第26話『あの見た目でそのイケメン仕草はヤバいわ……ハマるわ』
「と、いう感じです」
俺が話し終わると、レツとシマはきらきらした目で俺を、っていうか俺の話したハヤを見ていた。
「団長、かっこよすぎ……」
「あの見た目でそのイケメン仕草はヤバいわ……ハマるわ」
「ちょっとエインスレイが可哀想になってきたな」
コウはそう言って笑う。プロのお仕事過ぎて、本気で惚れられてもあれは本物のハヤじゃないもんな。
俺たちはまだ宿の部屋にいた。思ったよりハヤのところに長居したらしく、戻ってきたら昼になっていた。
早くから調べ物に出ていたキヨは俺と同じくらいに帰ってきたから、むしろキヨのが時間かかってたんだけど。結局何を調べてきたんだろう。
キヨは俺の話を聞いて、ものすごい難しい顔をしていた。そんな難しい顔になるようなこと、今の話であったか?
「好きにやれってのは、街から離れるのを承知したってことだよね?」
コウがそう言ってシマを見る。
「ああ、そうだろうな。でもどの位の距離の所へ行くのかわかんねぇけど、一日二日で帰ってこれるのかわかんねーのに、団長大丈夫なのかな」
あんまりあの店に長居するのも怪しいよな。長居すればバレる危険性だって上がる。
「今日、一旦戻ればよかったのにな」
エインスレイも許してたし、戻れそうな感じあったのに。
「それは無理だろ」
「え、何で?」
キヨは何でわかんないんだって顔で俺たちを見回した。
「今日の会話、明らかにあいつ団長に心開いてきてるだろ。今、団長の勝手で離れたら、二度と店に行けねーじゃん」
いや、行けばよくね? 俺はわからなくてみんなを見た。わかってるようなわかってないような顔でみんな考えてるみたいだった。
「だいたい団長だって着替えた時点で留まるつもりだっただろうし」
……いや着替えたんだから帰る気満々だったんだと思うんだけど。
首を傾げる俺たちに、キヨはもう少し説明しようとして口を開きかけて、それからふと止めた。
「どしたの?」
「何、焦らしプレイ?」
キヨは小さく「いや、」と言ってそれから顔を上げた。
「シマ、お前今回ウタラゼプに来て、よかったか?」
シマは唐突にそんなこと聞かれて一瞬混ぜっ返そうとしたけど、何となく背筋を伸ばした。それからちょっと難しい顔をして首筋をかく。レツがちょっとだけ伺うように見た。
「……正直言うと、思った以上に何もねぇ。もともとあんまりいい思い出ばっかりって訳でもねぇしな。懐かしい街並みとかあの頃の思い出とか、そういうのにもっと感傷があるかと思ったけど、案外普通っつか、ヤな感じも美化しちゃった感じもねぇし」
クルスダールの時みたくお祭りに重なっていたら、みんなでわいわい楽しめたかもしれないけど、特にそういうイベントも無いし、単にお告げのクリアに情報集めたりしてるだけだ。里帰りだけど、それっぽいことは墓参りくらいしかしていないし。
「両親が亡くなって、親戚とかは」
「いや全然。突然一切の身寄りのないガキになった。親はこの街の出身じゃなかったらしくて。それに、」
シマは何だかどうしようもないみたいに苦笑した。
「親殺しちゃうモンスター飼ってたガキとか貰い手いねぇだろ」
キヨは少し眉根を寄せて視線を外した。レツが、ぼふって音がしそうな感じでシマに寄りかかった。シマはそれを見てちょっと笑ってレツの頭を軽く叩いた。
「でもなんつーの、みんなでお告げのクリアにばたばた情報集めたりして……そういう、今の俺の日常でこの街を上書きしたら、ガキの頃の思い出じゃない街に感じてるとこはある、かな」
シマはそう言うと、穏やかに笑った。
「だからやっぱ、お前らと来てよかったよ」
レツは頭をぐりぐりとシマに押しつけている。キヨは小さく「そっか」と言った。
なんで突然そんな話になったんだろう。もしかして、せっかく来たのにみんなで楽しむとかそっちのけで、お告げのクリアに奔走してるから?
キヨは結局お告げのことばっか考えて動いてるから、シマの里帰りをほったらかしにしてるって気にしてたのかもな。
「団長はもう少し留まるって宣言してるから、たぶん二日くらいなら毎日召使いが顔を出さなくても変じゃないだろ。問題は危険な箇所がどのくらい点在してるかで」
それによっては移動だけで時間がかかっちゃうってことか。外回りってだけで、全然場所は特定できてないもんな。
「逆に次に見習いが行く時には、必ず団長は戻らないとならない。つまり次に団長の所に行く時には解決できてないといけない」
え、でも別に召使いの俺が迎えに行ったからって、必ず戻るとは限らなくね? 今日だって留まっちゃったんだし。それに解決を持って行く必要も……
「交易ルートの危険を取り除いたら、それはエインスレイの為にならないからか」
コウはそう言ってキヨを見る。
あ、そうか、もしその事が知れて、なおかつそれをやったのがハヤの仲間とバレたら、あの店に留まるのは危険かもしれない。
なんだかんだであの店の護衛とかにお世話になることはなかったけど、そういう店なんだから絶対強い護衛がいる。コウほどじゃなくても。
「ルートを知らせる手紙ってもう届いたのか?」
「ん、ああ、それならここに」
シマが取り出すと、キヨはパッと取って中を見た。ちゃんと封蝋がされてたんだな。
食い入るように手紙を見ているキヨは、黙読してるのか考えてるのかわからなかった。
「キヨ……?」
レツが体ごと傾けるようにしてキヨを伺った。
「シマ、この街の主立った荷運び屋ってどの位あるんだ?」
キヨはシマを見る。いやそんなの突然聞いてわかるもん?
