第22話「神ちゃまの舞い」

「ということがあったんだ」


 仕事帰りのリズさんに今日あった出来事を話した。

 神ちゃまを自称する女の子に会ったこと。

 そして、しばらくはこの孤児院で預かることにしたこと。


「ギルドの方で子供の人探しの依頼とか見なかった?」


 失せ物探しはギルドの得意分野。

 それこそ『迷い猫探し』が冒険者の第一歩。

 そう言われるほど冒険者にとっては一般的な依頼だ。


「ギルドに入っている依頼についてはすべて目を通していますが、少なくとも今話しに出てきたような幼い子どもの人探しは……。心配ですね」


 普通はまずギルドに相談する。

 財布を落としたらまず警察みたいな感じだ。

 それが無いというのはあまりにも不自然。


「これは想像したくない想定ですが、ご両親はなにかのトラブルにあっていて、ギルドに報告できない状態なのかもしれません」


 俺もその可能性が一番高いと踏んでいる。

 身なりが綺麗で虐待されてるような様子もない。


 神ちゃまの『トト様、カカ様』という呼び方と態度。

 家庭不和が日常だったとも考えずらい。

 

「考えても結論は出なさそうですね。今日のところはここまでにしましょう。明日、朝イチで私の方からギルドに依頼を出します。アリョーシャからの依頼ということにしても問題ないですか?アリョーシャの依頼なら多くの冒険者が動いてくれます」


「ああ、全く問題ない。リズ、いろいろと負担をかけてすまない。そしてありがとう。でも俺にそんな人徳はないよ。報酬はとりあえず金貨100枚で始めよう」


 金貨100枚。1年は豪遊できる額だ。

 もちろん少なくはない額だが、この辺りが上限だろう。


 あまり値を吊り上げたら逆に悪目立ちだ。

 要らぬトラブルを招くことにもなりかねない。


「わかりました。その内容で依頼をかけます。神ちゃまさんのご両親が無事であることを祈りましょう」


 人探しをする時はその数こそが正義。

 ひとりでは限界がある。

 王都のギルドともなればこれ以上頼りになるものはあるまい。


「そろそろ私たちも外にでましょう」

「ああ、舞いか」


 一宿一飯の御礼に舞をみせたいそうだ。

 そろそろ舞が始まる頃だろうか。

 俺たちは二人で外に出る。


 今日は満月。

 子どもたちもちらほらと集まりだしている。


「ちょいちょいちょい♪

 ぽんぽんぽん♪

 ちゃんちゃんちゃん♪

 あたちがおどれば♪

 よよいのよいっ♪」


 謎の祝詞のりもをうたいながら舞い踊る。

 なんともかわいらしい踊りだ。

 舞いというか盆踊りみたいな感じだが。

 というかお遊戯か。


 舞を近くで見ていた子供たちから歓声があがる。


「しゅっごーい。ちゃまが踊るとお花がいっぱい咲くの」


 最年少の女の子。ルーナだ。

 踊ると花が咲く?

 何かの見間違えでは?


「うわあ素敵。これはアリョーシャ様の起こした奇跡ね!」


 まったく違う。俺は後ろで見てるだけだ。

 この子は年長の女の子、ステラだ。


 スキあらば胸を当ててくるし、ちょっと対応が難しい子だ。

 好意はありがたいのだが、それはそれ、これはこれだ。


 王都にでも出ればいろんな男にあって、もっと視野は広がるだろう。

 そうなれば今の俺への想いははしかみたいな物だと気づくはずだ。



「うーん。あの子、私よりも遥かに高い魔力を持っているわ。いや、魔力じゃなくて存在としての格といったほうが正しいかしら。魔力操作で無理やり成長させているんではなく、草花が自らの意思であの子を讃えるために花を咲かせていると言うか」


 

 魔族の王ニュクス。

 魔力量ではなく魔力操作の練度にかけては右に出るものはいない。

 そんな彼女が称賛するのだからきっと凄いことなのだろう。


「それはどれくらい凄いことなんだ」

「そうね。少なくとも、現代の魔族で同じことができる人は存在しない。もちろん人間にも。こんなことが出来るのは……いえ。ありえないことね」


 ニュクスはふと湧き出した仮説に一笑して黙った。


「私が分かるのはここまで。ともかく彼女は特別よ。それだけは、間違いない」


 ニュクスはそれ以上語らなかった。

 俺もそれ以上問わなかった。


 ただ月明かりに照らされた神を名乗る少女の舞を見守るのであった。

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