第10話 新しい居場所

端的に言おう。


屋敷はとても広い。


外には庭もあるし、水の出てない噴水もあった。

以前住んでいた人は花を植えるのが趣味だったのだろうか、ところどころ枯れた植物の蔓が絡みついていた。



そして、門から少し歩いてゴテゴテと飾りのついた重いドアを開けた先が、この玄関ホール。



入った瞬間、全身の毛がよだつような何とも言えない雰囲気に包まれた。


だけど不思議と嫌な気分ではなくて、、むしろいい心地。


周りを見渡せば蝋燭がついていて……って、今も誰か住んでいるの?



『ボクらさ!!』


「っ⁈だれ、!?」



バンッと大きな音がして玄関ポーチに灯りがつく。


眩しくて思わず視界を窄めてしまったけど、奥に誰かいるような……?


それに今、あの声で"ボクら"って言ったよね?

もしかして……



「そこにいるのは、僕を助けてくれた声たち、なの?」


『大正解!!いいから、とにかくこちらへおいで!』



今度は自分の意思で動かなければいけないみたい。


こちら、というのは玄関ポーチの真っ直ぐ前にある階段上の扉でいいのかな、?



『そうだよ〜早く来て!』


「わかった、今行くから押さないでよ!」



急かすように押される背中の感覚。


何があってもいいように燭台を引っ掴んで階段を駆け上がる。



扉に手をかければ、また自然と開きだす。

これも魔法なのかな?不思議。



「失礼しまーす…………っ⁈」


『やっと会えたね!』



そこには見目の美しい少年少女が数人立っていた。



「なんだか随分人間らしい見た目だね…………というか、君たちは結局誰なの。


なんとなく検討はついてるけど、教えて」



ズキンッ……


その瞬間、こめかみに爪で刺されたような痛みが走って、突如頭に流れ込んでくる記憶。



老若男女様々な吸血鬼たちが曇り空の下で楽しそうに話している。



ん……?1人、こっちに手を振ってるのがいるな。


もしかして、アイツがこの声の、?


たしかに同じような見た目をしている気がする。



だけど、彼らは既に死んでいるはず……意識だけ、残っていて、この屋敷の中では人の姿をしているということか?



『ピンポーンッ!大正解!ボクらは昔人間に倒された吸血鬼たちの魂だよ。


この森にはボクらみたいなのがいっぱい眠ってるんだ。その中でも活力のあるボクらはここに住んでて……この屋敷はボクらにとって過ごしやすい魔力に満ちているから、こうしてカタチを保っていられるんだよ』



へぇ、だからこの森は立ち入り禁止だったのか。


にしても、すごく人間ぽい。もっとこう悪魔みたいな、そういう感じのを想像していたから、ちょっと残念。


だけど僕に近しい存在にも感じられて、今までのような恐怖は薄れた。



「じゃあ、それが生きていた時の姿なの?」


『そうよ!吸血鬼といっても見た目はアンタとそう変わらないわ』


「わ、違う人、いや吸血鬼?」


『やっほー、ベラ。まぁ違うところがあるとしたら耳の形くらいだよね。そんなことより!ほらほら、みんな自己紹介しないと!


人間も吸血鬼も挨拶は大事だよ!』



おぉ、意外とちゃんとしている。


勧められるがままに座ったソファも触り心地が良くて、少し気分が上を向いた。



『ボクはサーシャ。この吸血鬼たちの中で一番年上で頼れる存在なんだ!だから、困ったことがあればいつでも頼ってくれていいよ』


『サーシャが一番頼れるぅ?勝手に嘘ついてんじゃねーよ。一番頼れるのは俺サマ、ライルだ。昨日森でお前を守ったのも俺だぜ?感謝しろよ、リアム』


なんだろう、もうすでにお腹いっぱいだ。

キャラが濃いというか、自我が強い、というか……


『喧嘩は後にしてくれる?

