第2話 いっぱいいっぱいになるんです

「私たち、家族みたいな時間が長かったから……一緒にいるとつい、恋人関係であることを忘れるの」

「まあ、付き合い長いしね」

「でもそれ、タイヨウ君にすごく気を使ってもらってるからだと思うんだ」


 高校生の時は、すごくいちゃいちゃしたいってずっと思ってた。誰にも邪魔されず、二人っきりで。

 だけどいざそれができるようになると、――私は「いい雰囲気」の許容量がとても少なかった!

 大人になったらお酒を飲むんだ、と憧れていたのに、ちょっと飲んだだけですぐに酔っ払っちゃうみたいに、すぐにソファとかベッドに倒れ込んでしまうのだ。

 そんな私だから、普段のタイヨウ君は、そんな雰囲気がないようにしてくれているんだと思う。


 その分、スイッチのオンオフがすごくて、アルコールを一気飲みしたような気分なんだけど。


「ほ、本当はもっと……シたいんだけど、すぐ私が寝込んじゃうから……」

「あーあーあー聞いてない聞いてない聞きたくない」

「え、あ!? ごめん!」

 

 ブレーキが効かなくて、聞きたくないものを聞かせてしまった。

 うう、相談したいけど、下手に詳細を言うとセクハラになるから難しい。


「で? まだ相談内容が見えないんだけど。はよ本題」

「あ、うん……その、許容量ってどう増やせばいいのかな……」


 私がそう言うと、はあ? とハルコちゃんが言った。


「え、どこでそうなったの?」

「え、早く本題って言ったの、ハルコちゃんじゃん」

 リクエストに応えて本題に入ったのに、ちょっと理不尽。

「いや、私はてっきり、恥ずかしいから確認をやめて欲しい、ってことだと思ってた」

「やめて欲しい、っていうか……」


 どう説明すればいいんだろう。


「……昔、似たような相談したの、覚えてる?」

「あー、『敬語やめて欲しい』?」


 うん、と私は頷いた。


「皆にはタメ口なのに、私だけなんで敬語使ってるんだろう、って、不安になって。

 結果的には良かったけど、でも、その時思ったの。そういう時無理に距離を詰めたら、壊れちゃうんじゃないかなって……」


 敬語の時もそうだったけれど、タイヨウ君は色々考えて行動している。

 それは自分のことじゃなくて、主に私を優先しているんだと思う。


「タイヨウくんが考えたことを、一方的に否定したりしたくないの。

 だからまず、自分の許容量を増やしたいなって」

「じゃあ、確認してくるって冒頭の相談はなに?」

「……誰かに話さないと、私の許容量が壊れそうだから……」


 それを聞いて、ハルコちゃんは持っていたコーヒーをグイッと一気飲みした。

 そして、スウ――と長く息を吸って、



「惚気かッッッ!!!」



 声が大きいよ、ハルコちゃん。


「いや、全部惚気かよ! 相談という体の惚気か!!」

「ち、違うよ! れっきとした相談だもん!

 ハルコちゃん物書きだし、歴戦の猛者だし! なにとぞ知恵を!」 

「あんただってモテたでしょ中学時代!!」

「ハルコちゃんと違ってお付き合いしたことないからカウントできないもん!」


 と、二人で喚き散らした瞬間、ブブー、とテーブルの上でハルコちゃんのスマホが震えた。


「あ、ごめん、サヨちゃんからだ」


 ハルコちゃんが、つるつるに整った爪でスマホをとる。


「もしもし? 成人式終わった? そっか、じゃあそっち行くね」


 そう言ってハルコちゃんは、荷物入れに畳んでいたコートを掴んで立ち上がった。


「サヨちゃん、成人式終わったんだ?」

「うん。だから私、そろそろ行くね」

「わかった。気をつけてね」


 私がそう言うと、そうだ、とハルコちゃんが言った。



「さっきからミヅキ、『思う』とか、『多分』って言葉が多いよ。

 ちゃんと、言葉で確認した方がいい」

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