第23話『めっちゃ見たかった! めっちゃ見たかったよ!』
「あ、戻ってきた。おーいおーい」
宿に着く前に、ご飯を食べる店の外テーブルにシマとレツがいて俺たちを呼んだ。
「あれ、ハルさんもいるー。キヨならちょっと前に通り過ぎたんだけど、何か真っ直ぐ通過しちゃったんだよね」
何かあった? とレツは俺たちを見る。俺は曖昧に笑って応えた。
「まぁ、みんな無事戻って来てんだから問題はないんだろ」
問題はないようなあるようなだけど、そういう意味では問題ないんだよな。
「結局団長は置いてきちゃったの?」
レツは俺たちのために席を詰め、シマは店の中に追加の飲み物を頼んだ。俺とコウは空いた席に座る。ハルさんはちょっとだけ逡巡していた。そうか、キヨに会いに来たんだもんな。
「そしたら俺は、」
「ハルチカさん」
声に顔を上げたらキヨがいた。あれ戻ってきたのか?
「ヨシくんあの、」
「ちょっと部屋来て」
キヨはなんだか無表情だ。さっき結構怒ってた感じあるし、何か大事な話とかあるようにも見える。
ハルさんは気圧されたように「う、うんうん」と何度か頷いて、それからキヨと一緒に歩いていった。後ろ姿には、歩きながら話してる感じはなかった。
「……ケンカ?」
レツが言うと、コウが思いっきり深いため息をついた。
「何、ここ、何があったの」
シマが言うとコウは「あー」と言って思った以上に情けない顔で天を仰いだ。いやでも他意はなかったんだから、しょうがないよ、不可抗力ってヤツで。
レツもシマも、なぜか期待いっぱいの顔で俺とコウを見比べる。コウがかわいそうなので、俺がさっきキヨがしたくらい淡白に説明した。
「マ ジ で !!」
キヨとハルさんのあれを見て、コウの凹み具合も見てるっていうのに、シマとレツはとてつもなく楽しそうに爆笑した。いやいや、その反応アリか?
「いやいやいや、コウちゃんが! そこまでするとは!」
「めっちゃ見たかった! めっちゃ見たかったよ!」
コウはやっぱり「あー」とか言いながら両手で顔を覆っている。笑い事じゃないだろう、その所為でキヨとハルさんが微妙な感じだってのに。
「いやでもそのコウちゃんが上脱いだ時とか、絶対周りがキャーだっただろ」
「抱いて……ってなるヤツ!」
レツはうるうるしながら両手で口元を押さえて言った。まぁそれは確かにあったな。二人は「あったんだ!」「ですよね!」とまた楽しそうにテーブルをばんばん叩いた。
「そりゃなるわ、屋内筋トレじゃねーから焼けてるし、フォルム完璧だし」
「しかも護衛ってつまり下克上!」
「萌 え の 固 ま り か」
「エインスレイわかってる!」
シマとレツは畳み掛ける。ある意味容赦ないな。
「キヨは? キヨの反応は?」
「いやキヨくん顔隠してたし」
コウは微妙に言葉を濁した。ヤバい感じだったから? 俺がうっかり聞いてしまったら、コウが視線だけで「余計なこと言うな」と言ってきた。でもそう描写したのは俺じゃないもーん。
でもそう考えると普段厳しく教育的指導してるコウが芝居とはいえあれをしたってのは、弱み握った感ちょっとあるかも。
「はーそれでキヨとハルさんが……いや、それだとハルさんが怒ってる方じゃね? さっきの逆っぽかったけど」
「キヨはお告げのためにやっただけなのに、ハルさんが嫉妬して責めたから、逆にキヨが怒ってんの」
シマとレツは「あーあーあー」と言って頷いた。
「キヨ、そういうの狙ってやらないしね」
「キヨくんマジメだから」
「そんで、結局キヨが行った成果はあったのか?」
シマは言いながら「おつかれー」とグラスをコウのに合わせて飲んだ。
「あったんだと思うけど、キヨくんが何を目的に聞いたのか俺はわかんねぇからな」
「何聞きに行ったの?」
「エインスレイが持ってる交易ルートを知りたいって言ってた」
シマはとぼけるように眉を上げた。
「娼館に交易ルート」
コウは肩を鳴らすみたいに首を左右に傾けた。なんでキヨはエインスレイがそんなこと知ってるってわかったんだろう。あ、そう言えば、
「ハヤもエインスレイが交易に顔が利くって知ってたよ」
あの時の会話。
じゃあホントに俺がキヨが起きるのを待ってたら、もうちょっとわかるように聞きに行けたのか。
でもそれはキヨが午前中のうちに起きてこないのが悪いよな。それにエインスレイがハヤにべったりくっついてて、結局俺もハヤから情報を聞けなかったし。
「しかも本人がキヨくんの読みを肯定してたな。今エインスレイ以外の交易ルートは、危険があって動いてないっぽい」
コウはグラスを傾ける。シマも小さく頷いた。
「そんな感じのことは俺も聞いたな。外回りヤバい的な」
冬の間雪に閉ざされるこの地方で、冬の前のこの時期に交易が途絶えるのって結構致命的じゃないんだろうか。でもエインスレイのところは生きてる。
荷運びの仕事を独占するのが目的なのか?
