第6話『寝足りないなら添い寝しようか』
いなくなっちゃうってのが、イマイチわからんよな。
翌朝、俺たちは日が昇った頃に起き出した。
珍しくキヨもちゃんと起きた。ちょっと眠そうではあるけど。まぁ話題の中心でもあるし、する事ないからって寝坊していられないよな。
昨夜は時間も遅かったから、結局そのままみんな寝たのだ。
内容が内容なだけにちょっと納得いかなかったけど、キヨが「急いで話し合ったところでお告げが変わる訳じゃない」と言ったので、みんなとりあえず寝るのに同意した。
レツはやっぱり悲しそうな顔をしている。
レツの説明では、お告げの映像にはキヨがいて、キヨが闇に消えるようにいなくなってしまうというのだ。いつもながら曖昧というかざっくりというか、それが何になるのか全くわからないヒントだ。
「でもなんだか怖いんだもん……」
レツは泣くのを堪えるみたいな顔で唇を尖らせた。
前にモンスターっぽいお告げの時も、怖いって説明放棄しちゃってたもんな。でもあの時はクモのモンスターだったからかも。ただ仲間が消えてしまう映像なら……いや、怖いか。消えるって、やっぱ……
「それって俺が死ぬって感じなのか?」
キヨはド直球でレツに聞いた。
この人心臓に毛が生えてるタイプだけど自分にも容赦ないな。っつか言い方!
レツはぶんぶんと頭を振る。でも否定と言うよりはその考えを振り払うようにしてるみたいだった。
「いなくなるってのでイメージできる事って何かあるかな?」
ハヤに振られたコウはちょっと考えるみたいに首を傾げる。
「道に迷う?」
いやいや他のメンツならともかく、キヨが道に迷うとかありえないっしょ。
「レツじゃないんだから」
「お前だって迷うだろ」
コウは俺を小突いた。それは、王都レベルの大都会の話じゃん!
「じゃあ、病気にでもなるとか」
キヨは体の調子を確かめるように胸に手を当てて眉間に皺を寄せた。
「今日は寝足りないけど」
「キヨリンに不調はないよ、体の隅まで僕がぜーんぶ知ってるから」
そう言ってハヤはキヨに抱きついた。ハヤが言うのは、白魔術師として仲間の体調管理できてるって意味だよね。言い方なんとかできんのか。
「寝足りないなら添い寝しようか」
ハヤが囁くと途端にシマとレツが嬌声を上げた。あ、レツ元気になった。
「団長」
キヨが何か言う前にコウに突っ込まれて、ハヤはちょっとだけ膨れてキヨから離れた。他に何かあるかなぁ。
「……旅を離れる、とか」
シマの言葉に、キヨはちょっとだけ驚いた顔で見た。
「いや……そのつもりは、ねーけど」
「だよな」
シマは自分の言葉を笑い飛ばすみたいな顔をした。みんな、そうあって欲しくないって思ってる。
「じゃあ、だとしたらなんだー?」
シマはお手上げって感じに一度ごろんと後ろに転がった。
「『何か』もあるけど、それが何のヒントになるのかがわかんないよね」
ハヤはそう言ってキヨに振る。キヨもちょっと首を傾げて、
「今までだって、クリアするためのヒントとしては微妙な映像もあったし、別に俺がどうこうってのがそんなに関わったりしないんじゃね」
だからあんまり気にすんなと、キヨは笑ってレツに言う。レツもちょっとだけ顔を上げて小さく頷いた。
そう言えば紫の花とか、クリアに必要なものではあったけど、確かに直結はしてなかったな。それに結局何をもってクリアなのかは勇者次第なんだし。
っていうか自分が消えちゃう映像がお告げだったってのに、この人ホントにいつも通りだな。ちょっとは……怖かったりしないのかな。
「まぁでも、ここで見たってことは、コレをどうにかすべきってことなんだよね?」
みんなを見回してコウが言った。
えーと、コレ。意味もわからずエルフに捕らえられた俺たち。ってことはつまり、黙って逃げちゃダメってことか。ほらー、ハヤが調べるとかしなければー。
「やっぱ昨日のうちに逃げちゃえばよかったんじゃん」
「お子様、その年からつまんない人生選んでどうすんの」
お子様じゃねーし! ハヤはそう言うけど、さっさとここから離れていれば、ここでのトラブルに巻き込まれることもなく、キヨが消えちゃうお告げなんて受けなかったかもしれないのに。
そう言うとコウは「捕まった時点で巻き込まれてはいただろ」と言った。そうだけどー……
もしかして、レツがお告げを受けたのは、巻き込まれているはずの俺たちが何もせずに逃げようとしたから、ってことあるかな?
調べる気満々だったハヤも、昨夜キヨと話して逃げることに同意した。だからレツがお告げを見た……とか。
でもそれは無いか。なんせお告げの内容がまったく意味をなさない。
「そんで、昨日のデートでわかったことってあんの?」
シマはそう言うと乗り出すように体を寄せた。あ、やっぱみんな出てったのに気づいてたんだ。レツも面白そうに近づく。ハヤはそんな二人に顔を近づけた。
「もうキヨリンが激しくて」
「だから寝足りないってわけですね」
「ちょ、お子様連れてったのにそんな」
「そこは途中で二人っきりになれたから」
シマとレツがきゃーきゃー騒ぐ。俺がはぐれたことを言ってるんだったらウソじゃないけど、ウソじゃないけど何となく!
