2年3組の中嶋さんが行方不明になりました⑵

 村田が2年3組の教室に行く頃には、教室内は閑散としていた。

 数名の生徒が輪になっておしゃべりに興じているのみで、こちらを気に掛けるような生徒もいなかった。

 村田はゆっくりと教室内に入る。


「あのー…」


 村田の声に、中央に居た女子3人グループが振り返る。

「…はい」

 一番髪が長く、化粧の濃い女子生徒が村田に相槌を打つ。


「あの、園崎愛花さんって今います…か?」

「愛花?」


 3人は当たりを見回し、後方に視線を送る。

「リュック無いわ」

「あー、部活だ。陸上」

 確かめるように声を出し、3人は頷くと、またも長髪の女子生徒がこちらを振り返る。

「先輩、愛花いないです。あの人、陸上部のマネだから…トラックにいると思います」


(トラック…南グラウンドか)


 校舎の教室棟を抜け、玄関から外履きを持って南グラウンドまで向かうには少々面倒くさい。第一、部活動中の少女に声をかけるのは、後ろめたい。

 村田はお礼を伝えると、そのまま教室内の教卓に向かう。質素な金属製の教卓の中から座席表を取りだす。


「えーと…みおちゃんは…」


 中嶋美緒の席は、最後列の右端から二番目の席だった。村田は教卓に座席表を戻し、彼女の席を見に行く。机の天板にイジメらしき落書きでもないかと注視したが、机は綺麗だった。中腰になり、中を覗き込むが何も入ってはいない。


(どんな些細なものでもいいんだけど…)


 村田は机の中に手を入れ、奥の方まで探ってみる。左右に降った手は空を切るばかりで、何もない。


(まぁ、当然か)


 村田は諦めつつ手を引き抜こうとした瞬間、天板の内側に手が引っかかる。


「ん?」


 天板の内側にくぼみらしきものがある。しかも、綺麗に面取りされた穴のようなくぼみで、明らかに人為的なものである。


「…なんだろ」


 その窪みに指を突っ込むと、プラスチック製の何かに触れる。明らかに机の天板とは違う質感のものだ。指を絡めつつ、粘着剤のようなものを引き剥がすと、村田の掌に何かが残る。


「何これ」


 それはプラスチック製の楕円形の発信機のようだった。小さなオレンジ色のランプが点っており機械音もわずかに聞こえる。


「……愛花ぁ?」


 中央にいた先ほどの長髪の少女が声をあげた。村田は慌てて立ち上がり、彼女たちを見る。しゃがみ込んだ村田の姿は、三人組の彼女達からは死角だった。


「あ、先輩いたんだ。今、ずっと愛花がそこに居たよ」

「園崎さん?」

「うん、でも、ずっとその辺りの様子を見て…無言で引き返したわ」


 そう言って長髪の少女は村田を指差した。


「ちょうど先輩がいた辺りをずっと見て、愛花無言で戻っていったよ……」

「……なんか、すごい顔してたよね」

「ねぇ、見たことない表情してた……先輩、何かしちゃったんですか?」


 そう言って3人は笑った。

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先生!多分、隣の子が犯人です。 アベ ヒサノジョウ @abe_hisanozyo

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