第25話「ダンジョンはじめました」
「べらんめぃ!神官のにーちゃんのために職人連中が本気で作った超・初級ダンジョン完成でい!このイヴァンさんと職人どもの汗と血と涙と鼻水が染み込んだ、ダンジョン自身も進化成長する当代きっての大傑作。とくとご覧あれい!」
汗と血と涙まではわかる。
ただ、鼻水だけはできれば染み込ませないで欲しかったかもしれない。
それはともかくとして、驚くほど立派なダンジョンだ。
はためからは何かの神殿のようにすら見えるだろう。
金をかけた甲斐があったというものだ。
工賃は
降って湧いた幸運。濡れ手に粟みたいなもんだ。
悪銭、とまでは言わないまでも真っ当な方法で稼いだ金じゃない。
こうやってパッと使ってしまった方が良いだろう。
そんなことを考えていたら俺の隣でリズさんがつぶやく。
「本当に立派なダンジョンですね。まるで神々の住まう神殿。アリョーシャ。孤児院の子どもたちもここ最近はずっとワクワクしていたんですよ。この孤児院の子たちは将来はアリョーシャに憧れて冒険者になりたいって言っている子も多いんです。そんな子達にとっては、これ以上にないほどのプレゼントでしょう」
子どもたちの憧れの職業ナンバー1が冒険者。
実際、俺も冒険者。悪くない選択だと思う。
まず常に人手不足でとりあえず仕事に困ることはない。
それに一流の冒険者ともなればそれなりの富を築くこともできる。
(そもそも、この世界と前の世界では大きな違いがあるんだよな)
この世界と前の世界との一番大きな違いは地下資源だと思う。
この世界では地下をどんなに掘っても石油や天然ガスは見つからない。
その代わりに大気中に
無限に近い資源を産み出すダンジョン。
この世界の人間にとっては必要不可欠なもの。
死と隣りあわせではあるがその活動の恩恵はあまりに大きい。
冒険者無しには文明はなりたたない、それがこの世界。
俺は、竣工式を最前列で見ているマルクに声をかける。
「マルクくん。最初にこのダンジョンに挑戦してみないかい?」
「アリョーシャさん、僕で良いんですか?」
「ああ。君にこそ頼みたい。ダンジョン攻略において、マルク君のような冷静に指示をだせる人間が不可欠だ。パーティを組んでダンジョンを探索して欲しい」
迷宮ノ竜戦の時のスマートな立ち回りをみて確信した。
マルクくんはパーティプレイで力を発揮するタイプだ。
回復もこなせる聖騎士ならいざという時もリカバーしやすい。
あとは、性格だ。マルクは基本的に冷静。
トラブルにあっても大きく取り乱すことはない。
そんな人間が1人パーティに居るだけで生存率は大きく高まる。
成長すればきっと精神的な支柱になれる器を持っている。
パーティのリーダー役としては適任だろう。
「アリョーシャさん、孤児院の子たちに声をかけてきました。今回は前衛2人、後衛2人でパーティーを組みました。これで問題ないですか?」
「ああ。まったく問題ない」
最終的には以下のメンバーで迷宮踏破をすることになった。
前衛:マルク(聖騎士)
前衛;トール(重戦士)
後衛:ルーナ(賢者)
後衛:ステラ(狩人)
全員上級職だ。
これは洗礼名を授ける時にちょっとだけおまけしたからだ。
さらに四人のうち二人人魔法が使える。
この編成であれば攻略も問題ないだろう。
エレとニュクスは留守番だ。
この二人はちょっと強すぎる。
この二人がいたらなんの訓練にもならなくなってしまう。
(さて、それじゃ俺は霧の指輪を装着、と)
指輪を装着すると限りなく完全に俺の気配が消える。
マルクが指揮する以上万が一ということはないと思う。
だが念のための同行だ。
あと、ちょっとした好奇心。
かくして、俺は子どもたちの初のダンジョン攻略を見守るのであった。
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