コウがハヤに突っ込もうとしたところで膨れる俺を見て、そのままキヨに振った。
「こいつが迷子になって」
迷子じゃねーもん! 二人が速いから悪いんだもん!
でもシマとレツは「やっぱ迷うんじゃん」と爆笑していた。くっそー……
「で、キヨくん、なんかわかったの?」
丸ごとハヤの話は無かったことにして、コウが聞く。
「わかったこと、は無い。気になってることはある、かな」
「それって?」
レツが不思議そうに見る。キヨはちょっとだけ難しい顔をした。
「この街……子どもがいなくないか」
え? 子どもってエルフの子ども? そりゃ昨日連行されてる時には見かけなかったけど、夕方だったから家に帰ってたとかじゃないのかな。
でもキヨはうーんと唸って考えてるみたいだった。
「キヨがそう言うなら、それなりに根拠もあるってことか」
シマがそう言うとキヨは「まだそこまでじゃねーけど」と小さく言った。昨日寝静まった街を調べてて何か見つけたのかな。
でも昨日の夕方から夜だけで、そう言えるほどの情報って無いような気がするけど。
「それに、子どもなら見たよ」
あのエルフの女の子。あんな時間に起きてたけど、彼女はちゃんと子どもだったし、だったらキヨが言うように子どもがいないって事にはならない。
「……あれをカウントすんの」
ハヤは眉間に皺を寄せてそう言った。
え、だってエルフだったじゃんか。キヨに「何?」と聞かれて、ハヤはちょっとだけ気乗りしないみたいに言った。
「迷子のお子様がナンパしてたんだけど」
してねーし! 偶然会っただけだし! めちゃくちゃ楽しそうにニヤニヤ笑ったシマとレツがひゅーひゅー言ってくる。
あぶねー、もし手を握られたとこを見られてたら、いくらでも勝手なこと言われるとこだったぜ……俺は擦り剥いた自分の手を見て、彼女の手を思い出してちょっとだけ顔が熱くなった。
「そんで団長は何でそんな顔してんの?」
「お子様が大人の階段上るのが癪なのか?」
「そうじゃないけどー」
ハヤはわざとらしく唇を尖らせる。もしかして、あの子が消えるようにいなくなっちゃったから? でもエルフの魔法ってすごい力があるんだから、あんな風に消えてみえるようなこともできるのかもしれないし。
「なんかちょっと、普通じゃない感じしたんだよね。あんな時間に広場で一人でいるのもおかしいし」
そりゃ子どもが起きてる時間じゃなかったけどさ。でもキヨはハヤの言葉を聞いて、「広場?」と言った。
「路地を抜けた先に広場があるんだよ。何か切り株の池みたいのがある」
俺は言葉を継いで言った。木の家サイズの切り株だから、周囲は三十メートルくらいあったんじゃないかな。
そう言えばあの時、俺とハヤはあの切り株を確認しないで帰って来ちゃったな。夜だったから真っ黒だったけど、昼間に見たら普通の池かもしれない。そういうとキヨは何だか難しい顔をした。
「お前たち、食事だ」
声がして顔を上げると、昨日のエルフの男性が食事を持ってきていた。もうそんな時間なのか。昨日は無かったスープを、鍋のまま持ってきている。
俺たちはちょっとだけ格子から離れた。キヨだけは興味なさそうな顔で格子の隅に寄りかかっている。男性が格子に近づくと、自動的に地面すれすれの辺りが鍋が通れるサイズに拡がった。そこから鍋と、人数分のボウルとスプーンを通す。
「なぁ、」
キヨは格子に寄りかかったまま声を掛けた。男性はちょっとだけ顔を上げる。
「いつまで茶番に付き合えばいい?」
男性は驚いた顔でキヨを見た。でもキヨはそれ以上言わない。
エルフの男性はキヨから視線を外すと、格子を元に戻して立ち上がった。しばらく逡巡するように俯いたままでいたけど、結局何も言わずに立ち去った。
まぁ、簡単に教えてはくれないよな。なんせいきなり捕えるみたいな方法で俺たちを連行したんだから。
コウが動いたので、俺たちは何となく黙って鍋からスープを分け始めた。
「ああ、くそっ」
唐突にキヨが言ったのでみんなびっくりして顔を上げた。
「キヨくん」
「悪い」
キヨは何だかイライラしてるみたいだった。え、なんで?
「キヨ、とりあえずご飯」
レツに言われて、キヨは両手で顔をごしごし擦ってからボウルを受け取った。ほんと、いきなりどうしちゃったんだろ。寝不足の不機嫌が今来たとか?
「……何かわかっちゃった?」
ハヤがそっと言ったので、キヨはスプーンを止めた。それから諦めるみたいな長いため息をついた。
「とりあえず、お告げには掠りもしてねぇ」
ふてくされたようにそう言うと、スープを口へ運ぶ。
いやもう、いつもの事ながら、全然わかりませんけどね。
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