「この街だと春から秋口までしか動けないから、ここを拠点にしてるそこそこの規模の運び屋自体は十軒くらいだな。外から来るのは他にもあるけど」
知ってるのか……っていうか、昨日の説明もあったし、たぶんシマはその辺の聞き込みを既にしていたんだな。外回りヤバいって噂だけで、キヨが必要になるかも知れない情報を仕入れてるとか。
キヨは胸元から手書きのメモを取り出した。どうやらこの地方の地図のようだ。
「この時期、一番荷が動く先ってあるのか? 冬の前に確実にこの街とやり取りが増える場所」
「一番可能性が高いのはクダホルドだな。海沿いの街でそれなりに栄えてるし。ただ街道は一旦別の街を経由するんで直行しようとしたら、街道を外れるんだ」
シマは地図を指差しながら答えた。ウタラゼプから南東へ行った先の海沿いの街。ただし、街道は一度北東へ向かってから東にカーブしている。
「……じゃあそこを叩けば、『ルートが使えないほど危険が増えている』印象は付けられるな」
俺たちは顔を上げてキヨを見た。
え、それじゃ、危険が増えているのは事実でも、ルートの全てが完全に動いてないわけじゃないってこと?
「でもどうやって?」
レツはおどおどとキヨを見た。
「……その主要十軒に、モンスターを誘う罠を荷物に仕込んで出発させる。運び屋が途中で立ちゆかなくなって、荷を捨てて逃げる。罠が生きてればモンスターはルートに集まるようになる」
いや、全部じゃなくてもいいのか、とキヨは付け加えた。それがルートが危険になった原因? でもそんな罠どうやってやるんだ?
「やり方は知らねぇよ。何かあるんだろ。でも最近になってそういうことになってるんだったら、最近始めたことなんだろう。その上で、」
キヨは手紙を広げて見せた。
「行き先は……クダホルドじゃねぇな」
コウの言葉に、キヨは頷く。エインスレイの手紙にあったルートの目的地は、
「ラカウダロガ……」
「知ってるか?」
キヨはシマを見る。シマはちょっとだけ首を傾げてから首を振った。
「シマさんが知らないってことは、聞き込みで話題にもならなかったほど小さい村ってことでは」
コウがそう言うとキヨは頷いた。
「ああ、デカい仕事があるような目的地じゃないな」
「それってどういうこと?」
キヨは地図を広げて街道を辿る。
ウタラゼプから北東へ延びる街道が右へカーブしてクダホルドへ向かう、その街道のカーブを南側に外れた辺りに小さく点で示された村をキヨは指さした。
そこがラカウダロガ? ギリギリ5レクス圏内くらいのところ。
「なるほど。もしこの街道のカーブを直行したこの辺が危険地帯になっているなら、その更に南側にあるこの村まで安全なルートがあればクダホルドへ抜けることも可能かもしれないな」
シマはそう言って腕を組んだ。そっか、だからエインスレイのところのルートは生きてるって話なんだ。
「じゃあ今回の罠を仕掛けたのは、そうして他の運び屋の邪魔をすることだったんだね」
レツはうんうんと頷いた。一旦ラカウダロガへ寄るルートだとしても、他の運び屋が直接クダホルドへ向かおうとして到達出来ないよりはずっといい。
「そしたらその罠を取り除くのが、お告げのクリアになるのかな」
エインスレイの悪巧みを阻止する。この時期大事な交易の回復なら、誰かの助けになるしお告げのクリアになってるハズ。そう言ってキヨを見たら、なぜか首を傾げていた。どうかした?
「……たぶん目的はそれじゃない」
「罠まで仕込んでおいて、交易を握るのが目的じゃないってどういうこと?」
でもキヨは、何だか俺の言葉なんか聞こえてないみたいだった。
「復讐が届かない理由……」
キヨは小さくそう呟いて、完全に考えに沈んでしまったらしく、視線を固定して固まってしまった。もしかしてさっきのも言葉通りじゃなくて独り言だった?
俺はコウと顔を見合わせた。独り言の意味すらわからない。
「……あと一つ確認できたらわかるかもしれないけど、解決にはならない」
「わかったの?! っていうか、何が?!」
俺がそう言ったら、レツがブフって吹き出した。
いやだって今謎とか別になくね?! エインスレイが荷運び仕事を握るのに使ったモンスター罠を取り除くって話なのに、キヨが難しくしてる感があるんですが!
憤慨する俺を、まぁまぁとレツがなだめる。でも当のキヨはちょっと考えるみたいに天井を見上げていて、俺の言葉なんか聞こえてないみたいだった。
「……となると、罠を何とかする必要はない……わけじゃないか。なんだこれ、何をもってクリアなのかが見えてこない」
キヨはそう言ってから、唐突に立ち上がった。
「とりあえず心当たりに一個確認に行ってくる。お前ら支度して東門で待ってて」
合流したらすぐ出るからと、キヨは言って部屋を出て行った。俺たちはなんだか呆気に取られて見送った。
クリアって、エインスレイの悪巧み阻止でいいんじゃないんですかね……?
「独り言、もうちょっとわかりやすい言葉で言ってくれるといいのにね」
レツが誰にともなく言った。
うん、あれだとキヨの思考を辿るのにまた一日費やす感じだよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます