第2話 戦闘
「動くな」
「あァ……久しぶりだな、ローズ・シュバリエ」
「もう、私はソレではない。そして、今のお前と話す必要もないッ!」
ビシッと吸血鬼の首筋に薔薇色の剣が沿う。
しかし、彼は動じなかった。それどころか素早さを増してロドリックさんの方へ向かっている。
俺の前で何が行われているのかわからない。
それに縦横無尽に暴れ続けている彼が、自分の弟のリアムだったなんて思いたくなくて、目をそらしたくなる。
でも、見続けなければいけない。そんな気がした。
「……ハハッ、こりゃあイイ」
「なにがおかしい」
「残念だったな、この身体にローズ・ソードは通じないようだ、……っと!」
グググ………
剣先がどんどんロドリックさんの方へ押し戻されていく。
「くっ……お前たち、まだ生きているのか」
「いいや?少なくとも俺は死んだ。
だけど、コイツ。このリアムって奴にはポテンシャルがある。さすがリュクシーの子……どうやら俺たちにも分があるようだなァ!!!
それじゃ手始めに……『アンファール・ローブ』」
「ッ……『ブリュム・ド・シャルール』!」
吸血鬼が打った魔法はロドリックさんには当たらず、彼の姿は消える。
未だガラスの中にいる俺と父様は、固唾をのんで見続けている。
…………見ることしかできなかった。
高度魔術者が張ったバリアは、術者本人が解かない限りなくならない。と学院で教わった。
それに俺にも多分父様にも、彼の
「ほう……?なるほどねぇ、その意地汚い戦い方は変わらないな!さっさと出てこい、ローズ・シュバリエ!」
しかし、見ている間にも吸血鬼はどんどん力を増していく。
はやく終われ、そう祈るしかなかった。
「『ノワール・エクレール』」
ドンッ……バリリリッ‼︎
目の前のバリアにまっすぐヒビが入った。
ヒビを挟んで吸血鬼の真っ赤な目と視線がかち合う。
「お前が出てこないとこの家はボロボロになっちまうだろうなぁ……?
そうすればどうなる。力をもったリュクシーの末裔なんだ、答えは分かるだろう?」
リュクシーの末裔、?今の状況が把握しきれてないんだよ、やめてくれ!
自分に何か力があるのかもしれないということはわかった。
だったら、それを俺に教えてくれよ!!
そうすれば、リアムを…………ッ
「やめろ、お前の標的は私だけだろう!」
「いーや、そうでもないぜ?
そこにいるのリュクシーだよなァ?この世でまたお目にかかれるとは思わなかった。
アイツらの血は美味いんだ。それに甘い香りがする……コレ、治癒能力持ちか。結構結構。
なぁ、そんな奴が今どんどん絶望に追い詰められていってる。なんせこの体はあいつの家族のものなんだ。意識は俺が乗っ取っているが、それは大した問題じゃない。
今、アイツに見えているのは家族が生まれ育った大切な場所を壊して、自分に危害を加えようとしている。その事実だけだ」
俺がこのまま落ちていけば、コイツの思う壺。そういうことなのか。
でも、コイツの言う通りだ。
リアムだった何者かが家を壊し、俺たちを守ってくれる人を傷つけている。
正義感をずっと持ち続けるのには、悪影響が強すぎるんだ。
「絶望したリュクシーの血は美味い。100年ぶりに飲める……邪魔するんじゃねぇよ!!」
ロドリックは焦っていた。
このままバリアを放っておけば、エリックは光を失い人形のようになってしまう。
そのまま
吸血鬼はリュクシーと同化することで、さらに力を得る。
しかも2人はドロテア家の血を引くもの、展開は王立図書室で昔読んだ100年前となんら変わらない。
この先に待っているのは戦争だ。
残っている吸血鬼種が彼だけなのかはわからない。
見た目に変わりはないし、意識だけ乗っ取られている様子を見れば、同じ状態の奴等がまだ沢山残っているのかもしれない。
そんな奴等が全て起きたら。
100年前の悲劇が繰り返される。
沢山の死者が出て、怪我人が出て、国は黒い血に染まる。
「……そんなこと、二度とさせてたまるか!!」
カンッ……!ジュワ…………
覚悟を決めたロドリックが剣を大きく振るう。
「いいねぇ、そう来なくっちゃ!!」
「ここで止める……!」
カンッ、ビリリッ
ロドリックの立っているところへ凄まじい轟音と共に雷が落ちる。
床は傷つき、ロドリックは後ろへ下がるしかなくなった。
「大丈夫か?下がってるだけじゃ、俺には太刀打ちできない、ぜッ!!!」
「……………やめろぉおぉぉおお!!!!」
ガッシャーーンッ
「……っ⁈エリック様、何を!!」
目を大きく見開いたロドリックの視線の先
そこには崩れたガラスのバリアと手から血を流すエリックの姿があった。
「エリック、血が!はやく、止血を……!」
「父様は下がっていてください、アイツは俺が止めます」
コツコツコツ……
「ロドリックさん、それ貸してください」
「なりません!」
「……貸してください」
半壊した客間が静まり返る。
エリックの真っ直ぐな瞳に射抜かれたロドリックは渋々といった様子で剣を渡した。
その瞬間
身柄の長いローズソードが眩しいほどに紅く光りだした。
「っこれがリュクシーの力……いいねぇ、ますます欲しくなってきたァ……!
いいぜ、来いよ小僧!!」
「……これ以上、リアムを壊すのはやめろ!!」
「あぁ?……はっ、愛の力か?笑わせてくれるッ!『ノワール・エクレール』」
バリバリバリッ
「…………ぅぐッ」
しかし、その顔には一つの傷もついていなかった。
「……俺の攻撃が効かない?治癒のリュクシーなのか?おい、お前」
「掛かった!……王国令第37条に基づき、この
エリックの胸元にかかっていたペンダントが眩く光りだす。
「……ごめんね」
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