第21話「神ちゃまがきまちた」
ここは俺の部屋。
今はリズさんの部屋でもある。
そして今は朝。
リズさんは手際よく身支度をととのえている。
三面鏡の前で左手の薬指を写して見ている。
キラリと銀色の指輪がきらめいた。
その後に「よしっ」と自分を鼓舞していた。
リズさんはこれからギルドに出社だ。
目つきがキリッとしている。
ギルド出社前の戦闘モードだ。
がんばれリズさん。
「アリョーシャ。行ってきますね」
「行ってらっしゃい。リズ」
俺はちゅっと頬に唇をつける。
あの日からちょっとした変化はあった。
その一番大きなものは呼び名だろう。
お互い『さん付け』なしになった。
あと出かける時にちゅっするようになった。
まあ、いまいち慣れないので心のなかでは、
ひそかにいまだに『リズさん』と呼んでいる。
関係は一歩前進というところだろうか。
リズさんはいつも素敵だ。
優しく気立てがよく笑顔がかわいい。
日向のような女性。
一言でいうとえっちな気分になる女性ということだ。
悪いか。さすがにこれはちょっとひどいね。すまん。
「さて。ニワトリにエサをやりにいきますか」
さて今日は良い天気だ。
いわゆる小春日和というやつだ。
俺は雑穀の入った麻袋を可抱えている。
そこらで普通に売ってる普通の雑穀。
ニワトリが好んで食べるので試しに味見してみた。
普通にまずかった。
俺にはニワトリの気持ちが分からない。
麻袋に手を突っ込んでる雑穀をふあさーっと撒く。
しばらくすると放し飼いにしてるニワトリがやってきた。
無節操にエサをやってたら殖えすぎないのかって?
心配ご無用。孤児院のニワトリは一定の数を維持している。
適度にニュクスがキュッとしめて頭数管理をしてる。
たまにリズさんもニワトリをキュッとしめてる。
それは見てみぬことにしている。
ニワトリの数がいつもより少ないかなぁ?
そう思ったらその日は大抵チキンソテーが出てくる。
こんなにかわいいのに。
悲しいほどに美味しい。
エサをやってるせいかニワトリは人になついている。
子どもたちが近づいても逃げない。
まあ、そうは言ってもやはり野生だ。
油断してはならない。
俺はかわいいなと思って抱きしめた時がある。
そしたら爪むき出しで顔にキックをされた。
マジでめっちゃ血が出たし痛すぎて泣きそうになった。
あやうく失明するのではないかと焦った。
所詮は畜生。人間の愛は届かない。
ニワトリに遅れを取るとは部士道不覚悟。
武士でもなんでもないんだけどね。
そんなことを考えてたら前方から影。
「こんにちは。神ちゃまがきまちた」
「こんにちは」
知らない子だ。たぶん10代前半くらいの女の子。
半分脳が寝ていたのでリアクションが雑になった。
神ちゃまねぇ。うーん。神。神かぁ。
確かになんとなく神的オーラ的が出ている気がする。
後光が差しているというかなんというか。
いやよく考えたらそう見えるのは彼女が太陽を背にしてるからか。
きらびやかな服を着ている。
ちょっと巫女っぽい?
なんというか民族衣装をきている。
どっかの貴族の子だろうか?
周りに保護者が見当たらない。
子供がひとりでこんなとこに来るとも思い難い。
となると……。なるほど、わからん。
「俺はアリョーシャ。お嬢ちゃんどこから来たの。お名前は?」
「天界からはるばるやってきまちた。お名前?神ちゃまっ!」
神ちゃまってのは名前のことだったのか。
カミ・チャマみたいな感じか?
うーん。やっぱり神ちゃまでいいや。
どうせ偽名だろうし。
ふーん。それにしても天界かぁ。
この歳で随分と設定を盛るね。
この子は将来有望だ。
「ところで、アッくんはなにしてる?」
「俺?俺ね。雑穀を撒いてた。やる?」
神ちゃまはうんうんと頷いた。
俺は携帯用雑穀麻袋を渡す。
神ちゃまはふぁさーっと撒くとニワトリが寄ってきた。
かわいい。触りたいというので撫でさせた。
ニワトリは凶暴なので俺がちゃんと監視した上でだが。
ふと、俺はいったい何をしているのだろう。
一瞬我に帰った。我に返ったあとに思い出した。
スローライフだ。
雑穀を撒いている時に小さく「くぅ」とおなかがなった。
もちろん俺のおなかではなく神ちゃまのだ。
俺のおなかはそんなかわいい音を発しない。
「神ちゃまおなかすいたの?サンドイッチあるけど食べる?」
「おなかがつきまちた。おめぐみいただけるとたすかるのです」
恥ずかしそうにしているのは年相応といったところか。
俺はバスケットをあけ、その中の一つを差し出す。
リズさんが作ってくれたサンドイッチだ。
サンドイッチの具は前日の夕飯の残りが活用されている。
昨日の夕飯はチキンソテーだった。
粗挽きマスタードと一緒に食べるとめちゃくちゃうまかった。
なので今日は肉系のチキンサンドだ。
肉は細かく刻まれ、ケバブっぽい味がしてめっちゃうまい。
昨夜の食材を刻んだりスパイスで味変してアレンジしているのだろう。
「とってもおいちいのです。アッくんありがとうでつ」
「どういたしまして」
そんなこんなで彼女の両親が見つかるまでの間という条件だが、
神ちゃまなる女の子をを孤児院で預かることになったのであった。
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