動きを邪魔しないで入れ替わるのはだいぶできるようになってきた。

 ただちょっと深追いしちゃったから、みんなから離れてしまったのだけど。左手の印を見たら、またレベルが上がっていた。


 翌日、俺たちは星読みの里に向かっていた。街道からだいぶ離れる山の頂だから、もちろん5レクスの結界の際だ。つまりそれなりにモンスターの出現も多い。

 山の中だから基本的には深追いしないけど、モンスターのタイプによっては馬で逃げる方が不利な時もある。そう言う時はハヤの敷いた結界で護りつつ、後々追われないように倒してしまう方が安全だったりするのだ。


 俺たちはみんなが待つ方へ歩いて行った。

「星読みの里に闇魔法って、どう関係するのかな」

 歩きながらそう聞くと、コウは興味なさそうな顔で俺を見た。

「さぁな、俺はそういうのわかんねーから」


 そりゃコウは全方位武闘家だから魔法とかわかんないかもだけど、ちょっとくらい不思議に思ったりしないのかな。


 星読みの里は俺たちが知る魔法とは違う、空の星の魔法を利用している。だから星読みのお告げは勇者のお告げとは違うって、あの魔導師は言ってた。

 その星読みのお告げが、人だけが持つ魔法の闇魔法を見せるってどういうことなんだろう。

 コウは棍をくるっと回してから肩に担いだ。


「そういうのは団長やキヨくんが考えるだろ。俺なんか魔法なんてこれっぽっちも持ってないからな、考えるだけムダだ」

「でも魔法使ってみたいとか思わない?」

 コウは無言で肩をすくめた。俺だったら、ちょっといいなとか思うけど。


 そう言えば俺、今は剣士として訓練してるけど、勇者見習いになってこのパーティーに参加した時に何もできないから、とりあえず剣さえあれば始められる剣士として訓練したんだった。だからそれ以外の冒険の仕事に適性があるかどうかはわからないんだよな。


「俺、実は魔法が使えたりとかしないかな?」

「お前のは楽をしようとしてるだけだろ、剣士だってまっとうできないヤツが、そう簡単にジョブチェンジ出来ると思うなよ」


 コウは俺の頭を叩いた。

 ちぇー、俺だってもしかしたらキヨくらいの才能があるかもじゃーん。あんなに真面目に勉強できるかっつーと、そこはあやしいけども。でも今度ちょっと聞いてみよう。キヨはちょっと怖いから、ハヤに。


 俺たちがみんなのところまで戻ると、ハヤが「お疲れ」と言って回復魔法をかけて労ってくれた。


「星読みの里まであとどれくらい?」

 キヨはそう聞かれてちょっとだけ顔を上げた。

「そろそろ、ルナルも見覚えあるエリアなんじゃね」

 そう言われて、みんなルナルを見た。ハヤの前に乗っているルナルは、視線を集めたことで何だか小さくなっている。


「……里を出たこと、ないの」


 やっぱりハヤくらいにしか聞こえないような小さな声で、ルナルはそう言った。なるほど、そりゃ里まで帰る道がわからないわけだ。


 その後も山頂に向かって馬を進めると、唐突に森を抜けた。

 森を抜けたというよりは、森を切り開いたところへ出たって言う方が正しい。そこには、広場を真ん中にして木造の家が囲む集落があった。

 平屋の木造の壁は黒く塗られていて、なだらかだけど斜面に建ててあるので高床式になっている。集落の外側には急造っぽい塀が張り巡らされていた。これもしかして山賊対策なのかな。


「勝手に入らない方がいいよね」


 レツは俺たちを振り返って言った。里の子を送ってきたとはいえ、山賊と間違えられるのも困るしね。とりあえず俺たちは馬を降りた。

「ルナル、そしたら里の人たちに伝えてくれる?」

 ルナルはまだもじもじと、何だか離れ難そうにしている。お告げはキヨを直接指すわけじゃないってわかったのに、まだ固執してるのかな。


「ほらこれ、持っていかないと」

 キヨはそう言って包みを渡した。あの中にはルナルの儀式の服が入っている。彼女は何となく受け取りたくないような感じでゆっくり受け取り、しばらく逡巡していたけど、くるっと踵を返して里へと歩いていった。

 ルナルの姿を見つけた里の人が、何か叫んで人を呼んで集まってきた。


「俺たちこれで帰るって選択肢は無いのか」

「キヨリンが、うちのじゃないとは言えお告げの謎放置して帰れるとは思わないけど」


 それマジで言ってる? とハヤはキヨに寄りかかって言った。キヨはハヤを見ないで小さくため息をついた。

 キヨに謎を放棄させるなんて、ルナルの執着がキヨの好奇心を殺したみたいでなんだかすごいな。


 しばらくすると、ルナルを従えた女性が俺たちの方へ歩いてきた。

「私はこの里の長、セアドです。ルナルを無事に連れてきてくれた礼をさせてください。どうぞ」

 そう言って、ちょっと残念なフェンスをがたがたと動かして道を空けてくれた。里長にしては若いのかな、俺の母さんとかそのくらいの年代かも。

 俺たちは顔を見合わせてから馬を引いて里の中へ入った。


 里の真ん中には、何に使うのかわからない塔が建っていた。一辺が腕を広げたくらい、人が一人立って入るくらいの塔だ。見張りにしたって広場の真ん中に建てる意味はなさそうだけど。

 広場はぐるっと建物に囲まれている。建物は普通に里の人が住んでる家のようだった。


 近づいて初めて気がついた。遠目に見た時に黒い壁だと思った建物、あれ火を付けられた跡だったんだ……きっと山賊にやられたんだろう。

 よく見ると、建物の近くに瓦礫が積み上げてあって、それは壊れた扉や壁材のようだった。俺たちは連れて行かれるままに広場へ足を踏み入れた。


「う、あ……」

 すると唐突に、キヨが胸を押さえてうずくまった。

「キヨ?!」


 驚いてレツが覗き込むと、真っ青な顔をしている。え、どうしちゃったんだ?

 ハヤに診てもらおうと顔を上げたら、ハヤも何だか難しい顔をして片手で口元を押さえていた。


「やば、これは……」


 シマが素早くハヤとキヨの手綱を取る。ハヤもよろよろとキヨの近くへ行こうとしたけど、キヨはそれより早く気を失った。キヨが倒れる前にコウが抱き留める。俺は慌ててコウの手綱を取った。


「どこか、」


 コウが顔を上げるとセアドが「こちらへ」と言って素早く案内した。

 レツはハヤに肩を貸して、キヨを運ぶコウについて行った。俺とシマは彼らが案内された建物を確認してから、馬を馬小屋へと連れて行った。

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