「いやそれだと、じゃあなんでエインスレイのところは無事なのかって話になるだろ」
コウは俺を指さした。あ、そっか。
「でもなんで娼館が荷運びを扱ってるのかが微妙にわかんねぇな。あと団長が帰ってこないのも」
今日の場合はあの余興があったから、あれを止めるのに留まる必要があった気がするけども。
「……ルート自体が必要なんじゃなかったのかもな」
シマは誰に言うでもなくそう言った。レツは首を傾げる。
「どういうこと?」
「エインスレイが安全なルートを握ってるってことを確認したかった、とか」
「うちのお告げと、この辺の荷運びの何かありそうな感じに、関連があるかどうかの確認」
コウがそう言うとシマは正解と言った風に指さした。レツはシマとコウを見比べる。
「それがお告げがなんとかしないとならないこと?」
「いやまだわかんねぇ。お告げと関わりがあったとしても、どう関わってるのかは全然だし」
お告げの映像は事件の全てに関わってるわけじゃないんだから、きっかけ程度にでもなってれば、もうOKが気がしなくもないけども。
「レツはお告げがコレに関わってる感じとか、しないの?」
俺がそう言うとレツは難しい顔をした。
「いや今までもそうだったけど、お告げ自体が何かに関わったとしても、そこは全然わかんないんだよね」
クリアしたかどうかは何となくわかるんだけど、とレツは言いながらグラスに口を付けた。俺も何となく自分のメルナを飲んだ。
みんな何となく無言になる。何か、手詰まりだな。結局何も進んでない感じがする。
……って、あ、そうか。これこの前と同じだ。キヨがいないところでキヨの足跡を辿るしかない話し合い。
今はキヨがいるんだからキヨに聞けばいいし、キヨが話してくれなくても、そういう時はキヨが考えて動かしてくれる。
「……これ、俺たちで今考えなくても、キヨに聞けばいいことだね?」
みんな顔を上げて見合わせた。うん、今気付いたね。
「まぁでも……キヨくんがどうするかはわかんねぇから」
コウがそう言って酒を飲むと、シマも顔をしかめて頭をかいた。キヨがいなくても何かできるように、練習ってことなのかな。
「でも結局俺たち、キヨの考えてることを追うしかできねーのな」
それはキヨが何かを追ってる行動自体が、俺たちには謎に見えちゃうからなんじゃないかな。話してもらえばいいのかもしれないけど。でもキヨが気になるから、俺たちはそこにヒントがあるんだと知ることができる。
キヨがいなくなったら、本当に誰かがキヨみたいにお告げの謎のパーツを拾い集めて形にできるんだろうか。こんなに何にもないところから。
「キヨにいなくなってほしくないよ」
レツはぽつりとそう言った。
いなくなる、わけじゃないけどね。キヨはハルさんと幸せに暮らしましたっていう結末なだけで。でもそれがわかっているから、わがままにキヨを引き留められない。
「俺、キヨに聞いてくる」
俺は唐突に立ち上がった。みんなが俺を見る。
「えっ、何を?」
「とりあえず、何が目的でハヤのとこに行ったのか」
話のきっかけはそれで。何かわかればそこからみんなで話しができるかもだし。
せっかく潜入行動したのに報告ができてないから、余計な時間を使っちゃうんだ。
それにもうご飯の時間だから、それを理由に連れてくればいい。
「キヨが飯で連れてこれるかー?」
それは無いと思うけど、でもハルさんが部屋で話すのに酒を許してなければ、そろそろ飲みたくなってるかもしれない。
俺がそう言うと、三人とも吹き出した。
「お前ホントにキヨくんのことアル中だと思ってんのな!」
いや、明らかにアル中だろあの飲み方。くっそ強い酒の一気飲み何回したと思ってんの。
「ま、いいや。行って来い」
シマはそう言ってグラスを上げた。俺は頷いて宿へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます