2年3組の中嶋さんが行方不明になりました❶

俺の隣の席に座る園崎 愛香はストーカーだ。もちろん、根拠がある。


「凛くん。おはよう」

「……おはよ」

毎日、愛香はそう言って俺の隣の席に座る。

「朝から、眠そうだね」

「ん」

「凛くん。昨日は何時に寝たの?」

「…2時くらい」

「遅いね。…そんな時間まで、何してたの?」

「んー……ちょっとね」


愛香は俺に返事をする気がないとわかると、すぐに文庫本を取り出し読み始める。そして、熱心に読書をするをする。本のページを一定の間隔でめくり、まわりから見ても怪しまれることはない。

しかし、俺は知っている。

彼女のブレザーの胸ポケットにはカメラレンズを上にしたスマホが入っている。それが、ずっとこちらを向くように調整されている。

……多分。


()


鬼塚の授業を受けていた時もそうだ。

あまりの眠さに俺は耐えられなかった。昨日、肉を切った時に多くの血を浴びてしまったからその処理に大変だったのだ。


「凛くん。読んでいる教科書が違うよ」


なんとなく手に取った教科書は数学Ⅱと書いてある。ああ違うな、世界史か。

「凛くん…日本史。違う違う、日本史」

愛香は嬉しそうな表情を浮かべながら俺に指摘する。

彼女はいつもそうだった。やたらと俺の方を見て、話せるきっかけがあるとすぐに声をかけてくる。俺が適当に相槌を打つと、話してこなくなるので困ることはないが、ニヤニヤと浮かべる微笑みは気味が悪い。


「ほら、リュックの中。その包丁が挟まっている教科書だよ」

「ああ、日本史…」


やはりか。包丁を見ても何も気にしない。

それは、俺のことを知っているから。俺のことを見ているから。

間違いない。


俺は昨日使っていた、包丁を適当に机に入れる。何枚か机の中の紙が切れたような気がするが、気にしない。


「鬼塚がこっちに来たら起こして…」


眠気の限界を感じ、また机に頬を寄せる。


「もぉ…私まで怒られるんですけど」


とボソリと声がした後、うっすらと見える彼女の様子。

嬉しそうに微笑みながら、教科書の影に隠すようにして小型のカメラを握っている。盗撮以外では使わなそうな、黒くて不気味なやつだ。


———まぁ。なんでもいいか。



まだまだある。やばいぞ、愛香。

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