第27話「死神があらわれた」

「みんな、あいつはフィールドエネミー。戦っちゃ駄目だ!」


「マルクの言う通りだ。俺の大盾でも絶対にあの死神のカマは防げねぇ」


「こいつ!こめっちゃしつこい!ずっと追ってくるんですけどぉ!?」


「ふええぇええん怖いよお。ルーナおちっこもらしちゃったー」


 マルク一行は『フィールドエネミー』の死神に追われていた。


 フィールドエネミー。

 遭遇したらパーティ壊滅ほぼ確定のモンスター。

 モンスターというよりトラップとかに近い存在だ。


 こいつらはダンジョンの難易度に関係なく一定時間経過で現れる。

 この『一定時間』が厄介。

 この時間の幅にかなり乱数にバラツキがあるのだ。


 俺の目から見てもマルク一行の攻略が遅いとは思えない。

 確かに慎重に、安全に進んでいた。

 だが、それは悪いことではない。

 むしろ無策に突っ込むよりよほど正しい攻略の仕方だ。


 今回は運悪くサイコロの出目が最悪だっただけ。

 ただ、それだけのことだ。

 この不確定さがダンジョンの面白さでもあり、怖さだ。


 フィールドエネミーの強さは異常。

 階層主の100倍くらいの強さといえば分かりやすいか。


 端的に言うとそもそも倒されるのを前提とした強さではない。

 転移罠&石壁の即死トラップと同様、理不尽の権化。

 そう考えた方が良い存在である。


 唯一の救いがあるとすれば存在強度が強すぎるせいで、

 距離が離れていても視認できること。

 だから、恐ろしいとも言えるのだが。


 それがマルクたちに接近しつつあった。

 距離にして5ブロックといったところ。

 このペースだと確実に追いつかれるだろう。


(ここはさすがに大人の出番だろうな。お節介をさせてもらうとするか)


 マルク一行が視界から消えたのを確認。


壁破壊デモリッション!」


 俺は壁を破壊し一気にフィールドエネミー『死神』に接近。

 霧の指輪は外している。

 フィールドエネミーの注意をこちらに向けるためだ。


 死神との接敵まであと1ブロック。

 ターゲットをマルク一行からこちらに切り替える。

 死神は振り返り、俺を刈り取るべき獲物として認識している。


 突如壁を破壊し現れた冒険者にも怯みもしないとは。

 そもそもこいつらは知性や感情をもった生物ではないのか。

 いや、どちらでもいいことだ。


「恨みは無いが死んでもらうぞ、死神」


 俺はメイスを構えるのであった。



    *



 SIDE:マルク視点


「ふぅ。やっと振り切れた!やったねマル。あーし、マジで死ぬかと思ったよ」

「俺も今回ばかりは死を覚悟したぜ」

「ふぇえええん。びしょびしょなのよさ」


 みんな思い思いのことを言っている。

 さっきのはフィールドエネミーだ。


 パーティを全滅させるか、次の階層に進むまで追い続けるモンスター。

 それから逃げられるなんてことはあるだろうか……。


 それに、さっき後方で聞こえた轟音。

 あれと死神が追ってこなかったのと無関係とは考えづらい。



(……アリョーシャさん)



 いや。であるのであれば、言葉に出すのは無粋というものだろう。

 もしそうであるならば、言葉にすることでその好意を無にしてしまう。


 幸いなことにパーティの他のメンバーはそのことに気づいていない。

 であるならば、僕が黙っていれば良いだけのことだ。


 それに、あともう少しでこのダンジョンを脱出できる。

 なぜなら、僕たちはボス部屋の前まで辿り着いているのだから。


「ここがボス部屋だね。みんなちょっと休憩しないか?」


「マルに賛成。あーしもちょっち疲れたんよねー。足くたくたー」


「ルーナちょっとちゅかれたのよさー。着替えもしたいのよさ」


「俺もちょっと休みたい。さすがに逃げ疲れたぜ」


 ボス部屋の前で地面に座り込み小休憩。

 休憩せずにボスに挑むのはリスクが高すぎる。

 幸いにしてフィールドエネミー接近の気配もない。

 

「おーい、マル。あんま気張ってっと、腹減るだろ。これでも食え」


「おにぎりか。ありがとう」


 ステラの握っまん丸のたおにぎりだ。

 僕は手でつかみ、かぶりつく。


「うん。うまい」


「それ塩おにぎりよ。具なしだし、おいしくはないでしょ?」


「そんなことはない。おいしいよ」


 お世辞を言っているわけではない。

 握り方が良いからか空気が適度に入ってて固くない。

 それに、疲れた時はやっぱり塩だ。


 短い時間だが随分と身体は楽になっている。

 

「みんな、準備は大丈夫」


「おう!準備万端だ」


「右におなじー」


「ルーナも!」


 僕はボス部屋の扉を蹴飛ばし、勢いよくボス部屋に押し入るのであった。

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