第26話「後方腕組解説マン」
「トール。ウオークライで敵を引きつけて!」
「任せろ!お前の障壁魔法があれば俺は無敵だぜぃ!」
ウオークライ。
敵の注意を引き付け自身の防御力を向上させる戦技。
トールの雄叫びがダンジョンに響きわたる。
『KOO!!!!!OBORUTOOOOOO!!!!!!!』
注意を引かれたコボルトが雄叫びをあげながらトールに迫る。
トールは大盾を構え自身の前面に構える。
コボルトの戦鎚をトールの大盾が受け切り、パリィで弾く。
「いまだ!マルク」
「了解」
パリィによる反動で体幹をくずしノックバックしているコボルト。
マルクはすすすっと静かに距離を詰め、流れるような所作で抜剣。
コボルトの胴をズンバラリと両断。そして、納剣。
ところ、この謎の後方腕組解説マン。
それは俺だ。俺ことアリョーシャだ。
いまは霧の指輪で気配を消し後ろから見守っている。
うーむ。なのだが、これは俺が手助けする必要は無さそうだ。
初めてのダンジョン攻略とは思えないほどの手際の良さだ。
「すまない。ルーナ、回復を頼めるか」
「はーい。まかせてなのよさ!ヒール!」
トールがコボルトによって受けたダメージが急速に治癒する。
「ルーナ、なかなかやるじゃん。あんがとよ!」
「どういたしましてなのよさ」
回復も忘れずに慎重にダンジョンを攻略する。
うむ。素晴らしい連携だ。
「おーい。マル。こっちこいよ。宝箱があんよー」
俺に胸を当ててくる少女、ステラだ。
同じ歳の子にはフランクな口調で驚いた。
と、同時に年相応で安心した。
「さすがステラだ。昔から失せ物探しとか、得意だったもんね」
「まっ、あーしは人族の父とハーフリングの母とのハーフだかんね。手先の器用さ、目の良さは母親似なんだろうねー。どーでもいいけどねーっ」
ステラは宝箱の前であぐらをかきながら肩を回している。
伸びをしたあとに腰のサイドポケットからを工具を取り出す。
宝箱の解錠に使うための基本的な道具だ。
宝箱の鍵穴に差し込みカチャカチャと解錠を試みている。
「作業してる間暇だからさ、マル。あーしの話し相手になってよ」
「うん。構わないよ」
「マルク、あんた彼女とかいる?」
「いや、いないよ。そもそも出会いが無いからね。そういうステラは?」
「あーし?あーしはめっちゃアリョーシャさんにアプローチしてるんだけどねぇ、なんだか軽くあしらわれちゃって取り付く島もない感じ」
「まあ、仕方ないよ。アリョーシャさんにはリズさんがいるからね」
「そうなのよねぇ。アリョーシャさんとリズさんの関係見てるとちょっとむなしくなってくるのよね。確かにアリョーシャさんは素敵な人だけど、略奪愛ってのも、なんだか違う気がするし、リズさんもいい人だし正直最近しんどみがヤバいんだよね」
「はは。まあ、アリョーシャさんを好きになる気持ちは分かるよ。確かにリズさんは魅力的な人だし強力なライバルだね。でもね、僕はステラだって僕は十分にかわいいって思ってるんだ。それこそ、子供の頃から」
ステラは酸素の足りない金魚のようだ。
パクパクと口を開けたり閉じたり。
顔まで金魚のような色に染まっている。
「はあっ!?かわいいってなによぉっ!マルのくせにぃー!わけわかんないことを言うなぁあああー!!!この!天然たらし野郎ーーーーっ!!!!!////」
「ごめんごめん。でも、本当のことだから撤回しないよ。痛っ痛いよ、ステラ」
なんだろうか。
甘酸っぱい気持ちになった。
こんな甘酸っぱい青春を俺は味わってみたかった。
ステラの頬が赤く染まっている。とはいえ、集中力に乱れはない。
むしろ緊張がほぐれて、持ち前の器用さがいかんなく発揮されている。
マルクは涼し気な表情でステラの隣で解錠作業を見守っている。
宝箱の解錠作業。これは、実はかなり危険な作業だ。
端的に言うとダンジョン内での死亡原因の二位。
ちなみに死一位は、引き際の見誤りだ。
三位は呪いのアイテム鑑定。神官は死ぬ。
さて、宝箱の解錠の話に戻ろう。
失敗すれば爆発に巻き込まれたり、
転移罠で壁の中に飛ばされたりと、
まあタダじゃすまない。
実際、いまステラの隣に居るのはマルクと俺。
他の仲間は一旦、離れた場所で待機している。
これはマルクの指示によるものだ。
これで、最悪パーティ壊滅は防げる。
リスクヘッジの観点でも最善の判断といえよう。
そして、何よりステラに全てのリスクを押し付けず、
自身もリスクを引き受けることで士気を維持する。
こんなことができる冒険者はそうそういない。
「ふぅっ。マル、いっちょあがり!お宝ゲットだよ!」
「ステラ、おめでとう。やったね!」
二人は解錠の成功を祝い高らかにハイタッチをする。
カチャリという音がして宝箱が開く。
宝箱の中には青色の液体が満たされた小さな小瓶。
中に入っていたアイテムは、ポーション。
王都の商店でも買える一般的なアイテムだ。
とても命がけの作業には釣り合わない。
だけど、きっと二人にとっては特別な物になる。
そんなことを俺は思うのであった。
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