ハイ、リアム。アタシはベラよ。あまり馴れ合うつもりはないから、気安く話しかけてこないでちょうだい』


『ご機嫌よう、リアムさん。私はエリザベス、以後お見知り置きを。ここの屋敷を管理しているのは私ですから、サーシャさんよりも頼りになると思います。どうぞよろしく』


『ちょっと、それどういうこと!』


『煩わしいですわ、サーシャさん。当たり前のことを言っただけです。さぁ、時間ももったいないですし、チェルシーたちもご挨拶を』



『は、はい!こんにちは、リアムさん。わたしはチェルシーです。ここに来たのは最近なので、あまりお役に立てそうにないですが、、、よ、よろしくお願いします!』


『僕はギル。ライルの弟、それだけ』



…………これで、全員なのかな?最後のやつ愛想悪いな、さすがライルの弟だ。



うーん、矢継ぎ早に色々言われたせいで頭がごちゃごちゃする。一旦整理しよう。



まず、背が高くて長そうな白髪を束ねているのがサーシャ。その隣の無愛想な青髪がライル。


反対側、気の強そうな黒髪の女の子がベラで、その隣で優雅にブロンドを梳かしてるのがエリザベス。


そして、床に座っている少し小さな茶髪の女の子がチェルシーで、銀色の髪の男の子がギル。



よし、なんとかなりそうだ。



『大丈夫?ボクらのことわかった?』


「う、うん。なんとか。それで、ここはどこなの?どうして僕はここにいるの?」



ずっと森で暮らすしかないと思っていたから雨風を凌げる家があるのは願ったり叶ったりだ。


ただ所在地も誰のものかもわからないし……それに、さっきから身体を包んでいる魔力みたいなのも、入る前にサーシャが言った『もう僕たちの仲間だね!』という言葉も気になってる。



『ここは私達が暮らしているお屋敷ですわ。元々、このお屋敷を中心に吸血鬼の国が作られておりましたの。戦争と一緒に滅んでしまったのですけれど、何故かこのお屋敷だけはずっと残り続けて……もしかしたら、貴方のような吸血鬼の子を待っていたのかもしれませんね』


「僕を?そんなことがあり得るの?」


『おう。だってお前、ここに何の問題もなく入れただろ?いくら吸血鬼に順応したとはいえ、10年以上は人間として暮らしてきたんだ。そんなヤツが、アイツともここの空気とも順応できるなんていうのは何か、必然的な巡り合わせなのかもしれないぜ』


俺はあんまり運命とか目に見えないものを信じるのは好きじゃねぇけど、とぶっきらぼうに告げるライル。


巡り合わせ……昨日も気づけば吸血鬼に身体も意識も乗っ取られていたもんな。

どうにかして調べてみたいけど、ここには図書館とかはあるのかな?



『あるよ〜』


「うわ、驚いた。あのさ、その読心術みたいなのやめてくれないかな?」


『いやぁごめん、ごめん。でもさ、やめれないんだよね。ボクらにも勝手に君が考えていることが流れ込んでくるからさ。

だから、今の君の疑問に全部答えてあげる。

君がここに来たのは、ボクらとすぐに親和したのを見込んで”器”だと判断したから。まぁこれはおいおい説明するね。


君を連れてきたのはボクだよ。新しい居場所になるんだから、みんなと仲良くしてあげてね。あ、ここにあるものは何でも使って平気だよ。ね、エリザベス?』


『えぇ、そうですね。今はご主人様もいませんし、昔はここで人間が暮らしていたこともありますから、貴方が着れるような服や生活必需品なんかもあるんじゃないでしょうか。私は人間のものに触る気はありませんの、ご自身で探してくださる?』


人間が暮らしていた……?戦争の前の話、だよね。

口ぶりからしてエリザベスは、ここのメイドでもしていたのだろう。


主人は誰なのかな。



『エリザベスの人間嫌いは変わらないねぇ〜まぁ無理もないか。

それで、ここは王都に近いけど、吸血鬼により近いモノにしか見えないから安心してね。食料とかは森で獣を獲ってもいいけど、あんまり美味しくないから人間を連れてくるのをオススメするよ。


あ。でも君はそういうの嫌いなんだよね、ボクらが代わりに取ってこようか?』


「い、いや大丈夫。遠慮するよ」


『そう?まぁとりあえず、ここにはボクらの魔力がそこかしこに掛かってるから、昨日みたいに襲ってくる馬鹿はいないと思うから安心してね。


それじゃ!』



…………行ってしまった。もう少し話を聞きたかったんだけど。


リビングの真ん中で一人ぐるりと視線を彷徨わせる。



「(案外綺麗だ……)」


外の古めかしい見た目とは反対にリビングはすごく綺麗。


なんかもっと蜘蛛の巣が張られてるとか、家具がボロボロなのかと思ってた。


ボスっと音を立ててソファに寝転んでみると少しほこりっぽい感じもするけれど、外でずっと寝泊まりするより全然マシ。



色々わかったこともある。


僕はただ吸血鬼に順応しただけではないという可能性があること。


ここは元々吸血鬼の家で、人間も暮らしていたこと。



そして、彼らはすごく自由人で、何を考えているのかよくわからないけど


僕に何か叶えてほしい野望があること。




それが何かを調べるために図書室にでも行こう。


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