第12話 勃発
「――光希、一旦落ち着けよ。てか、なんでそんなに興奮してんだよ? マジで訳分かんねーぞ」
フウタが冷めた表情でミツキにそんな言葉を投げかける。
「この戦いに参加する気のないお前には関係の無い話だよ、風太」
ミツキの声は鋭く、フウタを見つめる瞳には明らかな侮蔑の視線が込められていた。
「確かに俺には関係ないけどさ、お前がそうやって興奮してると話がいつまでも進まないんだよ。邪神を倒そうが封印しようがその時になってから決めればいいだろ。まずは目の前のことに集中しろよ」
ミツキから向けられる侮蔑の視線を気にする様子もなく正論をぶつけるフウタ。
「ふんっ、選ばれた責任を放棄して逃げた奴なんかに話しても仕方ないか」
流石のミツキも反論が浮かばなかったのか、皮肉げに野次った後にイライラした様子で椅子に座った。
「ふむ、ではここからは皆様方の訓練についての話に移らせていただきましょう」
ミツキの無意味な追求が収まったと見るや否や次の話題へと転換するウェンリル。
そこからの説明は俺にとっては全くと言っていいほどに関係の無い話であった。
端的に言えば、フウタを除く三人の勇者たちはいずれやってくる本格的な戦争に向けて、魔法の訓練や武器を使用しての戦闘訓練などを行うらしい。
フウタに関しては戦闘には参加しないと明言しているため、訓練の参加義務はないとの事だ。
それだと時間的にかなりの暇が出来ると思うのだが、なにかやりたいことがあるのだろうか。
こんな城の中に引きこもっているだけなど、退屈過ぎてなかなかに辛いと思うけどな。
「――そして、マギア様についてですが……」
「ちょっと待ってください。マギア君も俺たちと同じ訓練を受けるんじゃないんですか?」
ウェンリルが俺へと話を振ろうとすると、またもやミツキがそれを遮ってきた。
俺が訓練なんて受けるわけないだろう。
そもそもとして俺を鍛えられる人間がこの世界には存在しないのだ。時間の無駄にも程がある。
「いえ、マギア様にはすぐにでも戦場に赴き、存分にその力を奮っていただく予定です」
暗に何を当たり前のことを聞いてきてるんだとでも言いたげな様子で、淡々とした口調でミツキの質問にウェンリルが答える。
「何故マギア君だけが? 確かに彼がすごい魔法が使えるのは認めます。ですがそれは回復に特化したものでしょう? それは明らかに戦闘には向かない能力だし、そもそも彼には俺たちと違って神から与えられた武器がない。そんな
明らかに俺の能力を過小評価していると言う口振りでそんなことを熱弁するミツキ。
やたらと『普通』と言う部分を強調していたが、彼は俺をバカにしているのだろうか?
そういうことなら今すぐこいつを八つ裂きにして俺の実力を証明してやってもいいのだが……。
しかし、それには一つ厄介なことがある。
コイツには神の息がかかっているのだ。
神々を敵に回すと元の世界の時の様に、殺しても殺しても挑んで来る
正直に言って、そんな面倒な状況はもうごめんだ。
コイツを消すならばまずは神々への対処を済ませてからになる。
……だがまぁ、殺さない程度に痛めつけるなら問題は無いか。
「国王陛下含め連合国の上層部はマギア様には訓練に時間を費やすよりも一刻も早く戦争への助力をお願いしたいと考えております。マギア様にはそれだけの実力があるのです」
ミツキの言葉に対して毅然とした態度でそう返答するウェンリル。
若干言葉の端々に『支配』の影響が滲み出てしまっている気もするが、周囲の人間にそれを察する人間はいないようなので良しとする。
だが、ウェンリルの返答を聞いたミツキは明らかに不満そうな表情を浮かべて眉を顰めていた。
彼のその表情から窺うに、俺を心配する素振りをしながらも単純に自分より評価が上であると言うのが気に食わないと言ったところか。
「心配してくれるのは有難いけど、こちらとしてはなんの問題もないから大丈夫だよ。俺は君と違って
俺は座したままにミツキへと視線を巡らせ、煽るような口調で言葉を述べた。
案の定、俺の挑発は彼の心へと深く突き刺さったようで、睨みつける様な視線をこちらへ向けてくる。
例え神とは言え、他者から与えられた程度の力にプライドを持てる辺り、ミツキがどんな人間性をしているのかよく分かるな。
「俺は、君を心配して……!」
尚も自身の正当性を主張して本音を隠し続けるミツキに対し、俺は心底相手を見下したような表情を浮かべながら言葉を放つ。
「それが余計なお世話なんだと言っているんだ。そもそも、俺は君如きに心配されるほど弱くない。それが分からない時点で君の実力もたかが知れている。子犬みたいに吠えている暇があったら、黙って大人の指示に従って訓練にでも励んでろよ」
「なっ……!? お前っ!!」
ようやく怒りの沸点に到達したのか、ミツキが席から立ち上がって怒鳴りつけてくる。
立ったり座ったりと忙しいヤツだ。
だか、やっとこちらの思惑に乗ってきてくれた。
これならばこの後の誘いにも当然のように応じてくれるだろう。
「そんなに不満なら、決闘……いや、模擬戦でもしてやろうか? 俺の実力が気になってるんだろ? 完膚なきまでに潰してやるからかかってきなよ」
「……いいよ。そっちがその気なら俺も容赦しないからな」
少し悩んだ様子ではあるが、案の定俺の提案に自然な形で乗ってきてくれた。
それに、有難いことにヒートアップした俺たちのやり取りにこの場にいる人間は誰も口出しできない様子だ。
まぁ、こういう場合の調停役であるウェンリルが俺の傀儡であると言う時点で、この場に俺の提案を止められる人間はいないのだがな。
唯一拒否できるはずの本人がやる気になった時点で戦いの火蓋は落とされたようなものだ。
後は精々彼が大恥をかけるようにお膳立てしてやることにしようか。
「とは言え、実戦経験の無い初心者相手に本気になる訳にも行かないな。特別にハンデをやるからありがたく思ってくれよ。――ウェンリル殿、彼にこの城にいる中で相当な実力を持った騎士達を貸し与えてくれませんか? 人数は何人でも構いませんので」
「なっ!? お前っ! 俺をバカにしてるのかっ!?」
「バカになんてしてないよ。ただ君の事を心配しているだけさ。それで、ウェンリル殿、俺の提案は受け入れてもらえるのでしょうか?」
激怒するミツキに皮肉を告げつつ、ウェンリルにこの提案を通すように念押しする。
傀儡である奴ならば、俺がわざわざ声に出さずともこちらの意図は当たり前のように伝わるはずだ。
「――マギア様がそう仰るのならばその様に手配させて頂きます。しかし、本当によろしいのですか?」
俺の意思は既に決まっているため、その確認作業に意味などない。
だが、他人の目がある以上はウェンリルもその様に態々声に出さなければならかったのだろう。
その意を組んで俺は肯定の意思を彼に示した。
これで手筈は整った。
後は思う存分に暴れるだけだな。
「それならば早速そのように手配致しましょう。模擬戦を行うということならば案内がてら、この城の訓練場へと移動することに致しましょう。三人の勇者様方にはそこで今後の戦闘訓練を受けていただくことになりますからな」
ウェンリルの言葉を後にして、俺たちは城の訓練場へと移動を開始したのだった。
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