第18話 悲しくて辛い昔話
リーズ王国は世界でも珍しく、吸血鬼と人間が共存している国だった。
共存してると言っても2つの種族は、お互いの利益のために争ってばかりいたらしいの。
吸血鬼たちは、生き永らえるために人間のことを食料としか見ていなくて。
人間たちは、どこからか流れたかわからない”吸血鬼の血を飲むと不老不死になれる”という噂を信じて、狩ろうとしてた。
だけど……今から大体100年くらい前のこと。
国王夫妻に王子が生まれたことをきっかけに争いをやめるようにとお触れが出て、
国王と吸血鬼の王は誓いを立てたの。
それぞれ住む場所を分けて、”共生”すること。
……ほら、東の森に流れる大きな川があるでしょうちょうどそのあたりに、魔族が作った境界線と結界を以て、その誓いが守られることになった。
もしも吸血鬼が暴走した時に人間を襲わないために。
人間たちがいたずらに吸血鬼へ攻撃しないために。
あんなに争ってばかりいた彼らだったけど、新しい命の誕生は等しく尊いもの。
お互いに今までのことを許して、友好関係を築き始めたわ。
歴史の教科書に語られているよりもずっと吸血鬼と人間は仲がよかったのよ。
年に一度、2つの種族が手を取り合ってお祭り騒ぎをする日があったくらい。
"ファミーユ・フェスティバル"と言ってね、
今のハーベストの時期くらいにあったらしいわ。
境界線に張られた結界は解かれて、吸血鬼たちは好奇心旺盛な人間たちを出迎えた。
…………どうして人間たちが吸血鬼の住処へ行ってるのか?
いい質問だわ。それはね、吸血鬼は太陽に弱いからよ。
だから彼らは自分たちの国------夜の国と呼ばれていたわね------の中にしか居られなかった。
吸血鬼たちの国はいつでも闇夜が広がっていて、星が輝いていたの。
反対に人間の国は夜が短くて、太陽が燦々と降り注いでいた。
なんでも昼を夜に帰る魔法は高等魔法で、誰にも扱えなかったみたい。
吸血鬼の国がそれ出来ていたのは、彼等の中に闇の祝福の使い手がいたから。
あぁ、これについては後でちゃんと説明するわね。
招かれた人間たちは皆、小さなランタンとそれぞれの得意料理なんかを持ち寄って。
伝記の中で吸血鬼が苦手としていた銀食器やニンニクをちゃんと避けていて、彼らは本当に仲良くしたかったんだと思うわ。
吸血鬼もそれを歓迎していたと聞いたことがあるから、いい関係だったのでしょうね。
食べたり、飲んだり、踊ったり、歌ったり…………ほら、ティアも踊れるマズルカがあるでしょう?
あれはその時に流行った踊りみたい。
そして、人間たちの国が日の出を迎える頃に彼らは帰っていって。
また境界線に強い結界が張られ、それぞれの生活に戻っていく。
そんな平和で穏やかな日々を過ごしていた。
だけど、ある時を境に彼等の生活は一変してしまったの。
1人の人間の娘と吸血鬼の青年が恋に落ちたのよ。
ファミーユ・フェスティバルで出会った2人は
初めこそぎこちなかったけれど、言葉を交わして、踊ったり歌ったりするうちに、きっと惹かれあっていったのね……
境界線を挟んで何度も何度も秘密で会っていたの。
誰にも内緒のデートね、結界に触れることはできないから、手をつなぐことはできなかっただろうけど……
幾度も会う度に二人の仲は深まっていったのね。
次に会うのは月の綺麗な夜。
そんな約束を交わして、別れた二人。
…………でも、その日が来ることはなかったわ。
また、彼等の間に事件が起きてしまった。
何故か突然暴走した別の吸血鬼が、血肉を探してフェスティバルの最中に人間を喰らおうとして、
そのまま殺されてしまったの。
そして、仲良くしていたはずの吸血鬼に裏切られた人間たちは大層怒って、魔族へお願いして、彼らに呪いをかけた。
学園で習ったかしら?……そう、光の呪いよ。
光の呪いっていうのは月光や星の光を使って、彼らの動きを制限するもの。
元々真っ暗な吸血鬼の国だから、暴走してない他の吸血鬼にはなるべく小さな影響で住むように、村人たちに内緒で魔族が光の呪いを選んだと聞いたわ。
だけど、そこから人間と吸血鬼の間に交流はなくなってしまった。
……でもね、恋仲にあった彼らだけは人目を忍んでずっと会っていたのよ。
この秘密の関係がバレないように、壊されないように。
彼女は魔族の子だったから、強固になった境界線の抜け道を必死に探したのね。
外で会っていたら誰かに見つかるかもしれない、だから透明魔法の練習も頑張っていたと聞いたわ。
そして青年は、必死に吸血鬼でなくなる方法を探していたの。
それが見つかったのかはわからないわ。
…………突然、彼は王国兵たちに襲撃されてしまったの。
月が綺麗なある夜のことだった。
彼女からもらった手紙に記された場所で待っていたのは、鋭い剣を持って構えた王国兵たち。
人間の娘を騙して飼い殺そうとした極悪人だと罵倒して、彼を殺してしまおうと狙っていたのね。
周りには松明を持った村人たちの姿もあって、彼は捉えられてしまった。
お互いを愛し合っているんだと主張したわ。その証拠に彼女のお腹の中には赤ちゃんもいたの。
また、前のように両国とも仲良くしようって嘆願したけれど、誰も聞き入れてくれなかった。
彼らが恋仲であることを信じる人もいなかった。
異種族での恋愛が成立するなんて、昔の人は到底思えなかったのでしょうね。
そして、程なくして人間と吸血鬼は大きな戦争を起こしたわ。
…………よく知ってるね、そう"血華戦争"よ。
無抵抗な吸血鬼たちに、人間たちは怒声と暴言、それから銀の弾丸を浴びせ続けた。
武器を持たない平民たちも家の中の銀食器なんかで攻撃していたみたい。
だけど、絶対に吸血鬼たちは人間には手を出さなかった。
それが、青年と彼等の約束だったんですって。
人間に恋をした自分に出来ることは、彼らを傷つけないこと。
それが自分たちを守ることにもなるって考えたんでしょうね、同胞たちにも守ってもらっていたみたい。
だけど王国兵たちが浴びせ続けた銀の弾丸の一つが恋人を庇った彼女に当たってしまった。
愛していた彼女から流れる血を見て、青年は豹変したの。
同胞たちの静止も聞かず、片っ端から人間たちを殺そうと暴走したわ。
その時。
真っ暗闇だった夜空に大きな満月が輝き始めて…………
月光が彼を焼き殺したの。
そう、吸血鬼の国全域に掛けられた光の呪いを、当時の王国騎士団長のリュクシーが強めていたらしいの。
ごめんね、この辺りの話はあまり詳しくは知らないから、よくわからなくて……。
学園の先生に聞いたほうがわかるかもしれないわね。
……銃で打たれた娘はどうなったかって?
彼女は魔族、しかも治癒の能力を持ったリュクシーだったの。
だから、青年とは反対に月光に照らされることで傷を治すことができて、お腹の子と一緒に安全な場所へ身を寄せることができたみたい。
その後、血華戦争はさらに激しさを増して、吸血鬼たちが全滅して幕引きとなったわ。
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